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清閑 PERSONAL DIARY

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2020.11.20(金) 供華

今朝こそは「冬眠不覚暁」を脱し、1時台の、それも前半に目が覚めた。1時台とはいかにも早すぎる。しかし、しばらく静かにしていても、眠気はふたたび訪れない。起きてお茶を淹れたり味噌汁のだしを引いたり、あるいは手にクリームを塗ったり新聞や本を読んだりする。

今日はオヤジの祥月命日だ。2015年の11月20日は快晴だった。病院からはハロルド・メイバーンのアルバム”Kiss of Fire”を聴きつつ会社に戻った。途中「いきなり葬儀場に持ってくっちゃ、ホトケさんが可哀想だんびゃ」と、シバタ鉄工のノーヤンから怒りの電話が入った。そのノーヤンも鬼籍に入って久しい。

9時を過ぎ、銀行などの用事を済ませてから如来寺のお墓に家内と参ずる。どなたが供えてくださったものかは不明ながら、花立てには既にして真新しい花があった。

オヤジが亡くなって以降、その命日には必ず線香を上げに来てくれる方を、今日も家にお迎えする。その方を見送って10分後、所用によりホンダフィットにて宇都宮へ向かう。


朝飯 切り昆布の炒り煮、納豆、厚揚げ豆腐と小松菜の炊き合わせ、「なめこのたまり炊」によるなめこおろし、ごぼうのたまり漬、メシ、揚げ湯波と蕪と蕪の葉の味噌汁
昼飯 「大貫屋」のタンメン
晩飯 ブラッディメリーのソーダ割りトマトとブロッコリーのサラダきのうのシチューによるソーセージ煮込みChateau Beauregard Pomerol 2003“LE COFFRET”のガレットブルトン、Old Parr(生)


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2020.11.19(木) 大丈夫

「ステーキだよ」と、夜になってから言われても困る。僕の持つ赤ワインは古いものばかりで、寝かせてある瓶の下側に、帯状に澱が溜まっている。丸1日ほど瓶を立て、底まで澱を沈めないことには飲めないのだ。

きのう会社から上がると、家内はビーフシチューの調理を始めた。明日の夜のためのものだろう。そう考えて僕はワイン蔵へ降りた。そしてボルドー産のあれこれの並ぶ場所を見ていきながら、首に付箋の貼られた1本のあることに気づいた。付箋には「2008.12.26 FROM市本」と書かれていた。

イチモトケンイチ本酒会長は、飲み会の会長にもかかわらず、月に1度の例会日にしか酒は飲まない。4本、5本と飲んでも、その総量は毎回、1合以下である。付箋の貼られらワインは多分、イチモト会長がどこかから贈られ、しかし自分には不要ゆえ、僕に回してくれたものだろう。

底の「ギザ」がテーブルを傷つけないよう、瓶は折りたたんだハンカチに載せる。アルミニウムの封を丸く切り抜き、栓を抜く。ワインを飲まない人から到来したワインは保存の悪さから、既にして死んでいることが少なくない。しかし今日のこれは大丈夫だった。

そうしてトマトソースで煮込まれた牛肉を肴にして、この赤ワインを静かにゆっくりと飲む。


朝飯 納豆、菠薐草と榎茸のおひたし、大根おろしを添えた厚揚げ豆腐の網焼き、切り昆布の炒り煮、温泉玉子、ごぼうのたまり漬、メシ、若布と揚げ湯波と蕪の葉の味噌汁
昼飯 きのう「やぶ定」から持ち帰った豚カツによる弁当
晩飯 トマトのサラダ、Petit Chablis Billaud Simon 2016、トマトと雪菜のスパゲティビーフシチューChateau Beauregard Pomerol 2003“LE COFFRET”の焼きメレンゲのケーキ、Old Parr(生)


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2020.11.18(水) それを知るだけのために

本の「きゃー、かっこいい」と感じる題名は、何と言っても塩野七生の「チェザーレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」だろうか。この上を行くものは何だろう。あるいは小林秀雄の「様々なる意匠」かも知れない。お酒の名前なら「美酒の設計」は、かなりかっこいい。次にグッと来るのは「聴雪」だ。

「美酒の設計」は、何となく前述の「様々なる意匠」を思わせる。それに対して「聴雪」と聞けば、僕には一茶の詠む冬景色が頭に浮かぶ。「美酒の設計」と「聴雪」とはまったく傾向のことなる酒名ではあるけれど、双方とも齋彌酒造店の品物だ。それぞれの名付け親は誰だろう。それを知るだけのためにこの酒蔵を訪ねてみようとする気持ちが僕にはある。

