朝4時30分に起床する。事務室へ降りて、携帯電話のディスプレイを見る。
ウェブショップ のシステムが新しくなっても、注文が入るたびに僕の i-mode へそれを知らせる仕組みは引き継いだ。ところがいままでは Subject のみが送られてきていたにもかかわらず、今回からは注文の全文はおろか、uwasawa@tamarizuke.co.jp に入るすべてのeメイルが転送されるようになってしまった。
"Computer Lib" のナカジママヒマヒ社長に設定を変えるよう頼んだところ、数日間の転送途絶を経て、今朝からはまた注文だけが、それも Subject のみが送られてくるようになった。
ブラウザにパスワードを打ち込み受注ペイジへ行って、注文の数と i-mode に転送されたそれの数が合っていることを確認する。
きのうの日記を作成する。1、2通のeメイルをアップする。
朝飯は、煮玉子、キャベツのおひたし、緑と赤の焼きピーマン、ナスの炒め煮、納豆、メシ、豆腐と万能ネギの味噌汁。
午前中、「ふるほん文庫やさん」 から
朝4時30分に起床する。
きのう本酒会のサイトウマサキ会員からもらった芝居のちらしを見る。緒方拳と篠井英介と冨樫真が、マンホールの丸いフタや水道メイターの四角いフタの並ぶ狭い道を歩いている。右手前に 「雪むら」、その奥に 「麦とろ澄」、どん詰まりに 「ポエム」 というバーが見える。この路地が、神楽坂の 「みちくさ横町」 だということが分かる。
「事務室に降りていつもの仕事をこなす」 という一節は、これから徐々に日記から消えていくだろう。
いままでウェブショップの注文は、会社のメイルボックスに送られてきていた。その文字と数字の集積を僕はマクロで整形し、誰でも読める形にして会社のpatioへアップした。それを出勤した事務係が発送伝票に起こし、顧客には僕が 「ご注文御礼」 という名の受注確認書を送付した。
6月26日以降、ウェブショップの注文は、ブラウザにパスワードを打ち込んで読みに行く形に変わった。受注作業は事務係が行う。僕の仕事は 「ご注文御礼」 を書いて送るのみだ。
というわけで、朝、僕が事務室で行うことは、きのうの日記の作成とeメイルの送受信、それに諸々の不定形業務の3つとなった。
朝飯は、キュウリとナスのぬか漬け、ピーマンの油炒めカツオブシかけ、ホウレンソウのゴマ和え、煮玉子、納豆、メシ、シジミと万能ネギの味噌汁。
どんよりとした梅雨空にて、窓からの光が少ない。朝飯の撮影に際して、久しぶりにストロボを焚く。
9時すぎに、ここ3週間ほどの血圧推移表を持って岡村医院へ行く。表には酒と晩飯を抜いた日も添えてある。
「週に晩飯を2度抜けば、週に採る21回の食事のうちの1割を減らしたことになる。これで栄養の摂取も1割減る計算になる」 と言うと、医師は 「そういう考え方は、やめた方がよい」 と苦笑いをする。わけを訊ねると、「断食の次の日には、いつもよりも余計に食べてしまうだろうから」 と答える。
「自分に限って、そのようなことは無い」 と言う。
「酒を抜いた翌朝でも、血圧の下がることはない」 と、血圧推移表の何ヶ所かを指すと、医師は現行の降圧剤にプラスして別の減圧剤も処方した。甘味が足りなければ砂糖を増やす。血圧が落ちなければ減圧剤の量を増やす。簡単なレシピだ。
荒井腎医院へ回って、足の指のカサカサしたところへ塗る薬を買う。10時45分に帰社する。いまだ印刷の終わらない大口注文の荷札がある。
ことしの春からヤマト運輸は、行き先を示す地域コードに換えて、郵便番号を用い始めた。郵便事業に乗り出すための布石だったのだろうか。それまで地域コードは、ヤマト運輸の運転手が調べて荷札に書き入れていた。いまでは客が送り先の郵便番号をいちいち探し、自らこれを記入しなくてはならない。
国の事業を民営化することには賛成だが、「民」 が 「官」 の不便なシステムを受け継ぎ、サーヴィスの質を落とすことには反対だ。
つかはら看板が、店舗向かい側の古い看板を外して 新規のものに交換する。今年になって塗り替え、あるいは新調した看板は5枚になるだろうか。
夕刻になって、皇居の近くにある料理屋さんから急ぎの注文が入る。即、発送伝票を現場へ運び、今日の便に間に合わせる。
スモークトサーモンとトマトのクリームソース、ジャガイモとトマトのグラタン、ジェノベーゼソースのスパゲティ を肴に、"Domaine Leflaive Bourgogne Blanc 1997" を飲む。
テレビで韓国対トルコの、ワールドカップサッカー三位決定戦が始まる。開始早々に、双方がひとつずつ得点する。入浴してアミールSを飲む。ベッドで 「夜光虫」 を読み始めるが、眠くて仕方がない。9時前に就寝する。
暗い中で目が覚める。しばらくじっとしているが、眠くはならない。起きて居間へ行くと、電波時計が2時30分を示している。昨夜は10時30分の就寝だった。3時間30分の睡眠だったが、眠くないのだから問題はないだろう。
事務室へ降りてBecky!を回すと、「ふるほん文庫やさん」 から 「探求書回答案内」 という表題のeメイルが届いている。その本は
朝6時30分になって、ようやく目を覚ます。
事務室へ降りて ウェブショップ にパスワードを打ち込み、きのう完成したばかりの受注システムで注文状況を確かめる。メイルマガジンの効果もあってか、いつもの数倍あるいは10倍ほどの注文が入っている。
同時に Becky! を回し、メイルをダウンロードする。きのうまでの古い受注システムを経由した注文が数件入っている。悪い予感がする。中にはご自宅宛のみが新しいシステムを経由し、ご自宅以外のご注文は古いシステムから入っているケイスがある。何がなんだか分からない。
その顧客からはeメイルにて、「自宅宛については即、自動送信による確認書が来たけれど、自宅以外の注文については、なんの確認もできない」 というクレイムが届いている。
"Computer Lib" が始動するまでは、気を揉んでも仕方がない。エレヴェイターに乗って自室へ戻る。
朝飯は、ジャコと大根おろし、オクラと鶏挽肉の煮びたし、目玉焼きと焼きピーマン、ホウレンソウのおひたし、納豆、メシ、豆腐とワカメと万能ネギの味噌汁。
10時を過ぎて、ようやくマヒマヒ氏と連絡がつく。
「あぁ、だってそれは、トップページから以前の受注システムにも、リンクしてますから」
マヒマヒ氏はことなげもなく言った。
「それはマズイでしょう、古い受注ペイジはサーヴァーから削除しましょうよ」
「いや、検索エンジンを経由して古い受注ペイジに来る人もいますよ。削除したらもったいないでしょう」
結局、古い受注ペイジはそのまま残し、注文ボタンをクリックしたところで、新しい受注ペイジにリンクするよう、マヒマヒ氏が作り替えることになる。
ご来店や電話、ファクシミリによるギフトの受注については、きのうの仕事が今朝に持ち越される。今日の受注の一部は、明日の朝に持ち越されるだろう。そういう忙しさの中で、社員と手分けをしてウェブショップからの注文を処理する。顧客に対してeメイルを打ち続ける。
エクセルによる100名を超えるギフト送付先名簿が、eメイルに添付されて送られてくる。それを マイツール に移し、住所を北から順にソートし、商品代金と送料を計算してプリントアウトする。
現場へ行くと、袋詰め部門から荷造り部門に、いくつものアイテムが追加して運ばれている。普段の何倍もの発送品が、何枚ものパレットに載せられていく。
やはり今日の受注は、今日中には伝票処理できなかった。納期が徐々に延びていく。
終業後は自宅へ戻り、次男の宿題を見ながら、いまだ出来上がっていない一昨日の日記を作成する。今日は酒と晩飯を抜く日だ。ビール酵母とヨーグルトのシェイクを摂取し、再び事務室へ降りる。
9時30分に、きのうまでの日記を完成させる。一昨日の日記をサーヴァーへ転送する。最後は疲れた右腕をかばい、左手の指で必要なメイルを打って諸方へ送る。
入浴してアミールSは飲まず、10時30分に就寝する。
目覚まし時計が鳴る。目を覚ます。7時になっている。ベッドへ入らず、ベッドカヴァーの上に直接寝ている。パジャマは着ている。シャワーを浴びた記憶は無い。浴びたかも知れないし、浴びなかったかも知れない。
自室を出てキッチンへ行くと、テイブルの上で ThinkPad s30 が、3つのエラーメッセイジをディスプレイに映してフリーズしている。昨夜、正確に言えば今朝、甘木庵に帰ってから仕事をしようとしたらしい。
電源コードを抜き、バッテリーを外す。コンピュータをフリーズから復旧させる。数通のメイルを送受信する。ウェブショップ の受注をこなし、会社のpatioにアップする。
春日通りを北から南へ横断して洗濯屋へ行き、戻って諸々を荷造りする。吉田カバンのショルダーバッグに、ThinkPad や携帯電話やサイフを入れてこれを肩にかける。傘を差して外へ出る。手には大きな段ボール箱を持っている。無理な姿勢で100メートルほどの距離を歩く。
本富士警察署裏の本郷第四中学校が廃されて、広大な空き地にヤマト運輸の本郷営業所ができた。段ボール箱の荷物を家へ送る。
「たつみ屋」 で朝飯を食べている時間は無い。本郷三丁目交差点ちかくの 「腹時計」 にて、おにぎりを2個買う。それを手に持ったまま、本郷通りの車道を南東に向かって歩く。タクシーがなかなかつかまらない。順天堂大学前から水道橋への坂を下っている最中に、ようやく空車が来る。神保町の交差点までタクシーに乗る。
"Computer Lib" のナカジママヒマヒ社長に、でき上がったばかりのウチのポロシャツを進呈する。毎週のように神保町へ通い、2ヶ月をかけて新しいウェブショップを作り上げてきた。いよいよ今日が完成の日となる。
はじめ、ほとんど描き上がった油絵にアクセントの濃い色を少しずつ載せていくような作業を行う。次に、この5年間のウェブ商売で得たお客様へメイルマガジンを送るため、「一括メール」 をインストールする。
1ヶ月も前から準備しておいたメイルマガジンを、ライフル銃に弾を込めるように、「一括メイル」 に装填する。
「ナカジマさん、送っていいかな?」
「うん、いいよ」
「送信」 のボタンをクリックすると同時に、すごい勢いで数百通のメイルが僕のコンピュータから発射される。
「すげぇな」
「うん、すげぇすげぇ。これ、同報メールじゃねぇからさ、ひとりひとりに1通ずつ送ってるからさ」
やがて大波が押し寄せるように、送ったばかりのメイルマガジンが僕のメイルボックスへ殺到する。
「バウンスか?」
「あぁ、バウンスだな。87通だって」
「5年前からの蓄積だからな、このくれぇのバウンスはしょうがねぇだろう」
「あぁ、しょうがねぇ」
「乾坤一擲」 に 「サイハナゲラレタ」 とルビを振ったのは、開高健だっただろうか。いまこの瞬間から、パソコン通信の時代にテキストのみで始まったウチのオンラインショップは、次の世代に突入した。やることはやれたのだろうか? いまだし残していることは、あるのだろうか?
