2022.3.21(月) 不思議なことも
「汁飯香の店 隠居うわさわ」の朝一番、8時30分に予約をいただいていた7名様が、時間どおりに来店をされた。お車をお停めになったのは上澤梅太郎商店の駐車場だったため、そこから隠居までは僕がご案内をした。
片手でノレンを持ち上げ、開いた三角形の隙間を、お客様にくぐっていただく。皆様が石の橋をお渡りになったあたりで僕が先頭に出る。飛び石を踏んで右へ左へ。そして玄関の戸を引く。すると正面の個室には、おなじ時間にご予約くださった別のおふたり様が、既にしておくつろぎになっていた。
玄関を上がってすぐの6畳間は帳場で、庭に面した座敷にくらべると「陰影礼賛」のような薄暗さだ。この部屋の長押には、営業許可証と食品衛生責任者の札が掲げてある。営業許可証は長押と壁の溝に嵌まっている。しかし食品衛生責任者のプレートは、長押の幅1センチほどの上縁に「触れなば落ちん」という風情で立てかけられただけだ。
先週水曜日の夜の地震により、鉄筋コンクリート造りの製造現場ではLEDの照明1本が天井から垂れ下がり、4階では花瓶が倒れ、仏壇の位牌と高台が落ちた。しかし築推定150年の隠居では、長押に立てかけられたプレートが微動だにしていない。
「不思議なこともあるものだ」と、思う。
朝飯 ひじきと人参と揚げ湯波の炒り煮、はんぺんの網焼き、焼き鮭、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、沢庵、メシ、トマトと若布と長葱の味噌汁
昼飯 「ふじや」の雷ラーメン
晩飯 “FLYING GARDEN”のマッシュルームのサラダ、ハンバーグドリア、カラフの赤ワイン
2022.3.20(日) 啓蟄から15日
1年のあいだには、いくつかの区切りがある。大晦日から元日にかけては、もっとも大きな区切りだろうか。役所や学校においては、3月31日から4月1日にかけてが、年末年始より大きな区切りになるかも知れない。個人としては、春の彼岸は無視できない区切りである。年明け以降の雌伏から、諸事がむくりと首をもたげる、その節目、という意識が強い。
土曜日からの3日間は、社員が企画した「花のおたよりべんとう」を店にお出ししている。ご予約の他、当日ご来店のお客様にもお買い上げをいただき、きのうは完売をした。そして今日もまた完売の評価をいただいた。さて明日は、どうなるだろう。
きのうの夕刻には「汁飯香の店 隠居うわさわ」への、本日のご予約が相次いだ。そのころ席は既にして全時間において埋まっていたから、それらのお客様は残念ながら、すべてお断りせざるを得なかった。啓蟄から15日が経っている。隠居の座敷から間近に望まれる白梅は、月末には見ごろになるだろう。
朝飯 ハムとキャベツとポテトのサラダ、ひじきと人参と揚げ湯波の炒り煮、納豆、めかぶの酢の物、沢庵、ごぼうのたまり漬、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、メシ、若布と長葱の味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 蒲鉾、いぶりがっこ、TIO PEPE、胡瓜とトマトのサラダ、大根の味噌汁、焼売、肉まん、花豆、春子漬け、らっきょうのたまり漬、麦焼酎「こいむぎやわらか」(お湯割り)
2022.3.19(土) リブレット
「女房が後ろを向いているあいだが勝負。その一瞬の隙を突いて、コレで仕事をするわけです」と、むかし電子会議室に書いた人がいる。「コレ」とは東芝が1996年に発表した極小コンピュータ”Libretto 20″だった。そのころ”ThinkPad 530″を使っていた僕は「それは流石に無理でしょ」と感じた。”Libretto 20″は画期的なWindows機ではあったものの、いかにも小さすぎて操作性が悪かった。その人の発言も、9割方は冗談だったように思う。
活字中毒でありながら、僕は本は、ほとんど家の外でしか読まない。読む機会が少ないにもかかわらず、本は次から次へと買う。それでは糞詰まりである。今朝は2日分以上の日記を書いて、いまだ時間は5時台だった。前述の人が「女房が後ろを向いているあいだが勝負」なら、僕は「家内が起きてくるまでが勝負」だ。