さて本日は日本酒に特化して月にいちど開かれる飲み会「本酒会」の例会日だ。冷蔵庫には「美酒の設計」もあるけれど、それは新年に回すことにしよう。そしてそれを除く4本を朝、来社したイチモトケンイチ会長の軽トラックに載せる。


朝飯 里芋の淡味炊き、大根の浅漬けゆず風味、小松菜の白和え、菠薐草と榎茸のおひたし、ごぼうのたまり漬、鮭の「日光味噌」漬け焼き、メシ、揚げ湯波と三種の茸と万能葱の味噌汁
昼飯 揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、牛肉のすき焼き風、2種の佃煮、梅干し、ごぼうのたまり漬によるお茶漬け
晩飯 「やぶ定」の酒肴あれこれ、盛り蕎麦、4種の日本酒(冷や)


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2020.11.17(火) 配合比

5年前か10年前かは覚えていない。とにかくタイの北の方にいるとき、そこに来た目的について訊かれた。「仕事が半分…」と答える途中で、早くもそのタイ人は笑い出した。「なんだ、あとの半分は遊びか」という、それは笑いだったに違いない。

「仕事が半分」とは、実はとんだ法螺だった。その旅に占める仕事の割合は、実際には2、3パーセントくらいのものだった。「パーセント」という言葉を知らなかったから「半分」と答えたのだ。

午前は日本橋と神田のあいだにいた。銀行から駅へ戻る途中、鞄屋の支店のあることに気づいた。僕の壊れかけている財布は、その鞄屋のものだ。よって扉を押し、こちらでも修理を受けつける旨を確認した。

昼には新橋にいて、ときおり頭に浮かぶ人を訪ねた。この訪問については、仕事とも言えず、趣味とも言えない。

午後から夕刻にかけては恵比寿にいた。仕事の後は、石元泰博の写真を観た。美術館を出ると、空の色は既にして夜のそれになっていたから驚いた。時刻はいまだ、17時を過ぎたばかりだ。そこから移動をした落合でしたことは、仕事半分に遊び半分だったかも知れない。あるいは仕事が2割に遊びが8割か。

泊まりがけの、コンピュータを必要とする仕事は、荷物の重くなるところが難点だ。そして浅草20:59発の下り特急に乗り、23時前に帰宅を果たす。


朝飯 「小諸蕎麦」のたぬき蕎麦、ライス
昼飯 「ドトールコーヒーショップ」のトースト、コーヒー
晩飯 「晴れときどき…」の冷やしトマト、もつ焼きあれやこれやそれや、Podere Pradarolo VEJ Bianco Antico 2019、チューハイ


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2020.11.16(月) 物語を舐める

“ROMANEE CONTI”を飲むという行いには、ワインを飲むというよりも、物語を身の内に取り込もうとする色合いが濃いように思う。その物語を、せめてひと舐めする機会はないか。

葡萄の収穫年までは覚えていないけれど、ロマネコンティをひと口5,000円で飲ませる場所があった。今は昔の物語である。とすれば僕のような凡人は、開高健の「ロマネ・コンティ・一九三五年」のページを繰ってみるしか方法は無いかも知れない。

当該の本は本棚の、目星を付けたあたりにすぐに見つかった。そしてこれを、ことし3月にバンコクで読みさした沢木耕太郎の「貧乏だけど贅沢」と共にザックに入れる。そしてそれを背にして自転車に乗り、駅へと向かう。

10時すぎに立ち寄った新橋では、本日新台入替のパチンコ屋に数百名の行列ができていた。創意工夫や試行錯誤を飽きず繰り返す辛抱強さに僕は欠ける。そういう人間は、パチンコは無論のこと、カード、釣り、狩り、運動競技等々、ほとんどすべてのゲームに興味を持てない傾向にあると思うが、どうだろう。

今日の仕事場は南青山。夕刻に日本橋まで戻り、小酌を為す。


朝飯 油揚げと小松菜の炊き合わせ、「なめこのたまり炊」のなめこおろし、納豆、めかぶ、牛肉のすき焼き風、ごぼうのたまり漬、メシ、トマトと揚げ湯波と蕪の葉の味噌汁
昼飯 “crisscross”のクラブハウスサンドイッチ、コーヒー
晩飯 「ふくべ」の鰹の刺身蛸の酢の物、秋刀魚の塩焼き、納豆、菊正宗樽酒(燗)