とりあえず今日は、ひとりで祝杯を挙げることにする。地下鉄半蔵門線と銀座線を乗り継いで銀座に出る。
霧雨の中を歩いて三州屋の銀座1丁目店へ行き、焼きハマグリを肴に常温の日本酒を飲む。この店の焼きハマグリは、食べる前に酢をくぐらせるのがしきたりだ。外はいまだ昼のように明るい。僕ひとりしか客のいない三州屋の磨りガラスに、外を歩く人の姿が薄くぼんやりと現れては消える。
豚の角煮を追加する。この店のスッとした細長い徳利の酒は、中々に飲みでがある。温かくもなく冷たくもない常温の日本酒を、ゆっくりと口へ運ぶ。馳星周の 「夜光虫」 を読む。
京橋からふたたび地下鉄銀座線に乗る。浅草駅19:00発の下り特急スペーシアは、僕が車内の通路を自分の席まで歩いているあいだに動き出した。座って肘掛けから折り畳み式のテイブルを引き出し、コンピュータを載せる。電源スイッチを入れる。
気がつくと下今市駅が近くなっている。コンピュータが、何の仕事も与えられないままその電源を切られる。吉田カバンのショルダーバッグを肩にかけ、傘を差して夜の道を歩く。
9時に帰宅する。入浴してアミールSを飲み、10時に就寝する。
朝3時に起床する。
ウェブショップ の受注をこなす。数通のeメイルを送受信する。きのうの日記を作成する。
「企画屋」 から "Computer Lib" へサーヴァーを移して以来はじめて、アクセスログがeメイルにて送られてくる。これから毎日届く予定のこのログを、マイツール上にデイタベイス化するマクロを組む。
朝飯は、豆腐の卵とじ、シラスおろし、ピーマンとニンジンのキンピラ、納豆、ツナとレタスのサラダ、メシ、厚揚げ豆腐とミョウガの味噌汁。
夏の大口ギフトを申し込んでくださることは確実だが、いまだ連絡の無い顧客へ、営業の電話をお入れする。即、ご注文をいただく。その最中に別の電話が鳴り、別の大口顧客がご注文をくださる。
こういうことが、夕刻までに何度も繰り返される。そのたびに製造現場へおもむき、顧客の希望する納期を可能にするための調整をする。
下今市駅16:03発の、上り特急スペーシアに乗る。車内にて数通のeメイルを書く。
北千住で地下鉄日比谷線に乗り換え、6時10分に六本木の地上へ出る。霧雨が降っている。俳優座1階のバーで、自由学園の同級生コモトリケイ君と部下のフジサキアキラさんのふたりと待ち合わせている。フジサキアキラさんは僕の遠縁にあたる。ふたりは生ビールを飲み干したところだった。
僕は何も飲まず、3人で外苑東通りを防衛庁の方向へ歩く。反対側の歩道へ渡り、あるビルの螺旋階段を降りる。北京料理屋の 「龍坊」 にて、イサキの清蒸、クルマエビのフリット甘酢がけ、豚のスネのトロトロ煮 などを肴に紹興酒を飲む。
この店のオーナーには、25年ほども前、代官山にある勘八系の鮨屋でおごってもらったことがある。「龍坊」 の代金は、コモトリケイ君が支払った。
ふたたび霧雨の雑踏に出て、次の店へ向かう。コモトリケイ君が口を開く。
「おめぇ、1週間に2度も酒を抜いてるらしいじゃねぇか。そういう不規則なことをしてるからダメなんだよ。オレみてぇに0時まで酒を飲んで、1時すぎに帰って、翌朝6時に起きて会社に出て、また0時まで酒を飲んで。そういう規則正しい生活の方が、健康には良いんだ」
横断歩道を2本渡り、瀬里奈のある細い道へ入る。東京オリンピック前夜、当時の大学生たちが遊んでいた雰囲気のバー "CINQUANTA e CINQUANTA" への階段を上がる。
カウンターの小さな白黒テレビが、ワールドカップの韓国対ドイツ戦を映している。小さなスピーカーの限界を超える大きなひび割れた中継音が、店の中に満ちている。それと重なるようにして流れる Tom-Waits の "used songs" が、僕の心を鷲づかみにする。ネグロニを飲む。
僕が 「ここはオレが払うから」 と周囲に伝えたしばらく後に、女のお客のひとりが 「私きのう、30歳になったんです」 と言う。コモトリケイ君が 「それはめでたい、シャンパンを抜こう」 と宣言する。「シャ、シャンパン?」 と一瞬、思ったが 「この店の名前からして、スプマンテしか置いていないだろう」 と、たかをくくる。
何時間も飲み続ける。ふと気がつくと、30歳になったばかりの女の子に、コモトリケイ君が体脂肪を計らせている。「深夜プラス1」 の原題は "midnight+1" だっただろうか。時計を見ると、0時を30分過ぎている。
勘定を済ませて店を出る。六本木通りを横断する。溜池に向かって左側の歩道を歩く。タクシーに手を上げる。「春日通り、本富士警察まで」 と運転手に伝えて眠りに落ちる。
朝4時30分に起床する。
北東の空の高いところに薄く雲が広がっている。その雲の名前を、僕は知らない。それほど遠くないところから、「カッコー」 という鳥の鳴き声が聞こえてくる。その鳥の名前を、僕は知らない。僕は何も知らない人間だ。
事務室へ降りていつもの仕事をこなし、昨日の日記を作成する。
5時30分、"Computer Lib"の中島マヒマヒ社長へ向けて、新しいウェブショップの最後の詰めと、いまだに出続けるバグについて質すeメイルを送る。7時に、その返事が届く。
同じく7時、自由学園 の同級生コモトリケイ君に、「あした一緒に飲めるか?」 とのeメイルを送る。7時40分に、会社のアドレスを用いた 「飲酒可能」 の返事が届く。この時間から出社しているとは驚きだ。
eメイルへの素早いレスポンスが生むものは大きい。eメイルへの鈍い対応が失うものも大きい。
5月の初め、宇都宮のとある印刷屋の常務へ商品発注のeメイルを送った。以降いままで返事が無い。電話をしてみると、「申し訳ありません、直ちに伺います」 と言う。商品は他社へ発注し、既に納品された旨を伝える。
eメイルの読み書きができないなら、名刺にメイルアドレスなど刷り込まないことだ。この不況時に、こういうだらしのない経営者のいることが信じられない。長年のつきあいと多額の取引が、たった1本のeメイルの扱いによって失われていく。
朝飯は、ナスの炒め煮びたし、ピーマンとニンジンのキンピラ、キュウリとカブのぬか漬け、トビウオの塩焼き、納豆、メシ、カブとミツバの味噌汁。
自由学園の寮で暮らす長男に、読み終えた奥本大三郎の 「虫のゐどころ」 を送る。
9時20分に、大桑小学校の3年生が会社見学のため訪れる。最深奥部の味噌蔵から店舗へ至るまで、その場に即した説明を加えながら案内をする。最も時間を要するのが最後の質問コーナーだが、僕にとってはそれが最も楽しい時間となる。
10時30分から、事務室にて通常の仕事に就く。注文の電話を受けてメモをする。それを伝票に仕上げる前に次の電話が鳴る。注文のファクシミリが入る。それを伝票に仕上げる前に次のファクシミリが入る。大口の注文をこなしている最中に、次の大口注文が入る。しかしこの程度の繁忙は、いまだ中くらいのものだろう。
片山酒蔵のカタヤママサクニさんが急に亡くなったという知らせを受けて、夕刻、家内とお悔やみに行く。
40年ほども前のカタヤママサクニさんは、素肌に荒く編んだ毛糸のセーターを着て、巨大なキャデラックを操縦していた。助手席へ乗せてもらい、デフロスターの穴について質問をすると、「そこは鼻クソを入れるところ」 と、教えてくれた。
20年ほども前、カタヤママサクニさんは僕の結婚式にシルヴァーグレイのギラギラ光るタキシードを着て、素晴らしい乾杯の辞を述べてくれた。
死んでしまったカタヤママサクニさんは、とても小さく見えた。
帰りに町なかのスーパーマーケット 「かましん」 へ寄る。家内は2000円しか持っていない。僕は一銭も持っていない。レジで恥をかかないよう、赤ピーマンを買って 「100円、100円」、納豆を買って 「計250円、250円」、パンを買って 「計400円、400円」 と、現在の買い上げ金額をダミ声で唱えながら買物をする。
会社へ戻り
朝4時30分に起床する。いつもの朝の仕事をこなし、きのうの日記を途中まで作成する。
6時30分に甘木庵を出る。家内と共に湯島の切り通し坂を下り、湯島天神下から上野広小路までの道を、頭上にカラスの声を聞きながら歩く。
東京の多くの盛り場では、夜中のうちに出されたゴミ袋を朝方カラスが突き破り、路上に残飯やその汁が散乱して、あまり気持ちの良くない匂いを周囲に発散している。
銀座などでは人通りが繁くなる前に、各ビルに雇われた掃除人が舗道を水で洗っている。銀座以外の地域では、汚れは放置されるか、あるいは申し訳程度の清掃で済まされている。
フタの付いたバケツにて路上へゴミを出すと、それを回収する都職員の手間が増えるというような理由から、結果として東京の盛り場は、長年にわたって烏のエサを供出し続けているのだろうか。
東武日光線の浅草駅には7時前に着いた。7:30発の下り特急スペーシアの切符を買う。
家内は朝飯に好んでパンを食べ、僕はほとんど米飯による朝飯しか認めない。家内は新仲店入り口にある "Excelsior Cafe" へ行き、僕は地下道にある 「会津屋」 にてベイコンエッグ定食を食べる。
下今市駅に着くと、傘を必要としないほどの微弱な霧雨が降っている。徒歩を嫌う家内がタクシー代を出すというので、僕も便乗をする。
10時前に帰社する。午前中の店舗は割合と静かだったが、昼ごろから急に忙しくなる。忙しさは夕方まで、なかなか収束しなかった。
販売の社員と、この1週間の反省会をごく短時間持ち、自宅へ戻る。次男の宿題の最終部分につきあい、晩飯として、ビール酵母とヨーグルトのシェイクを摂取する。
7時から春日町公民館にて、夏のお祭りについて話し合いをする。7月11日から15日の間は、なにかと僕も町内の用事を引き受けることになるだろう。
8時に帰宅する。入浴してアミールSを飲み、9時前に就寝する。
朝5時に起床して思い出したが、昨夜シャワーを浴びた直後から、左の足首から下がしびれている。まさか脳梗塞ではないだろう。その部分へ至る神経が、どこかでショートしているのだろうか。
甘木庵のアナログ回線にてサーヴァーにアクセスする。ウェブショップ の注文を処理して会社のpatioに転送する。数通のメイルを送受信し、きのうの日記を作成する。
神田川が濃い緑と鉛を混ぜたような色の水面に、梅雨寒の空を映している。富士見坂までは駿河台の坂を下らずに、その手前を右折して 明治大学横の小径を抜ける。
SOHO用の洒落たフラットを瞥見しつつ、"Computer Lib" のある矢野ビルに達する。
社長だけが出勤した土曜日のオフィスにて、昨夜から今朝にかけて新たに発見したバグの修正をし、「日本VeriSign」 が準備した10数種のバッジの中から、どれをウェブショップに貼り込むかの相談をする。