2月2日から読み始めていまだ読み終えない「三島由紀夫紀行文集」を、本棚から食堂に持ち来て開く。後々調べ直したいページを折りながら読み進むうち、残りのページは呆気なく尽きて「解説」に至った。しかしてこの佐藤秀明による解説が29ページもある。「ウンザリか」と問われれば、とんでもない、大いに得をした気分である。
今朝のうちに読み終えることのできなかった解説は、明日の朝から、また読もうと思う。
朝飯 ハムとキャベツとポテトのサラダ、焼き鮭、納豆、ひじきと人参と揚げ湯波の炒り煮、沢庵、ごぼうのたまり漬、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、メシ、きのうのキムチ鍋の残りを具にした味噌汁
昼飯 うどん
晩飯 いぶりがっこ、TIO PEPE、キウイと苺とベビーリーフのサラダ、浅蜊と蛍烏賊と菜花のスパゲティ、Chablis Billaud Simon 2015、チーズパン、TIO PEPE
2022.3.18(金) 春彼岸
朝食前に家内と如来寺のお墓へ行く。氷雨とばかり思っていたが、降っているのはミゾレだった。
「寒さは必ずぶりかえす。隠居の暖房絨毯は、梅雨が明けるまで片付けるべきでない」と、数日前に長男が言っていた。僕はダウンベストから毛糸の帽子にいたるまで、すべて洗濯屋に出してしまった。考えてみれば、おととしは桜の花に雪が積もったのだ。
妹が病没した1972年に新しくしたお墓、また昨年に亡くなった叔父のお墓に線香と花を供える。いずれミゾレであれば、墓石を布で拭くまではしなかった。
9時を過ぎたところで花も売るテーラーシマダヤへ行く。そして叔母が頼んであった9対の花を受け取る。それを持ってふたたび如来寺のお墓へ行く。先ずは1972年以前のお墓のうち花立てを持つ7基にそれぞれ1対ずつ花を供える。今朝、お参りしたばかりのふたつのお墓にも1対ずつ花を供える。ミゾレは有り難いことに、こぬか雨に変わっていた。
お彼岸の連休に遊べる人は、どんどん日光へ来てください。僕のお彼岸は、墓参りと仕事である。
朝飯 目玉焼き、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、納豆、ひじきと人参と揚げ湯波の炒り煮、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、メシ、キャベツと若布の味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 めかぶの酢の物、ステーキソースで食べる鰹の刺身、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、キムチ鍋、麦焼酎「こいむぎやわらか」(お湯割り)
2022.3.17(木) ガーベラ
きのうの夜の地震は強くて長かった。目を覚まして布団の中で収束を待つものの、揺れはいつまでも止まない。寝室から廊下に出る引き戸は揺れの最中だから、いつものように軽くは開かない。応接間では、飾り戸棚の一輪挿しが倒れたため、横にしたまま床に落ちない場所に置き直した。仏壇の中で、気になる音がする。ようよう揺れの落ち着いたところで扉を開けば、菓子を載せた高台1客と位牌1基が落ちていた。
2月24日に引き続いて、今日は隠居で2度目の撮影がある。写真は5月の設定だから床の間の「筑後途上五絶」は朝のうちに外して今井アレクサンドルの「ガーベラ」に掛けかえる。この、50号のキャンバスに描かれた絵は2011年3月、東日本大震災の見舞いとして今井が僕にくれたものだ。
きのうの地震により製造現場では、天井から照明が1台、外れて垂れ下がった。その照明を取り付けた業者に連絡をすると、30キロの道のりを数十分で駆けつけてくれた。隠居での撮影は、僕が見に行く前に首尾良く終わった。
銀行まわりなどが一段落した16時に隠居へ行く。そして「ガーベラ」を外して「筑後途上五絶」をふたたび掛ける。木造の古い家は、地震に強いところがある。隠居の食器や調度は何ひとつ落ちず、ずれてもいなかった。
朝飯 温泉玉子、ひじきと人参と揚げ湯波の炒り煮、納豆、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、メシ、若布と菠薐草の味噌汁
昼飯 うどん
晩飯 胡瓜とセロリとレタスとルッコラのサラダ、2種のトースト、鶏とリガトーニのグラタン、Chablis Billaud Simon 2015