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2020.11.15(日) 「誰も読まねぇ」

「誰も読まない社史」と山本夏彦は書いた。「誰も読まない」とは、その会社の人も読まない、ということだろう。進呈された方は更に読まないこと必定である。

それほど小さくもない集まりで挨拶をするよう、ある役所に頼まれた。「面倒なことだ」と考えるより先に「挨拶文はこちらで用意しますので」と相手は淡々と説明をしたから、僕は胸をなでおろした。

僕はその、役人の作った文章を壇上で読み上げた。内容は、読むそばから忘れた。会場にかしこまった面々も、僕の口から出たあれこれは、右から左へと抜けただろう。こちらは、いわば音声による「誰も読まない」文章に他ならない。

時候の挨拶だったか何だったかは忘れた。とにかく文章を考えていると「誰も読まねぇ」と、脇からオヤジに言われた。確かに、世の中には、誰にも読まれない文章が山ほど行き交い、浪費され、埋もれ、あるいは消えていく。

「誰も読まねぇ」とは一面の真理ではあるけれど、たまには読む人もいる。だからやはり、何かを書くときには、気は抜けないのだ。


朝飯 油揚げと小松菜の炊き合わせ、牛肉のすき焼き風、生玉子、油揚げと蕪の葉の炒りつけを添えた納豆、ごぼうのたまり漬、メシ、揚げ湯波と三つ葉の味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 菠薐草のおひたし、おでん、豆腐の玉子とじ、鰤の燻製、ごぼうのたまり漬、麦焼酎「むぎっちょ」(お湯割り)、自家製の蒸し羊羹


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2020.11.14(土) 静かな夕食

きのうの夕刻には5日分の日記が在庫されていた。今早朝、そのうちの、おとといの分を選んで「公開」ボタンをクリックする。

「その日にあったことを書くのが日記ではないか」と問われれば、僕のそれに限っては違う。徒然なるままキーボードを叩いて400文字を超えたら日記にする。もうひとつ、3日先、5日先のことでも、その日、何をするかが分かっていれば、あらかじめ文字にしておくことは可能だ。

と、ここまで書いて、ウェブ上に「断腸亭日常」を検索する。荷風は僕とは異なって、起きたことを日ごと忠実に記録している。あるいは忠実に記録しているように見える。大正7年12月25日の「二妓と共に桜木に一宿す」の桜木とは、現在の上野桜木を指している。

余談ではあるけれど、僕は根津から桜木を経て根岸に至る道が好きだ。特に佳いのは、寛永寺陸橋からの眺めである。現代の小村雪岱といえば、誰だろう。

今日はまた、嫁のモモ君が第二子を産む準備のため実家へ戻った。孫のリコも一緒である。というわけで、しばらくは静かな夕食が続くだろう。


朝飯 油揚げと小松菜の炊き合わせ、油揚げと蕪の葉の炒り煮を加えた納豆、干し海老を薬味にした煮奴、めかぶの酢の物、ごぼうのたまり漬、細切り昆布の佃煮、メシ、若布と白菜の味噌汁
昼飯 おでん、ごぼうのたまり漬、メシ、薬味として三つ葉を加えたフリーズドライ味噌汁”with love”
晩飯 蕪のサラダ、オールドイングランド「日光味噌つぶ味噌」による肉味噌と納豆のスパゲテティPetit Chablis Billaud Simon 2016「久埜」の最中、Old Parr(生)


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2020.11.13(金) 冬眠不覚暁

早起きのできない日々が続いていた。「夜に仕事をしているのだから、それでもいいじゃない」と家内は言う。秋までは、僕の製造に関わる仕事は早朝に行っていた。しかしこのところは、それを前夜に早めた方が、何かと良い状況になってきている。

きのうは3時台に目が覚めた。しかし着替えて食堂に来てみれば時刻は5時を過ぎていて、狐につままれた気分だった。今日も目覚めは3時台だった。食堂には4時17分に来られた。やはり僕は、これくらいの時間から活動を始めないと、どうにも損をした気持ちになる。ひとりでいられる時間が欲しいのだ。

昨年の記録とおなじく、紅葉狩りの行楽客は、文化の日の次の週末を境にして減った。しかし道の駅「日光街道ニコニコ本陣」の売場は、冷蔵ショーケースの向きの変更と新しい販売台を得て、特に「らっきょうのたまり漬」の販売量は増えてきたように思う。