10時20分に "Computer Lib" を出る。地下鉄にて九段下、飯田橋と乗り換え池袋へ至る。家内と落ち合って西武池袋線に乗る。
数ヶ月前に後輩のゴウダタカシ君が、ここのトップペイジでキリの良いアクセスカウントを引き当てた。当選者へのプレゼントにはワインが充てられる。当時彼はチューリッヒに住んでいたため、「いつかそのうちに」 ということで、プレゼントの送達は見送られた。
おととい、香港に引っ越したゴウダタカシ君からeメイルが入った。そこには 「22日に自由学園で会えるため、そのときに件のワインを手渡してくれ」 と書いてあった。
かくして僕のザックはコンピュータとワインを呑み込み、ずっしりと重くなった。ひばりヶ丘駅で列車を降り、数分を歩いて自由学園の正門を抜ける。
ゴウダタカシ君はただ "Castillo de Molina Cabernet Sauvignon Reserva SAN-PEDRO 1999" を受け取るだけで良いのに、レマン湖の南からイタリアへ抜ける途中の渓谷に産する白ワインを、チリの赤ワインの交換品として僕にくれた。
男子部は午後1時40分すぎに解散した。2時に父母会場のホールへ入る。3時間ちかく後に全体会が終わる。父母たちは各クラスに移動して、更に懇談は続く。
夕食をはさんで8時にようやく本日の日程が終了する。暗い道をひばりヶ丘駅まで歩く。折良く来た急行に乗って池袋へ至る。
「虫のゐどころ」 は今朝、読み終えた。僕は読むべき本が無いと、単独での電車移動や食事や飲酒ができない。池袋の地下道から北口へ抜ける通路の小さな本屋へ行く。家内はひとあし先に甘木庵へ向かう。
読みたい本がなかなか見つからない。狭い店内を15分間もカニのように横方向へ往復し、ようやく
昨夜の就寝が11時30分だったにもかかわらず、今朝は3時に目が覚めてしまう。シーツも布団カヴァーもクリーニングへ出したままのため、布団を掛けずに寝た。窓と玄関を開け放っておいたら、とても風通しが良い。早い目覚めは、寒さによるものだろう。
甘木庵のアナログ回線にてBecky!を回す。ウェブショップ の注文を処理する。eメイルを読むため、区分けされたフォルダを次々と開いていく。清閑PERSONAL の巡回者からメイルが届いている。
「近藤紘一の本を 『日本の古本屋』 で検索すると、池袋の古書店に1冊だけありますよ」
と書いてある。早速そのことを、きのう 「1日だけこれを貸してくれないか?」 と訊いてきた人に知らせる。
空きっ腹を誤魔化すため、熱いお茶や冷たいお茶を何杯も飲む。7時に達して定食の 「たつみ屋」 へ出かける。コマツナのおひたし、モヤシのサラダ、ハムエッグス、メシ、ワカメと油揚げと長ネギの味噌汁を選んで、640円を支払う。
8時過ぎに近所のクリーニング屋まで歩いて、洗い上がったシーツやバスタオルやパジャマを受け取る。甘木庵へ戻ってベッドメイキングをする。この労働は結構な大仕事にて、うっすらと汗をかく。
必要なものだけをザックへ入れ、晴天の下、春日通りから順天堂大学前に出る。気温は高く湿度は低い。左に神田川、右に南の国ではよく見かける荒っぽい様式の鉄筋コンクリートの建物を眺めながら、外堀通りを下る。
水道橋たもとにある 奥行き3メートルの薄いビルを左折し、靖国通りへ至る路地に踏み込む。本郷龍岡町から神田神保町までの2.5Kmを25分間で歩き通し、"Computer Lib" に到着する。
頭に汗をかいたため、流しの蛇口にとりつけられた器具をひねってシャワーのように水を出す。その下に頭を突っ込んで水を浴びる。食器用のものかなにかは知らないが、近くにある小さなタオルで濡れた頭を拭く。"Computer Lib" のモリアスカさんに見つからないよう、そそくさと作業を済ます。
9時から休むことなく、新しいウェブショップの細々としたところを修正していく。1個所を直すと、また別の不都合が見つかる。賽の河原に石を積むような行為が続く。
「ナカジマさん、これ、今日も終わらず明日も終わらず、6月中には完成できないんじゃないですか?」
「大丈夫ですよ、終わりますよ」
考え得るエラーをわざと発生させて、エラーメッセイジの文章を整える。ペイジだけではなく、顧客に向けて送付される確認書までを調べ、「送付先」「お届け先」「お送り先」 などという文言の不統一を、ひとつずつ潰していく。
12時に至る。冷やし中華蕎麦を食べに、すずらん通りの 「揚子江飯店」 へ行く。とても冷房が強いため、急遽オーダーを広東麺に変える。ナカジママヒマヒ氏は、初心を貫いて五目冷やし蕎麦を注文する。
ただキーボードを叩き続けていれば仕事が終わる、ということでもない。「日本VeriSign」 から "VeriSign Secure site click to verify" というバッジを手に入れるだけのことにも、少なくない手間と面倒が発生する。
3時に至って部屋にテレビが運び込まれる。ワールドカップのイングランド対ブラジル戦が始まる。以降、マヒマヒ氏の作業能率が著しく落ちる。
夕刻6時に、本日すべきことのすべてを終える。水道橋駅まで歩き、中央線に乗って隣の飯田橋駅にて降りる。神楽坂を上がって毘沙門天の手前を左に入り、"RUBAIYAT" の扉を開く。リドボーのポアレを肴に、"Poilly-Fuisse" をグラスにて飲む。アボカドのサラダと極細のスパゲティを食べながら、更に同じワインを飲み進む。
夏至につき、少しばかりの飲酒を為しても外はまだ明るい。坂を下って飯田橋から大江戸線に乗る。本郷三丁目から甘木庵へ歩きつつ、ようやく暗さを増してきた空を見上げる。
シャワーを浴びてウェブショップの注文を受ける。2、3の連絡事項のみをメイルにて送る。10時に就寝する。
朝3時に起床する。事務室へ降り、Becky!を回す。ウェブショップ の受注処理と、きのうの日記作成を行う。
未知の人からeメイルが届いている。近藤紘一の 「目撃者」 を検索エンジンに打ち込んだところ、僕の日記がヒットしたという。
「自分はこの文庫本を持っているが、単行本にある第一部、二部、三部が割愛されている。どうしても単行本が欲しくて探したが、絶版のため書店は無論のこと図書館や古本屋にも見つからない。応分の謝礼はするので、1日だけこれを貸してくれないか?」
というのが、そのメイルの内容だった。
僕が人に貸した本やカセットテイプで、戻っていないものはとても多い。同じく僕が人から借りた本については、これを返却していない例が少なくない。
朝3時に起床する。事務室へ降り、ウェブショップ の注文を処理する。
「先日郵便で送ってもらったギフト送付先名簿を紛失した。もう1度ファクシミリで送って欲しい」 という電話が昨日あったため、数十軒の送り先を持つ名簿の印刷をする。
この顧客は昨年も、早めにお送りした送付先名簿を無くし、再度の発送をした覚えがある。今後はあらかじめ、コピーしたものを事務室のロッカーに取り置く必要があるだろう。
Charlie君とAndy君には昨夜、「明日の朝飯は8時30分からだ」 と伝えたが、彼らが初めに希望したメシの時間は8時だったことを思い出す。隠居へ電話をし、8時に母屋へ来るよう言う。
朝飯は、紅茶、パン、ヨーグルト、ベイコンエッグ、トマトとレタスとキュウリのサラダ。
9時30分に家内が事務室へ来る。それと入れ替わりに僕はふたりのアメリカ人高校生をクルマへ乗せ、奥日光へ向かう。きのうの雨とは打って変わって、空は濃く青く晴れている。
いろは坂を上がって中禅寺湖畔を過ぎ、竜頭の瀧に達するころ、Charlie君の携帯電話が鳴る。ダラスに住む彼の父親からのものだった。僕も途中から受話器を受け取って話をする。ついでにここの茶屋にて小休止をする。
かねてより、中禅寺の裏道に優れたパン屋があると聞き及んでいた。家内からは出がけに、中禅寺へ行くなら是非そこでパンを買ってきてくれと頼まれていた。教わったとおりの裏道に入る。パン屋は見つからない。
引き返して先ほどよりも更に微速で車を走らせながら道ばたの人家を見ていくと、扉も窓枠も自作と思われる、木こり小屋のように小さな店が目についた。
「あった、これだよ!」
"Oh ,funny shop!"
車庫をくりぬいて作ったらしいパン屋の、一畳半ほどの店内へ足を踏み入れる。僕は僕で買物をする。彼らは彼らで買物をする。パンの種類別に焼き上がりの日を記載した手書きの案内書をもらって店を出る。
人に頼まれたお土産を無事手に入れることのできたときの安堵感は、たとえようもない。
彼らはクルマの座席にて、買ったばかりのパイを食べ始める。まもなく日光自然博物館の駐車場にクルマを乗り入れる。博物館を丁寧に見ている時間は無さそうだ。僕でさえ生まれてこの方1度も乗ったことのないここのロープウェイで、茶ノ木平まで行くことにする。
ゴンドラは、昭和34年に東急車輌で作られたものだった。そのころには、この近辺のケイブルカーもロープウェイも、大勢の観光客を運んで栄えていたものと思われる。
茶ノ木平からは 深く青い空を映した中禅寺湖と、初夏の緑に覆われた男体山を間近に臨むことができた。
ふたたび、いろは坂を降りて日光の街へ達する。
「なかなか良い中華料理屋があるんだよ。そこでラーメンかチャーハンを食べよう」 と言いつつ裏道にある 「翠園」 へ行くと定休日だった。「よし、次の街にも良い店があるから、そっちへ回ろう」 と、今市まで下って 「ラーメンふじや」 へ入る。
「ここのラーメンはさぁ、熱いのは醤油か味噌か塩味。冷たいのは味噌か酢醤油の味だな」
「熱い醤油のラーメンが好きです」
「あと、トッピングもあるぜ。コーンとかバターとか」
"meat?"
「オーケイ、すいませーん、醤油のチャーシュー麺ふたつと味噌の冷やし麺ください」
「チャーシューは、厚ければ良いというものではない」 と言ったのは、伊丹十三の映画 「タンポポ」 における山崎努だっただろうか。しかしながらこの店のチャーシューは分厚く脂も乗って、とても美味そうだ。
Charlie君が言う。
「ここは有名な店ですか?」
「有名かどうかは知らないけれど、オレは好きなんだよ」
「いやぁ、とても美味いです」
30年前、僕は自由学園で四六時中腹を空かせ、Charlie君のオヤジと机を並べた授業中には、いつも頭にラーメンを思い浮かべていたものだ。
そのまま下今市駅へ移動する。彼らは14:36発の上り特急スペーシアの切符を買う。帰社して事務室へ入る。彼らには 「2時20分になったら駅へ送るから、それまではここで気楽にしていてくれ」 と言い渡す。
やがて時は至った。2時30分に東武日光線下今市駅にて、テキサス州ダラスから来たふたりの高校生と別れる。彼らは日光での短い休日を、存分に楽しむことができただろうか?