2022.3.16(水) 無味の味
数ヶ月先の、ある日の日記を書きつつ「無味の味」と検索エンジンに入れてみた。すると昭和6年の日付のある、魯山人の文章が出てきた。それによれば「無味の味」の海における究極はふぐであり、山におけるそれはわらびであると、あった。
僕は魯山人の言う「徳島、下関、出雲あたり」の人ではないから、ふぐを常に食べる習慣は持たない。わらびは、これを好むうちマメな人は自ら山で採り、茹で、灰汁を抜く。僕はそれを予期せずいただいて賞味する。今年、その機会は訪れるだろうか。ちなみに魯山人は、わらびは酢醤油で食べるという。僕なら酢と「日光味噌のたまり浅漬けの素・朝露」を合わせて使うだろう。「朝露」は浅漬けの素ではあるけれど、味の淡いものに差しても、また佳、なのだ。
「人はパンのみにて生くるものにあらず」という言葉がある。ところが僕にはパンのみにて生きているようなところがある。「今夜あたり、鮪を朝露で漬けたやつが食いてぇな」と思う。
朝飯 鶏とコンニャクの炊き合わせ、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、蓮根のきんぴら、納豆、切り昆布の炒り煮、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、メシ、豆腐と長葱の味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 揚げ湯波とひじきと人参の炒り煮、鮪の「朝露」漬け、うずら豆、雲呑、「栗林酒造店」の「春霞純米吟醸」(冷や)
2022.3.15(火) 健康診断
歯医者では口の中で道路工事まがいのことをされても平気だ。伊豆の治療院での、拷問のような治療にも絶えられる。鼻から入れる細いスコープが開発される以前の、喉から入れる胃カメラも苦にしなかった。ただ、血管注射だけが怖い。その怖さは、不気味さと言い換えるべきかも知れない。皮膚を透かして青黒く見えている血管に針を刺される、その不気味さは、たとえば蛙の活き作りがあったとして、そのいまだピクピクと動いている内臓を生で食えと無理強いされる気持ちに近い。
会社の健康診断は、総勢10名の医療関係者を社内に迎え、8時より始まった。視力、聴力、心電図。身長、体重、レントゲン。自分の問診票を手に、あちらこちらを巡る。そして最後に回したのが採血である。
血管注射を恐れる気持ちのあることを伝えると「でしたら細い針にしますね」と係の女の人は言ってくれたけ。その心遣いは有り難いものの、血管に針を刺される事実は変わらない。しかし今日の人は上手かった。文章が長くなるから細かくは書かないが、日進月歩する採血用の器具も、不気味さの軽減には大いに役立っている。
ところで9年ほど前より漸減を続けている体重は、昨年からまた2キロ減った。2キロも減れば漸減でもないと、この日記を検索してみた。どうやら昨年はすこし太ったらしく、そこからまた元に戻っただけのようだ。BMIは19.58で、適正体重より7キロ少ない。加齢と共に太る人もいるけれど、僕のような例も、またあるのだ。
午後、琴平山の手前の空を、雲のようにかたまった花粉が風に運ばれていくところを目撃する。視線を南に転ずれば、例幣使街道の杉並木が大量の花粉を吹きだしている。花粉の季節は、5月のなかばごろまでは続くらしい。
昼飯 「ふじや」の広東麺
晩飯 人参と夏みかんのサラダ、トマトと玉葱のサラダ、TIO PEPE、エリンギと菠薐草のソテーと自家製のソースを添えた2種のビーフステーキ、チーズ、そのチーズを塗ったトースト、Nuits Saint Georges Les Hauts Poirets Machard de Gramont 1983
2022.3.14(月) コロモガヘ
冬から春に向かうに連れ、僕はこれまで以下のように、着るものを軽くしてきた。
冬:長袖ヒートテックタートルネックT+長袖フリースセーター+ダウンベスト
春:長袖ヒートテックタートルネックT+長袖フリースセーター
晩春:長袖ヒートテックタートルネックT+長袖Tシャツ
ところが上記のうち、ユニクロの長袖ヒートテックタートルネックTは終売になり、9分袖のもののみになってしまった。仕方なく昨晩秋は、それを超極暖ヒートテックに買い換えた。超極暖は、冬のあいだは有り難い。しかし以降においては、いかにも過重装備だ。
