2020.7.31(金) どれほど好きかといえば
銀座のコリドー街を南西へ、つまり新橋を目指して歩く。するとやがて首都高速道路ではない、むかしは「会社線」と呼んでいたような気もするが、正しくは東京高速道路の下をくぐる。頭上を覆うものがなくなると、すぐ右手はこの道路に上がるための土橋の入口だ。その入口に沿って張られた金網に、夏になると咲く花がある。万事に疎い僕のことだから、花の名前はもちろん知らない。
それとおなじ花が、ここ何年かは店の坪庭の、竹垣に咲くようになった。そして今朝はふと思いついて、その花をiPhoneで撮ってみた。iPhoneには、花の名前を特定するアプリケーションが入っているのだ。
花の名前は果たしてマルバアサガオと知れた。説明によれば、それは雑草、それも農家を悩ませる問題雑草に分類され、種には毒さえ含むという。
実は僕は、この花が好きである。どれほど好きかといえば、よその家の飼い犬の頭を撫でるくらいの軽微さで好きだ。花を生業とする人なら見向きもしない、というあたりにもまた「あはれさ」を覚えるのかも知れない。
朝飯 牛肉のすき焼き風、納豆、トマトのスクランブルドエッグ、ピーマンと人参の炒り煮、ごぼうのたまり漬、メシ、長葱の味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 らっきょうの塩漬け、TIO PEPE、スパゲティナポリタン、Petit Chablis Billaud Simon 2016、スモモのゼリー
2020.7.30(木) 太陽の季節
きのうの閉店後は販売係に製造係の面々が力を貸して、店の冷蔵ショーケースを掃除した。手の届くところはもちろん日々、綺麗にしている。しかし梅雨入り前と梅雨の上がるころには、商品をすべて出し、底板を外して、その下の部分まで拭き掃除をする。お客様の目に見えないところこそ、清潔に保つ必要がある。作業は45分ほどで完了し、ショーケースは、底板の奥底まで磨き上げられた。
秋には東京から本職を呼ぶ。そのときには各部を分解し、素人の手には負えない更に奥まで、蒸気を当てつつ清掃する。これもまた、毎年くりかえしていることだ。
街で人と顔を合わせれば、冬は寒さを嘆き、夏は暑さを呪う言葉が、とかく交わされる。今ならさしずめ梅雨の長さを指しての愚痴だろうか。
夏はいち早くプールや友達の家の持つ別荘に繰り出して遊びたい。そういう学生のころに一度、長梅雨に焦燥した経験がある。しかし今年の梅雨は、1951年に記録を始めて以来、もっとも長引いているという。梅雨が長ければ、その後に来る太陽の季節にも、なるべく長くあって欲しいと思う。
朝飯 牛肉のすき焼き風、納豆、ピーマンと人参の炒り煮、長葱の「日光味噌のたまり浅漬けの素・朝露」漬け、ごぼうのたまり漬、メシ、キャベツと若布の味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 豆腐と茄子と万能葱の味噌汁、トマトと刻みキャベツを添えた豚のしょうが焼き、らっきょうのたまり漬、「渡邉佐平商店」の「純米地酒焼酎」(お湯割り)
2020.7.29(水) 暖簾に腕押し
5月より2、3日に1回の割合で、TikTokに朝食の動画を上げている。するとどういうわけか、4回に1回ほどは、その再生回数が1万を超える。中には84.8Kなどというものもある。観る人が多くなれば、感想も多く付く。
その感想の中で目立つものを上げれば、ごはん茶碗の位置がおかしい、漬物はお膳の向かって左に置くべきだ、納豆と玉子を混ぜると栄養成分が失われる、口を閉じて食べろ等々、なかなかにかしましい。
ごはん茶碗については、これを手前に置いて写真に納めると、ごはんがいわゆる「白飛び」を起こす。それを嫌っての位置である。左手で器を持ち上げなくても箸で取りやすい漬物は、左より右に置いた方が合理的だ。僕の朝食は、栄養のためでなく人生の喜びのひとつとしてある。よって栄養は考慮しない。口を閉じて食べろとは、多分、漬物を食べるときの咀嚼音を指してのことだろう。iPhoneのマイクは、口の中の音も明瞭に拾う。