ふたたび会社へ戻り、種々の仕事をこなす。
納期は10日と記した手紙をお送りした顧客から、大量の味噌を6日で納めるよう注文が入る。製造現場と顧客の要望をすりあわせるため、双方のあいだで2度の折衝を行う。頭がクラクラしてくるが、ご注文を下さるお客様によって、我々は生かされている。こういう場面もないと、夏を迎えた気がしない。
今日のうちにできる仕事のほとんどを片付け、僕としては遅い時間に自宅へ戻る。晩飯として、ヨーグルトとビール酵母のシェイクを摂取する。
ベッドで 「虫のゐどころ」 を読みながら、それをバタリと床へ落とす。8時30分に就寝する。
朝3時30分に起床する。
事務室へ降り、いつもの朝の仕事をこなす。ウェブショップ の注文、eメイルによる問い合わせが共に多く、これに数時間を費やす。きのうの日記を作成する。
隠居に泊まっているCharlie君とAndy君には、朝8時に母屋へ来るよう伝えておいた。ふと気がつくと8時前から、既にして彼らは玄関の前に立っている。居間へ請じ入れて 朝飯にする。
彼らに工場内の見学をしてもらってから、雨の中をクルマで日光へ向かう。傘の持参を勧めたが、彼らはウインドブレイカーがあるからと、しきりにこれを辞退する。僕も荷物嫌いのゆえ、彼らの言い分はよく分かる。
スペクターの秘密基地のような東照宮の社務所にて、家康の墓所まで入れる無料参拝券を手に入れる。事務のお姉さんに 「先に眠猫へ行くと、この券は回収されてしまいます。まず鳴龍からお入りください」 と言われる。
ふたりのアメリカ人に "You must go to nakiryu first" などと伝えてはみるが、なにしろ "nakiryu" の説明が難しい。「鳴龍は入って左の方にある。帰るときには、この山の下から駅までのバスが出ている」 などと、しごく不親切な案内をして、森閑とした杉の大木の下を去る。
親切すぎる説明は、得てして旅の感興を削ぐものだ。
午後1番で、ミスターカトーノがコンピュータのメインテナンスをしに来社する。
「ウワサワさんのお友達は、みな恐くないんですかね、大切なデイタをバックアップも取らずにモーバイルするなんて、僕からすれば狂気の沙汰ですよ」
などと何年も言われ続けたため、遂に先日購入したMOへ、Nifterm、Becky!、MyTool を別途、保存する。
対チュニジア戦以来片付けておいたテレビを再び店舗へ置き、午後3時にスイッチを入れる。やがて日本対トルコの試合が始まる。
家内が館内電話にて、「Charlie君とAndy君が濡れ鼠になって、隠居の方へ歩いている」 と、伝えてくる。時間を見計らって、彼らに電話を入れる。「昼飯は食べたのか?」 と訊くと、「下今市駅を出てすぐのところにあるラーメン屋にてラーメンを食べた。ラーメンは大好物だ」 と答える。
夕方5時20分に店へ来るよう伝え、受話器を置く。
日本はトルコに1対0で負けた。ふたりのアメリカ人はミスターカトーノの作業が続く中、事務室へやってきた。タオルを持参するよう言うのを忘れたが、彼らはしっかり、タオル入りのビニール袋をぶら下げてきた。
きのうと同じく、クルマに乗ってたんぼの中の「東照温泉」 へ行く。
僕は日本人でありながら、人と一緒に風呂へ入ることが苦手だ。洗い場の最も端の椅子に腰掛けて体を洗っていると、他の場所も空いているというのに、Charlie君とAndy君が、わざわざ僕の隣りへ来て髪を洗い始める。「日本の風呂は、very relaxy だ」 などとも言っている。
きのうよりもぬるめの露天風呂に、弱い雨が間断なく降り続いている。ふたりのアメリカ人に 「好きなだけ入っていていいよ、オレはロビーで待ってるから」 と言うと、「いやぁ、腹、減っちゃって」 と、僕の後に続いて石の階段を降りてくる。
帰る途中、クルマの中でCharlie君が話しかけてくる。
「ウワサワさん、どんな映画が好きですか?」
「学生のころは古い日本映画しか見なかったけれど、いまはうるさいことは言わない。気楽な映画が1番だな。でも、宣伝で客を動員する映画は見ないよ」
「ボクはアメリカの映画よりも日本の映画が好きです」
「おぉ、それはどうも有り難う。好きな監督、いる?」
「キタノタケシです」
「北野武かぁ。なんつったかな、ロードムービー。タケシと子どもが夏休みに旅をするやつ」
「おぉ、キクジロウ。あれ、学校の日本語教室で見ました」
「最後のシーンでなぜかオレは泣いたよ。あの場所、浅草の近くなんだぜ。渡ったろ? スミダガワ」
こういう話なら、僕も長く続けることができる。
「北野武の "HANABI" なぁ、あれ、良いぜ」
「おぉ、あれはまだ見たことがありません」
「タケシがさ、暴力的な刑事なんだよ」
"violence cop"
「そうそう。でさぁ、タケシの奥さんが重い病気にかかっててさ。で、ふたりで旅に出るの」
「それで?」
「タケシは行く先々で人を殺していくんだけどさ、途中から気がついたけれど、タケシは奥さんと一緒に死ぬ場所を探しているんだな。そんときからオレは、もう泣きっぱなしよ」
「ハハハ」
「まぁ、オレも暴力的な映画は好きじゃないんだけどさ、北野武の映画は悪くねぇな」
「アメリカでは日本製の映画 "Battle Royal" が上映禁止になったんですよ。僕は見ましたけれど」
「上映禁止でも見られたって、どういうこと?」
「フィルムフェスティヴァルで見ました。それと、ヴィデオとかDVDなら、見られるんです」
こう書いていくと、いかにも流ちょうな会話に聞こえるが、決してそのようなことはない。
彼らの英語は、フォルクスワーゲンを beetle と発音するたぐいのものだ。その相手をする僕の英語能力もガタガタときては、なかなかまともな会話は成立しない。
それでもとても良い雰囲気で家へ戻り、やがて7時になる。
晩飯は、パン、キノコのオリーヴオイル炒め、トマトとモツァレラチーズのカプレーゼ、ポテトグラタン。コーンポタージュスープ、グリルとチキンとインゲンのバター炒め。きのう残した "Castillo de Molina Cabernet Sauvignon Reserva SAN-PEDRO 1999" を飲む。
ふたりのアメリカ人少年は、8時すぎに隠居へ帰った。テレビではワールドカップの、韓国対イタリア戦が始まろうとしている。僕はベッドに入り、「虫のゐどころ」 を読む。9時すぎに、数ペイジも進まないまま眠りに落ちる。
朝5時に起床する。
事務室へ降り、ウェブショップ の注文をこなす。諸方のpatioに5本のメイルを送る。その中には、9月4日から2日間の日程にて行われる日光MGの宣伝も含まれている。きのうの日記を作成する。
朝飯は、キャラブキの佃煮、キュウリのぬか漬け、冷やしトマト、キャベツの油炒め、ツマミナのおひたし、メシ、豆腐とワカメと長ネギの味噌汁。
それほど早く営業活動をかけない方が望ましいギフトの大口申込者へ向けて、資料を整える。市内の顧客へは直接に、送付先名簿をお届けする。
今日から2日間、自由学園 の同級生Aquirax-Wilson君の長男Charlie君とその友達Andy君が、ウチへ泊まりに来ることになっている。
10時少し前に、孫を浅草駅まで案内したAquirax-Wilson君の父親James-Wilsonさんから電話が入る。
「コンニチハ、ウィルソンノオヤジデス。コドモトイッテモオッキイヨ、ロクシャクニスン」
六尺二寸とは恐れ入った。台湾へ行くと、老人は僕に対して 「あの建物は昭和○年に建ったものです」 などと説明をしてくれる。それが申し訳なくて、僕はいちいち頭の中で足し算引き算をし、「民國○年の建立ですね」 などと台湾暦を持ち出して相づちを打つ。
30年ほども前に自由学園でよく見かけたWilson君のオヤジさんの 「ロクシャクニスン」 という言葉から、そのようなことを僕は思い出していた。
11時20分すぎに、東武日光線の下今市駅へ、アメリカ人の高校生を迎えに行く。特急スペーシアは11時35分に到着した。プラットフォームを見ていると、それらしき二人組が、日光駅へ向かう普通列車に乗り込む姿が認められる。僕は慌てて、あらかじめ知らされていた彼らの持つ携帯電話の番号を打つ。
「オレは今、ここの駅で待ってるんだよ。早くプラットフォームに出て!」 と息せき切って言うが、電話の向こうでは 「アーウ、アーウ、アーウ」 と、要領を得ない。
"get off the train?" という声と同時に、駅員の振る赤い旗が見える。列車のドアが締まる。「アーウ、オー」 などという声が、小さなスピーカーから聞こえてくる。
「次の駅で降りて待ってて。そっちに回ってあげるから」 と言って、携帯電話をポケットにしまう。
下今市駅から日光駅までは、おおむね7分間の行程だ。日光街道を北上しながら時計を見る。8分が経過したところで、Charlie-Wilson君の電話を呼び出す。
「日光駅に着いた? いまそっちに向かってるから」 と言うと、意外や返ってきた答えは 「アー、カミイマイチ」 というものだった。「よし、5分で行く」 と答えて電話を切る。
下今市駅の次の駅は日光駅とばかり思っていた。その間に上今市という無人駅のあることを、すっかり忘れていた。日光市内に近づきつつあったクルマをUターンさせ、上今市駅にて六尺二寸のアメリカ人ふたりをピックアップする。
Charlie-Wilson君は僕の同級生のAquirax-Wilson君によく似ているが、Aquirax-Wilson君の身長は、せいぜい五尺六寸くらいのものだろう。
ふたりとも蕎麦は大好きだと言うので、ちかくの報徳庵へ行く。3人で五合の蕎麦と天ぷらの昼飯を食べる。
2泊3日の計画を訊くと、何もないと言う。そのまま鬼怒川温泉へクルマを向け、日光江戸村にて彼らを降ろす。近くにいたチョンマゲ姿のオニーチャンに、今市までの行き方を訊く。彼らにそれを説明し、なんとか自力で帰ってくるよう伝える。
空のクルマで帰社する途中、道路にメスのキジを発見する。
夕刻5時にちかくなって、CharlieとAndyが戻ってくる。ふたりとも手に長い物を持っている。日光江戸村の売店で、8000円の刀を買ったという。浜美枝がヒロインをつとめた "007" に、着流しで登場したショーン・コネリーを思い出す。
隠居へ案内すると、彼らは古い日本の普請を見て 「オォ、スゴイ」 などと驚いている。その座敷で、買ってきたばかりの刀を抜いて喜んでいる。湾曲のない、四角い鍔を持った刀だ。「ニンジャカタナ」 と言うと 「オー、イエス、ニンジャカタナ」 と笑う。
六尺二寸でも、高校1年生はいまだ子どもだ。僕もその年齢にはモデルガンが欲しかったことを思い出す。
ふたりをクルマに乗せ、たんぼの中の道を走る。途中でに1度、道を間違える。"miss the road" と "miss the way" は、どちらが正しいのか? などと訊いているうちに、黒澤映画のセットのような外観の 「東照温泉」 に到着する。
露天風呂でふたりに 「今日、ワールドカップのサッカーでアメリカが勝ったの、知ってる?」 と訊くと、Charlie君が 「さっきセカンドハウスのテレビで見た。メキシコ相手に2対0とは、とても興奮する」 と言う。
「君のオヤジさんは、自由学園のときにはサッカーの良いプレイヤーだったんだぜ」 と言うと、「オヤジもそう言うけれど、とても信じることはできない」 と答える。