いずれにしても、需要の一時的に落ちているここ1週間ほどは、年末に向けて、特に味噌の包装を増やしていく必要がある。たまりの「朝露」に関しては、味噌を搾って作る関係上、どうにも量産の利かないところがもどかしい。売り切れ、売り切れの連続である。


朝飯 納豆、油揚げと小松菜の炊き合わせ、おでん、油揚げと蕪の葉の炒り煮、ごぼうのたまり漬、じゃこ、メシ、若布と大根の味噌汁
昼飯 かつ丼、ごぼうのたまり漬
晩飯 鮎の甘露煮、菠薐草のナムル風、焼き鳥、ごぼうのたまり漬、3種の焼売白菜のクリーム煮、麦焼酎「むぎっちょ」(お湯割り)、「和久伝」の「西湖」


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2020.11.12(木) あたらしい知識

運動はもとより芸にしても仕事にしても「体で覚える」という会得の仕方がある。僕はどちらかというと、言葉で説明をしてもらう方が有り難い。

「気温が5℃下がるごとに服1枚が欲しくなる」と、今朝のテレビで気象予報士が言っていた。「よくぞ教えてくれた」である。気温が30℃なら半袖1枚でこと足りる。それは僕にも分かる。しかし15℃、10℃、5℃のそれぞれの気温にふさわしい服装については、これまで知らずにきた。それが今朝の気象予報士のひと言により、大げさに言えば救われたのだ。

もうひとつ、帽子の保温効果は上着1枚に等しい。これはイヴォン・シュイナードの「アイスクライミング」に書かれていることだ。頭部は球体であり、その表面積は全身のそれの5分の1を占める。つまりこの部分を覆うことにより体温は大きく保護される、というわけだ。

厚着が嫌い、汗をかくことが嫌い、予備の服により荷物の増えることも嫌いな僕にとって、冬は中々に厄介な季節である。「日本が常夏なら良いのに」と、いつも思う。


朝飯 オイルサーディンのチーズ焼き、納豆、油揚げと小松菜の炊き合わせ、油揚げと蕪の葉の炒り煮、大根と胡瓜のぬか漬け、ごぼうのたまり漬、メシ、揚げ湯波と大根の葉の味噌汁
昼飯 にゅうめん
晩飯 めかぶの酢の物菠薐草のおひたし、らっきょうのたまり漬、薩摩芋の蜜煮、揚げ湯波と白菜の鍋その鍋で煮た「福島製麺」のラーメン、麦焼酎「むぎっちょ」(お湯割り)、


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2020.11.11(水) 割れないグラス

「暗闇で吸うタバコは思いのほか美味くない」と書いたのは吉行淳之介だっただろうか。暗闇では空中に漂う煙を目で追うことはできない。それが「美味くない」理由だったように思う。

新型コロナウイルスの蔓延により、人々はアルコールで手を頻繁に消毒するようになった。これによる乾燥から、手荒れに悩む人も多くなったと、あちらこちらの媒体が伝えている。僕は以前よりアルコールを手に噴霧することを常としてきた。僕の手は季節を問わず乾燥し、荒れている。

壊れやすいものほど腫れ物に触るように、軽く持つ癖が僕にはある。乾燥した手にその癖が加わり、そこに最近は加齢による「うっかり」も重なって、陶磁器やガラスの道具を壊すことが増えてきた。

蒸留酒のソーダ割りを飲むための薄いグラスは2客があったものの、1年ほどのあいだに2客とも失った。ブルゴーニュの白ワインを飲むためのグラスも2客があって、こちらも次々と割った。

業を煮やして検索エンジンを頼ったところ、金属製のワイングラスは確かに存在した。しかしそれでワインを飲んで、果たして美味かろうか。暗闇のタバコと同じ理屈である。


朝飯 納豆、おでん、ウィンナーソーセージのソテーを添えた目玉焼き、めかぶ、油揚げと蕪の葉の炒り煮、みょうがのたまり漬、メシ、若布と玉葱の味噌汁
昼飯 にゅうめん
晩飯 オイルサーディンのチーズ焼き、「あづま」から持ち帰ったフライあれこれ、同ぬか漬け、Petit Chablis Billaud Simon 2016


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上澤卓哉

上澤梅太郎商店・上澤卓哉

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