このような説明を、いちいち僕が出て行って付けることはしない。TikTokの運用はすべて、外注SEのカネヒラケンジさんに任せている。カネヒラさんは、その手の感想には「苦笑」や「照れ笑い」を表す顔文字、あるいは「そうなんですねー」くらいの返信で済ませている。
カネヒラさんは、僕よりひとまわりは年少と思われる。しかし僕よりよほど、大人である。
朝飯 牛肉のすき焼き風、生玉子、ピーマンと人参の炒り煮、ごぼうたまり漬、長葱の「日光味噌のたまり浅漬けの素・朝露」漬け、茄子の塩漬け、メシ、揚げ湯波とズッキーニの味噌汁
昼飯 きのう「和光」から持ち帰った豚カツによる弁当
晩飯 オクラと山芋の酢の物、らっきょうのぬか漬け、豆腐と揚げ湯波と豚三枚肉と水菜の鍋、「松瀬酒造」の「松の司山廃純米」(冷や)
2020.7.28(火) 聴きながら眺めながら
「タイには毎年、3月と6月と9月に行くことにしています」と、タイに長く住んでいた人に話したことがある。「なにも、そんな悪いときをわざわざ選ばなくても」と、その人は笑った。
インドシナでは、3月は酷暑を迎えるころであり、6月は雨期のまっただ中、9月は雨季から乾季に移りつつあるときだが、時として大雨に見舞われる。しかし雨期においても雨がシトシトと降り続くことはほとんどない。大抵は一気に降り、すぐに上がる。旅行者は少なく、宿泊料は安い。つまり悪いばかり、でもない。
いばらの茂みを住み家にするウサギもいれば、家で飲む酒がいちばん美味い、という人もいる。ウサギは人ではないけれど、人の好みは様々だ。僕も家飲みばかりだが、たまには外へ出る。
街ではほとんどそこにしか行かない居酒屋の引き戸は開け放たれて、店の中には静かで涼しい空気があった。そして昭和の歌謡曲を聴きながら、あいだみつをのカレンダーを眺めながら、ビンの4分の1ほども焼酎を飲む。
朝飯 ピーマンと人参の炒り煮、牛肉のすき焼き風、冷や奴、長葱の「日光味噌のたまり浅漬けの素・朝露」漬け、柴漬け、茄子の塩漬け、ごぼうのたまり漬、メシ、大根と若布の味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 「和光」のお通しの茄子とモロッコインゲンの揚げびたし、鰹の刺身のたたき風、つぶ貝の刺身、サービスの冷やしトマト、豚カツ、「二階堂酒造」の麦焼酎「吉四六」(オンザ日光の天然氷)
2020.7.27(月) 「べらぼう」は能代にある居酒屋の名前
ウェブショップの、あるところの説明文について「分かりづらい」と、先日お客様よりご意見をいただいた。確認してみると、なるほど分かりづらい。よって即、書き換えの提案を、外注SEのカネヒラケンジさんにした。カネヒラさんによれば、その部分はシステムの都合上、前半が全角で25、後半も全角で25と、文字の数を制限されているという。
制約を受けながら生きていくことを嫌う人間と、僕はこれまで自覚してきた。しかし、こと限られた文字数の中で文章を組み立てる行いについてはこれを好む、ということが、今朝は分かった。
2時台に目の覚めたことを奇貨として「明日の朝、考えます」ときのうカネヒラさんに約束したその説明文を、3時すぎより練りはじめる。そこにはまた「に同意する」の5文字が、行尾に”default”として入る。これもまた制約のひとつである。
そうしてできあがった文章を、3時43分にチャットワークに上げる。カネヒラさんからは「はじめ改行が上手くいかなかったものの、前半25文字のポイント数を上げたところ、上手く収まった」との、画像を伴う返事が4時24分に届いた。「ブラボー」である。
朝飯 揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、納豆、ピーマンと人参の炒り煮、柴漬け、長葱の「日光味噌のたまり浅漬けの素・朝露」漬け、ごぼうのたまり漬、メシ、揚げ湯波とつる菜の味噌汁
昼飯 「大貫屋」の冷やし中華
晩飯 水菜とレタスと胡瓜のサラダ、カレーライス、3種の薬味、Old Parr(ソーダ割り)
2020.7.26(日) ところが
「いつも今日のように、15分も歯を磨きますか」と、温泉旅館の脱衣所で訊かれたことがある。洗い場で歯を磨く僕の様子を、その人は湯に浸かりながら見ていたらしい。