「日本のメディアは、ワールドカップに興味を持つアメリカ人はほとんどいないと伝えてるけれど」 と訊くと 「まぁ確かに、僕みたいのは例外でしょう」 と言う。
「温泉っていえばさぁ、25年くらい前、Charlie君のオヤジが九州の温泉に行ったときのことを思い出すよ。公園に池があってさ、その水が温かいんだよ。地元の人に訊いたら 『入れます』 って言うから入ってさ。そうしたらそこに観光客がゾロゾロ来るんだよ。オヤジさん、出るに出られなくなっちゃって」
などというヨタ話もする。
6時30分に帰宅する。
晩飯は、グリーンアスパラガスと千切りポテトのオリーヴオイル炒め、千切りニンジンのグラッセ、ニンニクバターライス、ビーフステーキ、レタスとトマトとオクラのサラダ。僕だけは "Castillo de Molina Cabernet Sauvignon Reserva SAN-PEDRO 1999" を飲む。
Charlie君が 「とても美味しいです。なぜなら僕たちはテキサスから来たから」 と言う。テキサスの名産品が牛肉だったとは、今日まで知らなかったことだ。
晩飯の後に、6歳の次男がテレビの脇から任天堂のゲームキューブを取り出し、ふたりのマレビトにこれを自慢した。その直後から、テレビゲイムが開始される。
1975年から1985年までの10年間、世界で最も多くの人を巻き込んだ娯楽は、香港製のコンフー映画ではなかったか? いまではその役割を、日本製のテレビゲイムが担っているように思われる。
テレビゲイムが世界の共通言語になりつつあることは、初対面の日本人とアメリカ人がいきなりこれを通じて対戦できるところをみても明らかだ。
8時を回ったため、ふたりの客人にこれを貸し出し、続きは隠居で楽しむよう伝える。彼らは大いに喜び、玄関から辞去する。
本日2度目の入浴をしてアミールSを飲み、9時に就寝する。
スターフェリーの船上にて、大内延介と森ケイジが将棋を指している。大内は九龍サイドから、森は香港サイドからこの楕円形の船に乗った。両者は各々が代表をつとめる地域にて、1ヶ月間の研究を終えてこの勝負に臨んでいる。将棋の勝ち負けが決するまでには長い時間を要する。その間、船は狭い海峡を何十回も往復している。
目が覚める。居間へ出て時計を見ると、4時30分になっている。事務室へ降り、いつもの朝の仕事をこなす。
朝飯は、キュウリのぬか漬け、ナスの炒め煮と大根おろし、身欠きニシンの付け焼き、納豆、ツマミナのおひたし、メシ、油揚げと貝割れダイコンの味噌汁。
日曜日にて客足も多い。店舗、包装部門、製造部門、事務室を行ったり来たりする。
明日からアメリカ人がふたり家に来る。終業後、郊外のスーパーマーケットへ行く。先ず1.5リットル入りのコカコーラを2本、ショッピングカートに載せる。牛肉、鶏肉、野菜、牛乳、アイスクリームなどを多めに購う。
帰宅すると7時になっている。春日町1丁目の青年会と育成会の会議が、同時刻から公民館にて開かれることになっている。育成会長のユザワツネオさんに、遅刻する旨の連絡を入れる。
晩飯として、ヨーグルトとビール酵母のシェイクを摂取する。
30分遅れにて町内の会議へ出席をする。明治37年に作られ、その巨大さから戦後は1度も担がれることのなかった瀧尾神社の大御神輿を、今年の夏には復活させるということが、議題の中心になる。
至るところに情報の錯綜があって面白い。
「戦後は担がれてない」 と 「100年間担がれていない」 は、どちらが本当なのだろう? 明治37年は西暦1904年だから、100年間担がれてないとすれば、この御神輿は建立以来、1度も日の目を見ていないことになる。
準備委員会の作ったプリントには、御神輿の重さが1トンと記載されている。しかし町内のカミムラヒロシさんによれば、本当の重量は千百貫だという。千百貫といえば4トンを超える。その差は4倍にもなる。
真剣かつ少し間の抜けた話し合いは更に続く。9時を過ぎると、さすがに眠くなってくる。ほぼ10分おきに眠りに落ちる。眠気覚ましにヨタ話を飛ばすが、また居眠りをする。
会議は10時にお開きとなった。帰宅して入浴し、「虫のゐどころ」 を読んで11時30分に就寝する。
ロシアのどこかの街にいる。ペンキで壁を塗られた天井の低い料理屋の一室にいる。テイブルの上にはかなりの種類のスモーガスボードが並べられている。
中にひときわ目立って、金色の大きなカマボコ型の料理がある。マスの薫製だというが、その色と光沢はカブトガニの甲羅を思わせて不気味だ。
ある女の人が、その薫製を自分の皿に取り分けて食べる。取り急ぎという感じで、メニュにローマ字で表記された日本酒を燗で注文する。女の人はそれを一口含んで 「この料理は、どのお酒にも似合わない」 と言った。
目を覚ますと3時30分になっている。起床して事務室へ降りる。
いつもの朝の仕事をこなす。きのうの日記を作成し、短くて済むeメイルのみを書いて送る。
朝飯は、2種のおにぎり、海苔、ダイコンと油揚げとツマミナの味噌汁。
必要があって、MOを買うことになる。「コジマ」 のウェブショップに、"Olympus" のMOドライヴが限定10台にて売り出されている。外注SEのミスターカトーノ に電話をすると、「そのMOなら、1ヶ月ほど前から、ずっと限定10台のまま、売り切れずに表示されている」 と言う。
実際の店舗にてこれを購うことができれば、送料は払わなくても済む。マウンテンバイクに乗り、霧雨の中をコジマへ走る。果たしてそのMOドライヴは、我が町のコジマにも少なくない在庫を積み上げていた。
一旦帰社し、ホンダシティに乗って、再びコジマの駐車場へ入る。MOドライヴを19,800円にて、640MBのMO5枚パックを3,080円にて入手する。
自分がMOなど使うようになるとは、今まで考えもしなかったことだ。買ってきたばかりのMOドライブを手に載せ、「それにしてもこの5年間で、ずいぶんと小さくなったものだ」 と、感心をする。
日中も頻繁に、ウェブショップへの注文を受ける。
終業後、仲間内の会合に出席をする。9時30分に帰宅し、入浴して10時に就寝する。
朝4時30分に起床する。
事務室へ降りて ウェブショップ の注文をこなす。数通のeメイルを送受信し、自分のpatioに5通の返信をアップする。きのうの日記を作成してサーヴァーに転送する。
朝飯は、ナスの油炒めと大根おろし、ゴボウとニンジンの天ぷらとホウレンソウのおひたし、キュウリのぬか漬け、キノコのオムレツ、納豆、メシ、ツマミナの味噌汁。
大昔の自分の部屋から、大型テレビを台車に載せて店舗へ運ぶ。飾り棚の壺や花を脇へ寄せて、それを設置する。壁のアンテナ端子にコードを繋いで電源を入れると、テレビはうまい具合によみがえった。
ウェブショップのトップに、本日3時からワールドカップ日本対チュニジア戦を店舗にて放映する旨の説明を入れて、これを更新する。
9時30分ころから、電話による地方発送の注文が急増する。今朝のテレビ番組で、らっきょうの特集をしたことが、その原因らしい。僕はテレビの宣伝効果をあまり信用していないが、認識不足も甚だしいだろうか。
考えてみれば、テレビのコマーシャルにそれほどの効果がないのではなく、単に、自分自身はテレビのコマーシャルを見ても購買意欲の湧かない人間だというだけのことかも知れない。
午後3時に至って、店舗に置いたテレビのスイッチを入れる。日本はチュニジアに勝って、決勝リーグへ進むことになった。
日本国民と大韓民国民が共に、相手国の決勝リーグ進出を望む現在の状況は素晴らしい。日本と大韓民国のワールドカップ共催は、足して二で割る式の政治的判断によってもたらされたものだ。しかし、結果が良ければすべては良い。
終業後、社員たちが自分のコンピュータを持って事務室へ集まる。数十分間の、軽いコンピュータ教室を行う。その後、"Casa Lingo" 前の 「大昌園」 へ移動して、皆で晩飯を食べる。
"company" という言葉は、みなが集まり来てパンを食うところから発生したという。本当かどうかは知らない。
8時に帰宅する。入浴してアミールSを飲み、8時30分に就寝する。
朝4時30分に起床する。
事務室へ降りる。ウェブショップ の注文をこなし、会社のpatioにアップする。ホンの連絡事項ほどのeメイルを数通送り、きのうの日記を作成する。
朝飯は、ゴボウとニンジンの天ぷらと大根おろし、豆腐の卵とじ、ツマミナのおひたし、モロヘイヤのたたき、納豆、メシ、アサリと長ネギの味噌汁。
始業して即、加藤床屋へ行く。加藤床屋のオヤジの仕事は、髪を切るというよりは剪定をしているという感じのパラノイアぶりで、長い時間をかけて作品を完成させていく。
システムエンジニア、医者、料理人。専門職にはとかく頑迷で話の通じない司祭が多く見受けられる。僕はすべからく、柔らかい脳を持つパラノイヤが好きだ。
加藤床屋から帰って即、4.5Km離れた荒井腎クリニックへ向けてマウンテンバイクを走らせる。長く待たされることを予想して文庫本を持参したが、今日は一昨日の検査によって導き出された薬を受付で渡されたのみにて、病院での滞在時間はわずか1分だった。
旧会津街道の杉並木を抜け、金鳥の蚊取線香やボンカレーのホウロウ看板が立つ田園を走る。一昨日よりも1分短縮の25分間にて、緩い上りの舗装路を戻る。
日常の仕事の他に、パッケイジの新しい表示について、秋の社員研修について、来春の採用についてなど、様々な準備を整えていく。
終業後に家族3人で、クルマで小1時間ほどもかかる県央部の獨協医科大学病院まで、知人の見舞いに行く。面会時間は午後7時にて終了するため、本人との接触は数分間に留まった。
来たときと同じ道を辿って帰る。次男の希望を容れ、"Casa Lingo" へ寄る。
ソラマメのポタージュ、赤カブとポーチトエッグのサラダ、サフランライスのコロッケ、ニンニクとトウガラシのスパゲティ、ソーセージの盛り合わせ にて、赤白各1杯のグラスワインを飲む。
チーズの盛り合わせとグラッパにて締める。
9時過ぎに帰宅する。入浴してアミールSを飲み、10時に就寝する。
三浦半島の外縁を、ホンダシティで走っている。晴れているのか曇っているのかは分からない。カーヴを曲がるたびに、海へ向かって角のような細い岩が突き出ている。道路から岩のひとつにクルマを乗り入れ、その突端を目指して走っていく。
ブレイキを踏むことはせず、そのまま岩から飛び出して、海面に着水する。すかさず窓を開け、車外へ出て泳ぎ始める。小さな島を経由して岸に上がる。
濡れた体で広葉樹の林の中を歩いていくと、大きめの四阿というかパヴィリオンのような建物が見えてくる。ガラスの扉を押して入ると、そこはむかしの個人病院を思わせる木の床を持つ前室にて、奥は喫茶店になっている。
喫茶店にはひとりの客がいた。その中年の男は杉綾織りのジャケットを着てウイングチップの靴を履き、コーフィーを飲んでいる。
目を覚ますと5時30分になっている。9時間も眠っていたことになる。飲酒を避けると眠りが浅くなる分、睡眠時間は長くなるのだろうか。
事務室へ降り、ウェブショップ の注文を処理する。辛うじてきのうの日記を書き終え、自宅へ戻る。
朝飯は、キュウリのぬか漬け、シラスおろし、納豆、コンニャクの甘辛煮、キヌサヤの炊きもの、温泉玉子、茹でたグリーンアスパラガス、メシ、ユキナの味噌汁。
