2024.8.10 (土) 省脳服
我が春日町1丁目の登校班には、同級生が3人いた。日光街道に沿った数十メートルに、おなじ年に生まれた子どもが僕も含めて4人もいるとは、少子化の現在では考えられないことだ。同学年の4人をはじめ年長年少の入り交じる我々は、毎朝、楽しく会話を交わしつつ小学校へ向かった。
その登校班の、ひとつ上にコーちゃんという人がいた。どこかから引っ越してきて、いくらもせずまたどこかへ引っ越していったこのコーちゃんがあるとき、自分は素早く着替えができると自慢をした。ズボンは右脚を差し込むのに1秒、左足を差し込むのに1秒、胴の部分を引き上げるのに1秒で、計3秒で穿けるという。僕はいまだ幼くて「それはいかにも非現実的だ」とは思わなかった。
朝、目を覚まして枕の下からiPhoneを取り出す。facebookを開くと、その上部に、右から左へとストーリーズが流れていく。
飲み屋、メシ屋、服屋、カバン屋、靴屋と、魅力的な店が次々と現れては消える。コードバンのトートバッグが目について、買うつもりもないのに「詳細を見る」をタップする。その艶はいかにも蠱惑的ではあるけれど、体の片側に重さがかかる点において、僕はトートバッグを好まない。
理想的な襟を持つ上着にも目が留まり、ここでも詳細に進む。更に調べようとして、フランス語による未知のブランド名を頭にたたきこみ、googleに入れてみる。生地はアイリッシュリネンで、価格は予想したほど高くない。しかしそこから一気呵成に、とはいかない。
MQ戦略ゲームやマトリックス会計の開発者であるニシジュンイチロー先生は、ボタンのある服はほとんどお召しにならない。大抵はTシャツの上にウインドブレーカーである。その服装は、必要なこと以外には頭を使わない「省脳」という考えから導き出されたものと思う。
僕は薄着を好み、重ね着を嫌う。僕にとって上着は寒さをしのぐため仕方なく着るものだ。しかしてiPhoneのディスプレイに見えている上着の素材は麻だから、春秋用だろう。春や秋に上着は着ない。しかもその上着にはボタンが5つも付いている。
オレも必要なこと以外に脳を使うことは止めよう、ボタンを持たない服なら3秒は無理としても素早く着られ、しかもかさばらない。そう考えて、理想的な襟を持つ上着については放念することにした。それよりも先に、ややこしいブランド名は一瞬で忘れた。
朝飯 冷や奴の「なめこのたまり炊」のせ、茄子とピーマンのソテー、トマトサラダ、たまり漬「七種きざみあわせ・だんらん」、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、メシ、若布と茗荷の味噌汁
昼飯 納豆と胡麻のつゆの素麺
晩飯 パン、野菜とキノコとベーコンのスパゲティ、Chablis Billaud Simon 2018