「歯磨き 精神病」と検索エンジンに入れると「強迫性障害」という病名に行き当たる。僕の歯磨きは、まさかそれではないだろう。歯のどの部分を磨いたかを忘れてしまうことにより、おなじところを重複して磨いているのだ。
ときどき歯茎の痛むことがある。僕はこれを歯肉炎によるものと考え、その都度、複数のビタミン剤を服用してきた。ところが、である。
先週の水曜日に、大井町のソーマ歯科を久しぶりに訪ねた。診察台に仰向けになった僕に口を開けさせ、その中を一瞥するなり「歯茎が傷んでますね、2、3日は触らないでください」と、先生はマスクの奥から声を発した。僕の歯茎の痛みは病ではなく、歯ブラシでの擦過傷によるものだったのだ。
「2、3日」と言われたものの、それから今日まで、僕は4日も歯を磨いていない。それでも口の中に違和感は無い。ことによると僕の歯磨きは、月水金などと、日を限るべきなのかも知れない。
朝飯 茄子の揚げびたし、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、牛肉のすき焼き風、長葱の「日光味噌のたまり浅漬けの素・朝露」漬け、ごぼうのたまり漬、メシ、オクラと若布の味噌汁
昼飯 柴漬け、つる菜のおひたし、牛肉のすき焼き風、大根と胡瓜と人参のぬか漬け、メシ、大根とズッキーニの味噌汁
晩飯 蛸とトマトと胡瓜のサラダ、2種のパン、鮭のクリーム煮、Petit Chablis Billaud Simon 2016
2020.7.25(土) いまや貴重になった日本
pool氏は、栃木県でもっとも読まれているだろう飲食店紹介サイト「とち、フラ~」の運営者だ。そのpool氏による「汁飯香の店 隠居うわさわ」の記事が、今朝、そのサイトに上がった。有り難いことだ。そして開店をすると間もなく、この「とち、フラ~」をご覧になったと思われる方々からの予約が入り始めた。さすがのアクセス数と、大いに感心をする。
「汁飯香の店 隠居うわさわ」の営業日である、土、日、月の3日間においては、家内は4時に起きる。そしてひとり朝食を済ませ、5時には隠居へ向けて去る。朝食に特化した「隠居うわさわ」の開店は8時30分、最終入店は12時30分、閉店は14時。家内は大抵、僕が昼食を摂っている最中の14時すぎには自宅へ戻る。しかし今日に限っては、その姿がいつまでも見えない。
家内は午後も半ばを過ぎるころ、ようやく事務室に現れた。聞くところによれば、隠居には予約なしのお客様が続々と詰めかけ、普段は予備としている個室の「杉の間」まで埋まったという。また、最後にお見えになった若い男女の5名様は特に「隠居」の諸々を珍しがり面白がり、最後は畳が気持ち良いと、そこに寝転んでのおくつろぎ様だったという。
和服は現在、ほぼ”costume play”として息を長らえている。新築される家には、和室を備えない例も珍しくない。和食については、どうか。
「和のすべては珍しく、面白い」と感じて下さる方の「隠居」へのご来店は、とても嬉しい。
朝飯 揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、牛肉のすき焼き風、茄子の塩漬け、ごぼうのたまり漬、柴漬け、白粥
昼飯 ラーメン
晩飯 冷やしトマト、揚げ春巻き、素麺の「日光味噌ひしお」による肉味噌和え、「松瀬酒造」の「松の司山廃純米」(冷や)
2020.7.24(金) いらっしゃってくださったお客様に
「Go Toトラベルキャンペーンに期待することは何でしょう」とテレビ局の人に訊かれて「期待は特にありません、いらっしゃってくださったお客様に最善を尽くすのみです」と答えたのは、5日前のことだ。そのGo Toトラベルキャンペーンが始まったのはいつだろう。そしていつ終わるのだろう。
Go Toトラベルキャンペーンの優遇を受けるには、どのような方法をとれば良いのだろう。旅行代理店へ出向いて、対象のツアーを申し込むのだろうか。
「いますぐタイとラオスの国境まで行ってくれ」と言われれば、明日の午前にはメコン川のほとりに立っていられる。それは、その方法その他がからだに染み込んでいるからだ。しかし国の決めたあれこれについては、どうにも頭に入ってこない。