きのう行った荒井腎クリニックでは検査の結果が出ているのだろうが、夏のギフトの受注が忙しく、外へ出るヒマがない。床屋へも行くことができない。
大口顧客の送付先名簿が印刷されつつある時間さえもどかしい。動いているプリンタを後目に銀行へ出かける。
雨の交差点で、1961年に初期型が世に出た トヨタパブリカと遭遇する。強制空冷式の水平対抗エンジンを持つこのクルマの、なんと簡素で合理的なことか。その外観は、まるでダンテ・ジアコーサのデザインと見まごうばかりの美しさだ。
夕刻に至っても、机上の伝票類が片づかない。きょう呑み込んだ注文は、終業時までにすべてを処理することがができなかった。これを明朝の始業直後の仕事として残置する。
届けられたばかりの 「週刊朝日」 の表紙が、日の丸で埋め尽くされている。なぜか "Nippon!" の文字も見える。ワールドカップ自国開催中ならではの椿事だろう。
燈刻、モロヘイヤのたたき、キュウリのぬか漬け、赤ピーマンの鶏肉詰めトマトソース煮と茹でたグリーンアスパラガス、冷や奴、4種のキノコのオリーヴオイル炒めと共に
朝5時に起床する。7時間30分も眠った計算になる。
事務室へ降り、ウェブショップ の注文を処理する。短文にて済むメイルのみ送信し、きのうの日記を作成する。
朝飯は、茎ワカメの炒め煮、ヤマトイモと鶏肉の炊きもの、コマツナと油揚げの炊きもの、キュウリのぬか漬け、焼きピーマン、納豆、メシ、シジミと万能ネギの味噌汁。
開店前後の仕事をこなした後、会社から鬼怒川方向におよそ4.5Kmほども離れた、荒井腎クリニックを目指して自転車をこぐ。トップギアにて軽く流しながら 「ということは、緩やかな下り坂を走っているんだな、帰りは上りだな、困ったな」 と、考える。
クルマに乗っている限り、緩い坂には気が付かない。
荒井腎クリニックの待合室には、膨大な医学雑誌と数冊の子ども向け絵本があるのみだ。そのような環境で1時間も待たされ、ようやく名前を呼ばれる。
ことし2月に起きた症状と同じく、足の指の間の皮膚が剥けたところをアライ先生に見せる。看護婦さんが先の尖ったハサミにて組織をプレパラートに取る。診断は明日にも出るそうだ。
帰り道はやはり上り坂だった。往路は13分間にてこなしたが、復路には25分間を要した。シャワーにて汗を流し、着替えをしてから事務室へ戻る。
昼飯は、ソーセージとグリーンアスパラガスの油炒め、納豆、温泉玉子、豆腐と鶏挽肉の炊きもの、メシ。
「金がない、金がない」 と言いながら、10年も20年も、乗りもしない4台のクルマの税金を払い続けている。銀座8丁目の "Bistrot Cache Cache" でなら、友人とふたりで10回ほども晩飯の楽しめる金額を、銀座1丁目の 「三州屋」 でなら、文庫本と共に過ごす孤独な小酌を50回は行える金額を、10年も20年も払い続けている。
最寄りの自動車税事務所へ電話をかけてみる。呼び出し音が20回目に達し、やがて30回を数える。40回鳴ったら応答せよとでもいうようなマニュアルがあるのではないかと、そのまま受話器に耳を当てていると、30数回目の呼び出し音が唐突に切れ、係官が出る。
「1年の中で、何月何日にクルマを所有していると、自動車税が発生するのか?」 と、質問をする。係官は 「4月1日の午前0時にクルマを所有していると、自動車税は発生する」 と、答える。
来年の4月1日までに、4台の赤いクルマを廃車にしようと、堅く心に誓う。
何かと忙しく、まとまった長さのeメイルやpatioへの返信がままならない。「だったら日記の更新も無理だろう」 と思われるが、トップペイジに "Last Updated:Yesterday or Today" と明記している関係上、日記くらいは遅滞なく書く必要がある。
夕刻から空気中の湿度が急に高くなる。晩飯として、ビール酵母とヨーグルトのシェイクを摂取する。
酒を飲んだわけでもないのに、新聞を読みながら眠ってしまう。10時30分に目を覚まし、入浴をする。アミールSを飲んで 「虫のゐどころ」 を読み、11時30分に就寝する。
テレビの音にて目が覚める。隣の部屋へ行ってみると、家内が深夜のニュースを見ている。日本がロシアに勝ったサッカーの映像を、テレビは昨夜から繰り返し流し続けているのだろう。1晩に2度もテレビの音で
睡眠を切断されると、いい加減に腹も立つ。
ベッドの上で1時間ほど静かにしているが、ふたたび眠ることはできない。起きだして時計を見ると、1時30分になっている。そのまま服を着て事務室へ降りる。
獅子座流星群が来れば徹夜でこれを見物し、しかし数日後には天体のことなどさっぱり忘れる。大事件が起きると1日中テレビにかじりついて、しかし数ヶ月も経てば犯人の名前さえ覚えていない。ワールドカップだといえば、その結果に一喜一憂しながら、大会が終わればサッカーになど見向きもしない。
こういう人たちは一見するとオッチョコチョイだが、今という時代に興味を持ち、社会現象に参加をしているという意味においては、僕のような熱の低い人間よりも、よほど優秀なのだという。
アンドレア・ボチェッリの "romanza" を聴きながら、ウェブショップ の受注をこなす。大口ギフトの注文が複数、入っている。5月のウェブショップ売り上げの20%の金額を、20分間で処理する。
数通のeメイルを送受信し、きのうの日記を作成する。
空は曇っているが、山の稜線は明らかだ。朝飯は、ジャコと大根おろし、カブと鶏肉の炊きもの、ユキナの炊きもの、茹でたグリーンアスパラガス、納豆、メシ、お麩とユキナの味噌汁。
午前中、青梅市立藤橋小学校の6年生45名が、見学に訪れる。蔵の深奥部まで案内し、35分間をかけて諸々の説明をする。
店舗前まで戻り、教師に 「醸造とは地味な作業に支えられたものなので、それほど面白くもなかったと思う」 と言ったところ、「教師には分かるが、生徒は強い興味を以て見学をすることができた」 と、おっしゃってくださった。
ひとりひとりにお土産を手渡して、午前中の大きな仕事を終える。
平日としては午後も多くのお客様が訪れ、僕としては珍しく汗をかいて仕事をする。
日光の山が暮れていく。油揚げとカブの葉の炊きもの、キュウリのぬか漬け、茎ワカメの炒め煮、ヤマトイモと鶏挽肉の炊きもの、キンキの煮付けとサヤインゲン、冷や奴にて、泡盛請福を飲む。
その場で寝入り、10時30分に目を覚ます。入浴して 「虫のゐどころ」 を読み、11時30分に就寝する。
朝3時30分に起床する。
事務室へ降りてBecky!を回すと、i-modeを用いた注文が入っている。「ご注文御礼」 という表題を持つ受注確認書をお送りしようとして、ふと思いとどまる。
もしもこのお客様が枕元に携帯電話を置いてお休みになる方だったとしたら、朝の4時にメイルの着信を知らせる音が鳴り響いて、ご迷惑をおかけするだろう。
通常の、ウェブショップ からの受注に対しては即 「ご注文御礼」 を送るが、このお客様へのそれは、とりあえず草稿箱に保存する。
6時に花火が2発上がり、日光街道沿いに朝市の立つことを伝える。朝市もそろそろ終わる7時になって自転車を引き出し、ごく短い距離を走って帰宅する。
朝のうちは店舗も静かだったが、昼にかけて徐々に客足が伸びる。夕刻には、昨年の同じ曜日を超える商品販売数を記録した。
閉店後、販売の社員と 「アイテム別粗利合計対前年度表」 の検討をしてから自宅へ戻る。
はじめ、カブと鶏挽肉の炊きもの、トマトサラダ、ジャガイモとキュウリとハムのサラダ、身欠きニシンの付け焼き、冷や奴、シシトウの炒り煮 というおかずを見て泡盛を飲もうとしたが、蒸し暑さを感じたため、冷蔵庫から "Domaine Leflaive Bourgogne Blanc 1997" を取り出して、これを飲む。
8時に就寝したが、テレビの音にて目が覚める。隣の部屋へ行ってみると、ワールドカップのサッカーで、日本がロシアに勝ったと家内が言う。時計を見ると、10時30分ちかくになっている。
寝室へ戻って二度寝に入る。
朝4時30分に起床する。
事務室へ降りていつもの仕事をこなし、数通のメイルを送受信する。自分のpatioへ6通の返信を送り、きのうの日記を作成する。
リストアが成ったばかりのマウンテンバイクに乗り、大谷川沿いの舗装路を走る。日光方面へのだらだら坂を上がり、オートキャンプ場まで達して引き返す。
これにて5Kmのサイクリングとなるが、カロリーの消費は飴玉1個分ほどのものだろうか。
午前中、知り合いから木箱入りの素麺 「揖保乃糸」 が届く。 荒縄を解き、釘抜きにて蓋を開けたが、その量に圧倒されて声も出ない。社員のオオシマヒサコさんを呼び、社員と僕とに等分するよう言いつける。
別の知り合いからは、鳥取民芸美術館の資料と、同じく鳥取市にある手作り万年筆屋 「万年筆博士」 のパンフレットが届く。
人からアレをもらったコレをもらったと公言するのは下品な行為だが、ひとつの記録として日記に残すことにする。人の親切は有り難い。
夕刻、大口のギフト顧客がご来店になる。高橋savon君が自身のThinkPadから、マイツール による、この顧客の過去すべての送付先をプリントアウトする。それを顧客へお渡しし、今回の送り先の特定と、それぞれにお送りする商品の記入を、お願いする。
それを僕が受け取り、送付先名簿を作成する。商品に繰り越し演算をかけて同じ商品ごとに送付先をまとめ、1件あたりの小計金額と全件の合計金額を一気に算出する。
わずかな時間で、本日の売り上げの1割を稼ぎ出す。
終業後、シャワーを浴びてTシャツと半ズボンに着替え、「市之蔵」 へ行く。いまだ早すぎて、のれんは出ているけれども看板に灯りは点っていない。
これまた友達からもらった茶碗に、焼酎吉四六を注ぐ。頼まなくても出てくるムール貝のオーヴン焼きを食べる。
ヒラマサの刺身を注文すると、ダイコンとマイタケと薩摩揚げの煮物が付いてくる。
「冷やしトマトが食いてぇなぁ」 と思っていると、頼まなくても冷やしトマトが出てくる。「あんまりカロリー、とらねぇ方が良いんだよなぁ」 と思いつつ品書きを見る。ウメキュウリを頼む。
烏骨鶏の卵を配達に来たオバサンが、そのまま僕の隣りに座って焼酎真露を飲み始める。
オバサンは卵と共に3枚のティッシュペイパーを店主のナガモリユミコさんに手渡しながら 「紙がねぇと、男に口説かれたときに恥かくだろ?」 などと言っている。
こういう手合いを横にして僕は、「中勘助の静かな随筆を読む」 という書き出しの、奥本大三郎の随筆 「虫のゐどころ」 を読んでいる。
「こういう手合い」 と僕とは同種の人間だ。ついオバサンの話に合いの手を入れる。活字を追う速度が著しく落ちてくる。このような状況が僕にとって良いのか悪いのか、その判別がつきづらくなってくる。
甘鯛の西京焼きを注文する。銀座のオデン屋で出せば、2000円は取れそうな美味さだ。
精算を頼むと、2400円だという。「頼まなくても出てくるもの」 をさんざん食べているため、3000円を置いて店を出る。
帰宅してアミールSを飲み、8時に就寝する。
朝6時30分に起床する。事務室へは降りず、晴れた空を眺めながらお茶を飲む。
朝飯は、大根おろし、ホウレンソウのおひたし、納豆、キュウリとカブのぬか漬け、サクランボ、ジャガイモとニンジンのオムレツ、メシ、アサリと万能ネギの味噌汁。
始業後しばらくして、すすけた看板を塗り直していた稲葉塗装が、これを納品する。
