2025.3.1(土) タイ日記(5日目)
夜が明けると共に鳥の啼き始めるのは、日本でもタイでも変わらない。聞こえるのは「ホーイッ、ホーイッ」という、こちらではおなじみのもの。それに他の鳥の声も混じる。空は晴れている。その空を見て「そうだ、今日は洗濯の日だった」と思い出す。
きのうまでに溜まった洗濯物をIKEAのトートバッグに詰めて、おとといの日記に書いた、招き猫の看板のコインランドリー”Neko wash & dry”へ行く。係のオバサンは、おとといとは異なる人だった。
洗濯機は20キログラムと15キログラムの2種があったため「こちらで充分」と、15キログラムの方を僕は指す。オバサンは僕からトートバッグを受け取り、その中味を洗濯機の中に入れていく。日本から持参の粉石鹸をその洗濯機に入れようとして「ノー」と言われる。よって昨秋にチェンライのコインランドリー”otteri”で買って余らせた液体洗剤を差し出すと、オバサンはそれを受け取り、洗濯機の上の口から絞り入れた。
タイ語が読めるわけではないけれど、15キログラム用の洗濯機の奧の壁には「7時から23時59分まで冷水洗い50バーツ、ぬるま湯洗い60バーツ、温水洗い70バーツ、0時から7時までは、それぞれ30バーツ、40バーツ、50バーツ」の表示がある。「50バーツだね」とオバサンに確かめると、オバサンは洗濯機の、硬貨の差し込み口を指で示す。そこに、これまで溜めておいた10バーツ硬貨5枚を投入する。電光掲示板に出た数字は30分。それをオバサンはまた指で差す。
外の通り、建物、樹木、人、みな朝日を浴びている。「あー、気持ちいいなぁ」と思わず声が出る。それに我ながら驚いて「自分の口からそのような言葉が漏れるときとは、自分がどのような状況にあるときだろう」と考えてみる。そしてそれが「暖かさと薄着」のふたつによることを、改めて知る。
コインランドリーのテーブルで本を読むうち洗濯機が止まる。オバサンは洗濯機の中に残したものが無いか入念に調べつつ、洗い上がった衣類をカゴに入れた。そして今度は20キログラム用の洗濯機と接している乾燥機にカゴの中味を投げ入れた。乾燥時間は25分間で、選べる温度帯は”HIGH”、”MED”、”LOW”、”DELICATE”、の4種。デフォールトは”MED”らしく、ここでもまた10バーツ硬貨5枚を機械に投入する。
おとといの日記に書いたように、月曜日からは川沿いの、つまり中心部からは離れたホテルに移る。その日の早朝には、洗濯物は2日分しか溜まっていないだろうけれど、またここに来ることにしよう。それも、いまだ料金の安い7時前に、だ。
ここ数日を過ごしてみて分かったことだが、いささか肌寒い朝の気温は、10時ころから上がり始め、昼には35℃に達する。よって今日は10時を過ぎたところでプールサイドに降りる。そうして13時30分に到ったところで腹の具合を確かめ「昼飯は抜いても大丈夫ではないか」と考える。しかし10分後には「いや、しかしそれでは夕刻まで保つまい」と、プールサイドから引き上げる。
チェンライに入って2日目の昼は、看護婦さんであふれるフードコートでカオカームーを食べた。その、ローカルの小さなフードコートにカオゲーン、つまりぶっかけメシ屋のあることは、その前をたびたび通りかかって確かめてあった。
ホテルから歩いて3分ほどのフードコートは、今日が土曜日だからだろうか、開いている店は少なかった。また既にして14時がちかいせいか、僕以外の客はひとりきりだった。僕はカオゲーン屋のオネーサンに、ごはんにのせるべきおかず2種を指で伝えた。
ごはんの盛りは良い。ごはんの左には茄子と豚の挽き肉をたっぷりの油で炒めた、タイではよく目にするもの。右には豚肉団子と葱と香り野菜の炒めものが載せられている。その右側のおかずを先ずは口にして「アッ」と、声にならない声を出す。容赦の無い辛さである。「いいじゃないですかー」である。ガイジンに忖度したタイ料理は好きでないのだ。
食べ終えてオネーサンに100バーツ札を渡し、釣銭は数えないままポケットに入れた。そして席に戻ってその釣銭を確かめると20バーツ札が2枚、10バーツ硬貨が1枚、5バーツ硬貨が1枚の、計55バーツがあった。ということは、おかずをふたつ載せたぶっかけ飯は45バーツ。「安い」と感じても口に出さないよう努めている僕でさえ、思わず「ヤッスッ」と声が出てしまった。それにしても、この店のおかずは美味い。日曜日の明日も、取りあえずは覗いてみることにしよう。
朝に洗った洗濯物を、午後は日の当たる窓際に並べて、より一層、乾かそうとする。そしてベッドで本を読みつついつの間にか眠ってしまい、目が覚めると16時が過ぎていた。カーテンは引いていなかったため、部屋の中はとても暑くなっている。
マッサージ屋の”PAI”には毎日16時に出かけることとしていたものの、小一時間ほど遅れてしまった。今日のオバサンは足の角質をすこしばかり削ってくれた。また脛のかさぶたを指でなぞって「痛いか」と訊くので「痛くない」と答え、iPhoneの翻訳ソフトに「アレルギー性の湿疹」と入れて、そのタイ語をオバサンに読ませる。フットマッサージ1時間の料金は200バーツ。オバサンには50バーツのチップ。
きのうとおなじ食堂の外の席で「百代の過客」の下巻を読みつつ、その220ページに思わず膝を打つ個所を発見する。芭蕉の五十年忌に思い立って江戸から松島を目指した山崎北華の旅行記「蝶之遊」の章の一部分。
……
不時の用意に従者を伴うよう友は勧めるが、北華は一人旅を選ぶ。急ぐ理由はなにもないのだから、格別難儀はあるまいと考えたのだ。それに、もし従者が彼の荷物を運んでくれ、己一人大手を振って歩くのならば、まことに「風雅なかるべし」と思ったのである。
……
「なぜ旅行に出てまで安楽を遠ざけ、苦を求めるのか」と家内は言い、僕に同行することをしない。僕の答え「楽な旅行なんてカッコ悪いじゃん」はまさに「風雅なかるべし」だったのだ。
今夜はナイトバザールの中を、自転車を押して過ぎる。そうしてホテルに戻ってシャワーを浴び、20時より前に寝に就く。
朝飯 “NAI YA HOTEL”の朝のブッフェ其の一、其の二
昼飯 Ruamchittawai Road南側のフードコートのカオゲーン
晩飯 「ジャルーンチャイ」のヤムカイヨーマー、カームーパロールアムサイルアット、ラオカーオ”BANGYIKHAN”(ソーダ割り)