よっておととい、きのうとこれからの季節にふさわしいものを探し、結局はワークマンのファインアシスト裏綿長袖ハイネックを森友地区の店舗で手に入れた。今朝はこれに長袖Tシャツを重ね、服装は真冬から春、晩春を飛び越えて、一気に薄くなった。
このファインアシスト裏綿長袖ハイネックは、秋からもまた必要になるだろう。きのう買ったのは1着のみだった。残りはウェブショップで注文し、実店舗で受け取ろうと思う。
朝飯 鶏とコンニャクの炊き合わせ、生玉子、納豆、切り昆布の炒り煮、蓮根のきんぴら、すぐき、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、メシ、蕗のとうの天ぷらと若布の味噌汁
昼飯 「食堂ニジコ」の麻婆丼
晩飯 チーズ、TIO PEPE、トマトサラダ、キャベツとコンビーフのスパゲティ、Chablis Billaud Simon 2015
2022.3.13(日) 検分と入力(続)
隠居に「汁飯香の店 隠居うわさわ」を開いたのは2020年3月。最初に掛けた軸は「三友争研」の題を持つ、椿椿山による松竹梅図だった。倉庫の棚から適当に抜き出したもので、決めたのは「松竹梅ならめでたかろう」くらいの理由による。
母屋にも床の間はあるものの、軸を掛けるなどは晩秋の恵比寿講を除いてまったくしてこなかった。しかしこれからは、隠居を飾る必要がある。季節に応じた軸を掛けるためには、先ず、どのような軸があるかを知らなくてはならない。そういう次第にて先月26日には、このところの日記に書いている「38軸」のうちの17軸をコンピュータに整頓した。
今日はその続きにて、残りの21軸を13時30分より長男とあらためていく。予定が詰まっていたこともあり、14時50分までに確認できたのは3幅のものも含めて12軸。そのうち「これなら隠居に掛けても良かろう」と思われたものは3軸。歩留まりは良くない。
さて、残る9軸を検分できるのは、いつになるだろう。そして夏に掛けられるものは、いまだひとつも出てきていない。
朝飯 牡蠣の醤油煮、蓮根のきんぴら、納豆、鶏とコンニャクの炊き合わせ、すぐき、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、メシ、トマトと若布と長葱の味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 「板門店」のあれや、これや、他あれこれ、済州マッコリ、林檎のシャーベット
2022.3.12(土) 筑後途上五絶
ウチにある80余の掛け軸のうち「まぁまぁ」と専門家に言われたもの、そこに「これもまた悪くない」と僕が感じたものを加えると38軸になる。このうちの17軸を、先月26日にコンピュータに整頓した。
80余軸を倉庫の棚に見たときからうすうす気づいていたことではあるが、季節は秋のものが圧倒的に多い。日本では、秋こそ絵になる季節なのだろうか。あるいはこれらを集めた4代、5代前の人の好みを映してのものだろうか。
「汁飯香の店 隠居うわさわ」の庭には梅が咲き始めた。庭に梅、床の間も梅では何やら季重なりのようで具合が悪い。小杉放菴による「梅花」を下げたとして、他には何があるだろう。そして先月26日に入力したばかりの一覧を見る。春に関わるものは、果たして野村素軒の「筑後途上五絶」のみがあった。書道教室を営む先輩タケムラキヨシさんに助けていただきながら解読した文字は、以下の通りである。
行尽連山険
如看平野長
天鵯聲不絶
十里菜花黄
1982年2月20日、早朝ポカラを出発したバスがいくつも山を越え、夕刻、最後の峠に達すると、眼下のカトマンドゥには一面に菜の花が見えた。野村素軒が九州に遊んだのも、おなじく2月の終わりごろだっただろうか。
日光に菜の花は、いまだ咲かない。「筑後途上五絶」は、きのう白木屋に頼んだ「佳更」の額装が成るまで掛けておけるだろう。
朝飯 牡蠣の醤油煮、納豆、しもつかり、蓮根のきんぴら、すぐき、ごぼうのたまり漬、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、メシ、若布と長葱の味噌汁
昼飯 「CoCo壱番屋」のポークカレー、野菜サラダ
晩飯 じゃがいもと人参とピーマンのサラダ、たたき胡瓜のにんにく風味、春子漬け、冷や奴、水餃子、「紅星」の「二鍋頭酒」(生) 、林檎のゼリー、TIO PEPE