市本サイクルのイチモト本酒会長が、リストアの成った自転車を軽トラックに積んで来る。数日前に社員のマキシマトモカズ君から買った中古の自転車は磨かれ、無駄な付属品を外され、必要な部品は交換されて、猫科の動物のように見違えて戻ってきた。
僕のような素人の目からすれば、これはまるでメッセンジャーの愛車か、ダウンヒルマシンのようだ。イチモト会長が、駄菓子屋でアンコ玉を買い食いしているだけの人間ではなかったことを、再認識する。
昼にはさっそく、これに乗って 「ラーメンふじや」 へ行く。冷やし味噌ラーメンを食べ、1Kmほども遠回りをして帰社する。
先日、八王子に住むふたりの小学生から連名で、ウチの商品についての質問状が舞い込んだ。僕はパンフレットと名刺に売れ筋の商品4点と手紙を添え、宅急便にてこれを送ったが、今日、驚いたことに彼女たちの通う小学校の校長から、葉書にびっしりと文字を連ねた礼状が届いた。
自分としてはそう大したことをしたとも思わないが、ウチのような反応を示す会社は、少ないのだろうか。
ほんの少しだけ残業をしてから自宅へ戻る。暮れていく空に、無数のツバメが飛んでいる。
晩飯として、ビール酵母とヨーグルトのシェイク を摂取する。むかし映画で 「乞食王子」 を見たことがある。乞食の少年は晩飯にポタージュのようなものを5秒ほどで飲み干すと、即、ベッドに潜り込んだ。
僕の本日の晩飯は、映画の中の乞食少年のそれよりもシンプルだ。
8時すぎにベッドへ潜り込み、枕元の本や新聞を読む。9時に就寝する。
甘木庵にて朝4時に起床する。空は曇り加減だ。
キッチンのテイブルにて昨日の日記を作成する。eメイルの送受信とウェブペイジのファイル転送が利かないのは、サーヴァーが企画屋から "Computer Lib" へ移ったあとの、未設定部分によるものだろう。
7時に定食の 「たつみ家」 へ行く。いつもは陳列棚から好きな惣菜を選んで600円台の朝飯を食べているが、今朝は 「本日の定食」 に420円を支払う。
それにしてもこのデフォールトでの注文は、安いには安いが、どうも面白味に欠ける。第一、生卵と納豆があっては、1杯の飯では足りない気分だ。次回からはまた、アラカルトにしようと考える。
甘木庵へ戻り、荷物とシーツ、タオルのたぐいを抱えて外に出る。クリーニング屋へ洗濯物を置くと、3000円ちかくの出費となった。本郷三丁目まで歩き、丸の内線に乗る。サッカーの神様が、インポ薬の宣伝に出ている。
御茶ノ水から 「山の上ホテル」 裏の錦華坂を下り、9時に神保町の "Computer Lib" へ入る。
3日前にナカジママヒマヒ社長へ送った数百行におよぶ 「ここはこう直すべき」 「あのペイジを初回からサクサク使える人が、果たして何人いるか?」 「このボタンの文言は、読む人の理解を得られない」 などというeメイルに従って、ウェブショップ のリフォームを行う。
「ナカジマさん、この作業、夕方までに終わりますかね? 徹夜になっちゃうんじゃないですか?」
「大丈夫っしょー」
こういう楽観性がなければ、とてもではないが、起業などできるものではない。
午後1時すぎまで通しの作業を行った後、靖国通りの 「大戸屋」 へ行く。マヒマヒ氏と共に、できるだけカロリーの低いメニュを選ぶ。
マヒマヒ氏は 「カツ煮定食」 を我慢して、「サバの味噌煮定食」 と 「ナメタケおろし」 を取る。僕は 「豆腐と鶏のトロトロ煮定食」 を取る。子どものころはうるさく 「栄養をとれ、栄養をとれ」 と言われて情けない思いをし、今はうるさく 「栄養はとるな、栄養はとるな」 と言われて、やはり情けない思いをする。
"Computer Lib" へ戻り、再び作業を続ける。親切すぎるシステムは、しばしば顧客にとっては煩雑な迷路となる。僕自身がその存在について疑問に思うペイジやリンクや説明文を、いさぎよく削っていく。
僕の頭は少し使っただけで、脳が酸素欠乏を起こす。そのたびに窓を開け、狭い隙間から靖国通りを見おろして深呼吸する。
やがて江戸前鮨の名店 「鶴八」 の看板にも灯が点いた。7時を回ってようやく、本日すべきと定めたすべての作業を完了する。
正直な気持ちとしては、今朝まで、ウェブショップの再構築を後悔する気持ちがあった。ミスターカトーノ の手になる美しく整合性の保たれたペイジを崩していくことに、少なからぬ抵抗があった。ところが今日の作業によって、これらの心配はすべて杞憂となった。
あと10日もすれば、僕の要求を超える素晴らしいショップが、間違いなく稼働し始めるだろう。
既に暮れた雑踏を歩き、半蔵門線と銀座線を乗り継いで浅草へ出る。「がってん」 にて小酌を為す。
浅草21:00発の下り特急スペーシアに乗る。気がつくと下今市駅に着いている。慌てて荷物をまとめてプラットフォームに飛び出す。11時ちかくに帰宅し、入浴して11時30分に就寝する。
朝4時30分に起床する。
事務室へ降りる。昨夜に引き続いて、ウェブショップ、清閑PERSONAL、本酒会 の3つのファイルを、"Computer Lib" のサーヴァーに転送する。
もっとも時間を要したのは、清閑日記 の、3千数百枚に及ぶ画像の転送だった。これを "NextFTP" に任せつつ、ウェブショップの受注を処理する。数通のメイルを送受信し、きのうの日記を作成する。
朝飯は、キュウリとカブのぬか漬け、豆腐の卵とじ、納豆、キャラブキの佃煮、ホウレンソウの油炒め、メシ、ダイコンとミョウガの味噌汁。
ダイコンの味噌汁に針のように刻んだミョウガを入れる意匠は面白く、味もまた良い。
始業時から昼まで、ずっと忙しく仕事を続ける。銀行へも行かなくてはならないが、それがままならない。昼飯の途中で顧客から電話が入る。調べものをするため、事務室へ降りる。
3時をすぎてようやく、銀行へ出かける。ついでに下今市駅へ寄る。今日は仕事が多いため、塩梅の良い時間から塩梅の良い店で飲むことは不可能だろう。いつもより2時間遅い、上り特急スペーシアの切符を買う。
会社へ戻ると、市本サイクルの軽トラックが停まっている。事務室へ入ると、イチモト本酒会長が 「預かっているマウンテンバイクは明日にでも、オーヴァーホールと諸々のストリップダウンを完了する」 と言う。明日の不在を告げると、イチモト会長は明後日の納品を約束してくれた。
閉店後も、しばらくは仕事を続ける。自宅へ戻って入浴し、キシモッチャンのところの 最も分厚い生地のTシャツと、"Patagonia" のラインナップ中、最も分厚い生地のショートパンツをはく。僕はケチなため、すぐにすり減るような服は好まない。
下今市駅6:52発の、上り特急スペーシアに乗る。車内にて、今日の日記の途中までと、自分のpatioあてに8通の返信を書く。利根川を越えたあたりから降り始めた雷雨は、春日部付近にて収まった。
池袋にて飲酒を為そうと、北千住にて降りる。千代田線経由より数分長く要しても100円安い常磐線経由の道を選択したが、列車が中々来ない。日暮里まで来て池袋行きを諦め、谷中の "TORIYA" へ電話を入れると、11時30分が閉店だという。それほど遅くまで営業をしているとは知らなかった。
御殿坂を越え、9時前に "TORIYA" へ行くと、カウンターの3席を残して満員の盛況だった。夏には気持ちが良く、冬には寒くて堪らない外の席にまで客があふれている。店内にはスロウなレゲエが流れている。
焼酎 「元老院」 のオンザロックスと、ポテトサラダを注文する。この店はオーダーを受けた1時間後に 「スイマセン、材料、無くなっちゃいました」 などと言うこともあるため、メニュの組み方には細心の注意が必要だ。
きのう8時30分に就寝したせいか、今朝は2時30分に起床することができた。
事務室に降りて、ウェブショップ の受注をこなす。数通のeメイルを送受信し、きのうの日記を作成する。時間に余裕があるため、本酒会 の 紙の会報を印刷して綴じ、封筒に詰める。
朝飯は、アサリの佃煮、キュウリのぬか漬け、ツルムラサキと鶏肉の炊きもの、納豆、シラスおろし、ピーマンの油炒め、メシ、お麩とワカメとミョウガの味噌汁。
先日、岡村医院へ2週間に1度だけ出張をしてくる、明らかに運動不足の目立つ肥満した若い医者に、僕は運動不足を指摘された。具合の良いことに、マウンテンバイクで通勤をしている社員のマキシマトモカズ君が最近、大枚を投じてこれを新しいものに買い換えた。
「古い方を譲ってくれないか」 と頼むと 「それでは3万円で」 ということで、交渉がまとまった。マキシマトモカズ君はある朝、古いマウンテンバイクで出勤し、それを置いて徒歩にて帰宅した。
今朝、市本サイクルに電話をし、これのオーヴァーホールを依頼すると、数時間を経て本酒会のイチモトケンイチ会長が、軽トラックに乗ってきた。オフロード用のタイヤをスリックタイヤに替え、その他、外せるものはすべて外す。代わりに走行スピードと走行距離を測るトリップメイターの取り付けを頼む。
知っている道の歩行は退屈でつまらない。自転車でなら、かなり遠い、知らない場所まで行くことができるだろう。本当ならこのマウンテンバイクを甘木庵に置きたいところだが、それでは運動不足の解消にはならない。
「街の美味しいもの屋さん」 に画像を載せるため、「金長」 のメンチカツ弁当を取り寄せて、これを昼飯とする。テレビに息子がよく顔を出す日本橋の有名洋食屋のメンチカツよりも、「金長」 のそれは数等美味い。
今朝から 清閑PERSONAL の巡回者より、「トップペイジに、新たに検索システムを設置したのか?」 とか 「清閑日記が5月21日の分までしか読めない」 などという知らせが届いていた。相手のブラウザの不調に過ぎないと考えていたが、午後にいたって社員や家内のコンピュータにも、同じ状況が現れ始めた。
考えてみればこれは、5月22日にウチのウェブペイジを "Computer Lib" のサーヴァーへ一部送り、動作確認を行ったときのものが、今日から見え始めているのではないか? と予想をした。
これまでウチのウェブペイジは、「企画屋」 に置いていた。6月のいずれかの日に、万全を期して "Computer Lib" のサーヴァーにこれを移そうと目論んでいたが、図らずもその移行が今朝、為されてしまったことをこの不具合は示している。
取り急ぎ社長のナカジママヒマヒ氏に電話を入れ、社員のモリアスカさんを通じて、"Computer Lib" のサーヴァーにてeメイルのやりとりをするパスワードの設定をする。次に、ファイル転送プロトコルのクライアント "NextFTP" の設定をしようとするが、それがままならない。
何度かのやりとりを経て、マヒマヒ氏が 「ルーターの設定を変える必要があるのではないか?」 との見解を示したため、地元のコンピュータ屋 "FSE" のシバタサトシさんを呼ぶが、「これはルーターの問題ではない」 と言う。
夕刻にいたり、ナカジママヒマヒ氏より連絡が入る。
「スイマセン、やっぱりウチのサーヴァーの問題でした。7時までには復旧させますから」
「じゃぁ、7時になったら "NextFTP" の動作試験をして、電話を入れますよ」
「いや、その時間には電話が繋がらないかも知れません」
「あ、そうですか、とにかく7時に試してみます」
7時に電話が繋がらないとは、どこかのスポーツバーで、ワールドカップの日本対ベルギー戦でも見物するつもりなのだろうか?
