2016.10.1 (土) チェンライ日記(3日目)
今日もまた暗闇の中で目を覚ます。枕頭の時計は02:36と表示されている。腹の中で苦笑いをする。前夜の就寝が20時台であれば、この時間に目を覚ましても不思議ではない。
きのうの日記を書きながら、強い雨音に気づく。カーテンを開いて外を見る。川面の様子は覗えないものの、プールの水は大量の雨滴に粒立っているように思われる。その雨音が弱まって夜が明ける。対岸の森で鳩が鳴いている。その声をより明瞭に聴くため窓を開ける。
部屋の机で仕事をするうち正午が過ぎる。ノックの音がする。ドアの外にはリネン類を積んだワゴンと共にメイドが立っていた。掃除をしても構わないかと訊かれて「はい、どうぞ」と答える。ベッドの上の洗濯袋を示しつつ、洗濯物を記入する伝票が1枚しかなく、だから今日の分でそれが無くなってしまうことを伝える。メイドが部屋の電話で洗濯係を呼ぶ。すぐに洗濯係が来て僕の洗濯物を引き上げ、且つ新しい伝票を所定の位置に納める。遅滞のない連携である。
朝食はたっぷり摂っているから腹が空いているわけではない。しかしこのまま夜まで何も食べないわけにもいかない。朝食以外をホテルで食べる気にはならない。空の低いところに黒い雲があり、椰子の葉は風に揺れている。それが驟雨の予兆であることは、ここに住む者でなくても容易に想像がつく。
「そうと知りつつみすみす」という持病が僕にはある。12時40分にホテルを出る。既にして遠雷が聞こえている。街までの、雨宿りのできそうなところは知っている。そこまで達する前に雨の降ってこないことを祈るばかりだ。
南の国にはスコールが多いから、商売をする家は大抵、庇を歩道に張り出させている。その下を辿ってバンプラカン通りに出たところで大粒の雨が落ちてくる。雨は瞬く間に勢いを増す。
チェンライに来たら必ず複数回は行くおかず飯屋「シークラン」は、ほぼ満員の盛況だった。いまだ空席はあったけれど、今日は汁麺の食べたい気分だ。よって庇と庇の途切れるところは走り抜けつつ汁麺とワンタンの店「フイミン」に入る。そうしてここでワンタン麺を食べる。店の奥にガスボンベを運ぼうとしている燃料屋の雨合羽から、水がしたたり落ちて床を濡らす。
いつまで雨宿りをしていては店も迷惑だろう。そう考えて50バーツを支払い外に出る。ホテルには結局のところ、トゥクトゥクで帰った。運転手の言い値の100バーツは「外人プラス雨」の特別価格である。
時刻はいまだ14時を過ぎたばかりだ。雨は先ほどよりは小降りになっている。しかし止んだわけではない。ロビーのラウンジで本を読む手もあったけれど、やはり部屋にいる。夕刻が近づくころにようやく雨が上がる。
チェンライで土曜日といえばサタデーナイトマーケットだ。昼のポロシャツはトゥクトゥクの車体に触れて汚れてしまったため、アロハに着替えて外へ出る。そうして市の立つタナライロードへと入って行く。
お守り屋、ケーキ屋、カイピン屋。足ふきマット屋、毛糸の帽子屋、飲みもの屋。寿司屋、アイフォンカバー屋、ピカチュードラエモンキティ屋。
タナライロードから直角に南へ向かう道に入ると、屋台は食べ物屋ばかりになる。そのうちの鹵味屋で鶏モツを60バーツで買う。すぐちかくの汁無し麺屋で焼きそばを15バーツで買う。セブンイレブンでシンハビールの350CC缶を39バーツで買う。頭上の梢にはおびただしい数の鳥がいる。その啼き声の凄まじさに圧倒されるのは毎年のことだ。
毎週、土曜日がくるたび、よくもまぁこれだけの人が集まるものだと、ほとほと感心する広場を歩き、空席を探す。ふたつのテーブルで首を横に振られ、3つめの、つつましやかなカップルの着く場所にようやく席を得る。そうしてステージのバンドによるタイの演歌ルークトゥンにひたる。きのうよりも、おとといよりも、ラオカーオが進む。
時々まわってくるゴミ係のオジサンの袋に鹵味と焼きそばの器、そしてビールの空き缶を捨てさせてもらう。カップルに礼を述べて席を立ち、ステージの前まで行く。カウボーイハットの歌のオジサンは相変わらず絶好調だ。その歌に合わせて踊る市民の輪の中には、知った顔がいくつもある。彼らは毎週土曜日、つまり大雨でも降らないかぎり、年に50数回はここで踊っているのだ。
市民みずからこれだけ盛り上がってくれるなら、行政は楽だろう。というよりも、行政主導とか、広告代理店主導とか、そういう「主導」の匂いがここには感じられない。屋台、露店はみずからの金儲けのために商売をする。市民はみずからの楽しみのためにここに来る。演歌バンドはシロートやセミプロの自己満足ではなく、市民に支持をされている。そんな感想を抱きつつ、ホテルまで歩いて帰る。
朝飯 “Dusit Island Resort”の朝のブッフェのサラダとベーコンと目玉焼き、トースト、中華粥、コーヒー
昼飯 「フイミン」のバミーギィアオナム
晩飯 サタデーナイトマーケットの屋台の鶏モツの鹵味、焼きそば、シンハビール、ラオカーオ”YEOWNGERN”(生)