日光宇都宮道路の今市I.C.から鬼怒川方面に向けては、午前のうちから渋滞が発生した。そしてそのクルマの列は、午後の中ごろになっても、いまだ続いた。「いらっしゃってくださったお客様に最善を尽くそう」と、あらためて思う。
朝飯 冷や奴、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、トマトのスクランブルドエッグ、納豆、胡瓜のぬか漬け、ごぼうのたまり漬、メシ、若布と大根の味噌汁
昼飯 ざるラーメン
晩飯 二十日大根を添えたオムレツ、Petit Chablis Billaud Simon 2016、「久埜」の麩まんじゅう、Old Parr(生)
2020.7.23(木) だから、そうではなくて
高等学校の1年のときか2年のときか、それは忘れた。とにかく国語の授業のときだったと思う、「好きな季節と、その理由を述べよ」と、国語のヤマグチヒカル先生は問いを発せられた。
真っ先に手を挙げた者が誰だったかは覚えていない。指名をされて「好きな季節は夏。理由は、海で泳げるから」と勢いよく答えた。それを受けた先生の第一声は「そうではなくて」だった。
それまでの授業の成り行きから「そうではなくて」の理由は、僕には分かっていた。そういう具体的なことではなく、感情や情緒の発露を、己が内包する、今の言葉でいえば「エモさ」の探索を、先生は期待されていたのだ。
二人目か三人目に「好きな季節は夏。何というか、草がボーボー生えてて、太陽がギラギラしてて、地面に映る影が濃くて」と答えたのも、誰だったかは覚えていない。しかしそのとき「そうそう」と相づちを打たれた先生の、満足そうなお顔はいまだ脳裏に鮮明だ。
先生の問いに対して、今の僕なら何と答えるだろう。「好きな季節は夏。明るいうちから飲めるから」などと言えば「だから、そうではなくて」と「だから」が追加されることは明白である。
朝飯 揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、納豆、目玉焼き、大根と人参と胡瓜のぬか漬け、ごぼうのたまり漬、メシ、鯛と豆腐と三つ葉の味噌汁
昼飯 ソース焼きそば
晩飯 らっきょうの塩漬け、バンブー、マッシュルームと玉葱のポタージュ、3種のパン、カプレーゼとブルーベリーのジャムを添えた豚のパテ、Petit Chablis Billaud Simon 2016
2020.7.22(水) のちの「楽」のために
目を覚まし、部屋の明るさの具合から「4時になろうとするころだろうか」と想像する。枕のまわりを手で探ってiPhoneを探す。時刻は4時5分だった。
着替えて食堂に出て窓を開ける。地面は濡れているものの、雨は降っていない。鳥の声を聞きながら、きのうの朝に書いた、おとといの日記を「公開」する。そこで休まず、きのうの日記を完成させる。それからおもむろに事務室に降りて、小切手1枚を切る。
白内障の手術はさいたま市の眼科で受けた。術後は半年に1度の検診を、真面目に受けてきた。歯は、品川区の歯科で検診や治療を受けている。「なぜちかくを選ばないか」と問われれば、僕の、距離より納得を重く視る性格による。
ところがこの春にいきなり勃発した「移動の制限」により、その距離が心理的にはとても遠くなってしまった。眼科には11ヶ月も無沙汰をしている。歯科の方は本日、ようやく診察を受けることができた。
ここ数ヶ月のあいだ具合の悪かった奥歯は、現在の先生により、その症状の解決を得意としている別の歯科医院を紹介された。今後しばらくは、ふたりの先生の世話になりつつ治療を続ける。からだの維持管理には、手間ひまを惜しまない。なぜならその方が「のちのち楽」だからだ。
朝飯 切り昆布と細切り人参の炒り煮、納豆、茄子の揚げ浸し、オクラのおひたし、人参と獅子唐の天ぷら、茗荷の酢漬け、胡瓜の柴漬け、らっきょうのたまり漬、メシ、若布と揚げ湯波とズッキーニの味噌汁
晩飯 「烏森百薬」のお通しのバクダン、クレソンのサラダ、鰹のたたき、ポテトサラダ、「栁田酒造」の麦焼酎「夏の赤鹿毛」(ソーダ割り)