とりあえず自宅へ戻り、晩飯にする。冷や奴、キャラブキの佃煮、ニシンの山椒煮、ツルムラサキのおひたし にて、泡盛請福を飲む。鶏肉とピーマンのオリーヴオイル炒め、冷やし素麺 にて、更にコップ半杯の泡盛を飲む。
6時40分に、ナカジママヒマヒ氏から連絡が入る。電波状況が悪いのか、すぐに切れてしまう。こちらから電話をしてみると、やはり繋がらない。
とりあえず7時に事務室へ降り、"NextFTP" を回してみると、今度はスルリとサーヴァーに繋がった。ウェブショップ の顧客に迷惑がかからないよう、一部のファイルのみを、"Computer Lib" のサーヴァーに転送して、今夜の作業を終える。
入浴してアミールSとイチョウ葉エキス6粒を飲み、9時前に就寝する。
朝4時30分に起床する。
事務室へ降りて、いつもの仕事を始める。5時に、社員のシミズハナコさんから電話が入る。彼女がコンピュータの中に作った、3つのフォーマットの整合性についての説明だった。僕が朝早くから起きていることを知っての連絡だろう。
今日は検査のための採血がある。先日、中年の太った看護婦さんに言われたとおり、水も飲まず朝飯も抜く。
"Computer Lib" で再構築中のウェブショップに、直さなければいけないデザインや文言が無数にある。これを洗い出し、訂正個所や方法を文字に起こしているあいだに、どんどん時間が過ぎる。細かい作業ほど、途中で止めると次の開始時に齟齬を生じやすい。
採血の予約は朝9時に入れられていたが、10時30分に至ってようやく岡村医院で受付をする。
昼飯には好物の、鰹節と鶏肉で出汁を取った冷やし素麺を食べる。僕には自分の好みを人に押しつけるところがあるけれど、気の利いた飲み屋がこの麺をサーヴすれば、かなりの確率で多くの愛好者を生むだろう。
午後、八王子に住むふたりの小学生から連名で、ウチの商品についての質問状が届く。学校での授業に使うらしい。手紙とパンフレットと名刺、それに売れ筋の商品4点を添え、宅急便にて送付する。
終業の後、一昨日、"Casa Lingo" のヨシハラさんからいただいたオリーヴオイルを開栓しながら、"Domaine Leflaive Bourgogne Blanc 1997" を飲み始める。夏は夜7時になっても外は明るい。この明るいうちから飲む酒が、僕はことのほか好きだ。
マグロの安い切り落としを皿に並べる。出窓の植木鉢から、なにやら分からない葉を適宜つまみとり、これをマグロの上に落とす。
オーストラリアの塩湖の塩を振り、オリーブオイルとバルサミコをかけまわす。
トマトとモツァレラチーズを挟み、これにも塩とオリーヴオイルを振る。
ニンニクとトウガラシと塩のみの味のスパゲティにも、このオリーヴオイルを使ってみる。
網で焼いたピーマンとナス、それと鶏肉にも、同じく塩とオリーヴオイルとバルサミコを振る。
これらがみな、揃いも揃ってひどく美味い。
料理の下手な人は、無理をして料理などする必要は無いのではないか? なんでもかんでも皿に並べ、あるいは素焼きにし、卓上に運んで塩とオリーヴオイルとバルサミコを振りかければ、みな美味くなるではないか。
しかしまた、料理の下手な人とは、そのようなレヴェルにもないことを、僕は知っている。
入浴してアミールSを飲み、8時30分に就寝する。
5時に起床する。
ウェブショップ の受注をこなし、会社のpatioにアップする。eメイルをダウンロードし、必要最小限の返信のみをつける。きのうの日記を作成する。
7時より 「二宮デー」 ということで、市内の清掃活動に従事する。「二宮デー」 とは、我が町の開墾事業を行い、我が町で亡くなった二宮金次郎にちなむものだ。
働き盛りの健康な人がいるにもかかわらず、これに参加をしない家が多い。そういう家の前の雑草を、参加した老人が引き抜いたりしている。参加していない人は、いまだ布団の中でセックスでもしているのだろうか。
「二宮デー」 に引き続き、会社に沿った道路の掃除をする。店に戻って灯りをつけると、飾り棚にヒマワリがある。小津の 「東京物語」 で笠智衆が 「きれいな夜明けじゃった。今日も暑うなるぞ」 と言ったのは、何月のことだったのだろう。
朝飯は、タシロケン坊んちのお徳用湯波とコマツナの炊きもの、ブロッコリーと鶏挽肉の胡麻よごし、ナスとシシトウの油炒め、カブの一夜漬け、納豆、メシ、お麩とワカメと万能ネギの味噌汁。
10時より小学校1年生の次男を連れて、三菱デリカに積んだ2台の自転車と共に、大谷川沿いの松原公園へおもむく。公園内はもとより、大谷川にかかった橋の往復など、数キロメートルのサイクリングをする。
帰宅してシャワーを浴び、トマトのタンメンを食べる。
午後、家内は次男を連れて、100名が収容できる規模のホールを自宅に持つ家へ、ヴァイオリンのコンサートに行った。僕は事務室と店舗、それと製造現場にて過ごす。昨年の同じ曜日よりも、今日は幾分、忙しいようだ。
閉店後に販売担当と短いミーティングを持ち、自宅へ戻る。
女優の吉行和子が 「食事は面倒を避けるため、できることなら錠剤で済ませたい」 と言うのを聞いて、大いに驚いたことがある。メシに興味のない人というのは、僕の理解の範囲外にある人だ。
しかしいざ自分が1週間に1、2度も ヨーグルトとビール酵母による食事を経験してみると、これはこれで悪くない。宇宙飛行士にでもなった気分だ。
団鬼六の 「外道の群れ 責め絵師・伊藤晴雨伝」 を読み終える。
文章が3分の2を超えるあたりから、この小説家らしくない、なにか迷いながら筆を進めているような不自然さを感じていたが、夜、ベッドの上であとがきに至ると、「なにやら奥深い森林地帯に行き暮れた感じになり、ついには出口にたどりつけなくなったようなものだ」 と作者自身も書いている。
この本の解説は意外にも村上龍が務めているが、口を極めてこの小説を褒める彼は、偉大なる誤読家ではないか? いまだ死んだわけではないが、団鬼六の晩年の傑作としては、僕は
家内の足音に目を覚ます。時間を訊くと2時だという。テレビでフランス対セネガルの試合を見終わった後に、事務仕事をしていたらしい。何とか眠ろうと静かにしていたが、2度寝はできなかった。3時に起床する。
先月27日に投函し、転居先不明や住所不明にて返送された封筒の宛名を確認する。「夏のギフトのご案内」 送付実績から、これを削除する。
5月の本酒会は28日に行われたが、その晩、僕は東京にいたため、これを欠席した。出席者が出品された日本酒に投票した紙が、僕の不在中に届けられている。
これを元に紙の会報を作って会員へ送り、メイルマガジンにしてこれも送り、ウェブペイジも作る というのが本酒会における僕の仕事だが、そこまではなかなか手が回らない。
ウェブショップ の受注をこなし、諸方のpatioに11通の返信を書く。数通のeメイルを送受信し、きのうの日記を作成する。
朝飯は、キュウリのぬか漬け、厚揚げ豆腐とコマツナの煮びたし、納豆、ブロッコリーの油炒め、刻みオクラの鰹節かけ、メシ、シジミとミョウガの味噌汁。
10時より2台の自転車を三菱デリカに載せ、次男と松原公園へ出かける。1時間と少々を遊び、帰宅する。
土曜日ということもあり、店舗は賑わうが、電話やファクシミリによる地方発送の注文は少ない。
終業後に家族3人で、クルマで小1時間ほどもかかる県央部の獨協医科大学病院まで、知人の見舞いに出かける。知人は本日、一時帰宅中で不在だった。下準備のない行為は、多くこういう結果をもたらす。
途中どこか適当な店を探して夕食をとろうとするが、まったく見つけることができない。鹿沼市を経由し、暗く曲がりくねった雨の例弊使街道を抜けて、8時に今市市へ戻る。
"Casa Lingo" にて、トマトとモツァレラチーズのカプレーゼ、カツオのカルパッツィオ、ソーセージの盛り合わせ、新玉ネギのスパゲティ を食べる。
ワインは自重をして、グラスにて白と赤を各1杯ずつのみ飲む。チーズのタルトにて締める。
9時に帰宅し、入浴して9時30分に就寝する。