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清閑 PERSONAL DIARY

2017.6.26 (月) タイ日記(5日目)

いまだ暗いうちに目を覚ます。ようやくその気になって体温計を取り出す。結果は36.8度だった。僕は自分の平熱を知らない。暑い場所に来ると、人の体温は上がるという。今朝の36.8度は、平熱と考えて良いのだろうか。デスクのスタンドを点け、きのうの日記を一気に書く。バンコクの夜が、徐々に明けていく

胃痛のため、食欲は無い。多分、1日まるまる何も食べなくても、腹は減らないだろう。しかしそれもまずかろうと、外へ出る。チャルンクルン通りの雑踏が、僕は大好きだ。今は正にドリアンの季節で、それを売る露店が多く目につく

胃の具合を慮って、粥を売る店に行く。この店の繁盛の理由を僕は知らない。強いて言えば、清楚な女主人の控え目な愛想の良さが心地よいこと、肉団子が大きいことくらいだろうか。タイ人にしてみれば、また別の何かがあるに違いない。僕の注文は「サイカイ、イヤオマー、パートンコー、ナ」である。

タイにいると、何かひとつのことをするたび汗まみれになる。そのたび部屋に戻り、シャワーを浴びる。部屋のクーラーのスイッチを入れると寒くなりすぎる。スイッチを切ると、すぐに耐えがたいほど暑くなる。ちょうど良い状態を保つことが、南の国では中々に難しい。

チャオプラヤ川を運行する水上バスは、切符は船上ではなく、できるだけ地上つまり桟橋で売る方式に変えたようだ。上りと下りの中心にあたるサトーンでは、舟の乗り場もすこし変わったから、注意をしなければならない。

14バーツの切符を買い、オレンジ色の旗を立てた急行で上流を目指す。暁の寺は、いまだ修理を終わらない。特に目的地は無かったものの、ピンクラオ橋のたもとで降りてみる。階段を上がっていくと、数年前までは人っ子ひとりいなかった橋の下が、中国大陸からの団体旅行者を大型バスに乗せるための場所になっていた。銀座でいえば、中央通りと首都高速会社線の交わるあたりの感じである。大変な賑わいで、露店にはおしなべて中国語の売り文句が並んでいる。

そのまま北へ歩いてくと、先ほどバスに乗せられた団体が、中華料理屋に次々と案内され入っていく。MGでいえば、大量の「キャラメル」がジャラジャラと、左から右へと滞ること無く流れていく状態である。しかもキャラメル1個あたりのマージンは、結構、高そうだ。

そんな風景を横目に更に歩き、アルンアマリンという、非常にロマンティックな名の大きな交差点をはす向かいに渡る。船着場から既にして1キロ以上は歩いている。全身、汗まみれである。冷房の効いたパタデパートに入り、しばし涼む。

地下の食料品売り場の、調味料と酒の棚を観ていく。調味料は容量の大きなものばかりで種類は少ない。酒の売り場では驚いたことに、僕がチェンライで最も美味いと感じたもの、2番目に美味いと感じたもの、甘さは強すぎるがまぁ我慢できると感じたもの、この3種が揃っていた。さすがは場末の百貨店である。

そのときちかくから日本語が聞こえてきた。目を遣ると、30代から40代くらいの女の人3人が酒の棚の前に立って、あれこれ迷っている。そこで僕は近づき「一番美味しいのはコレです」と、自分の経験を伝えた。先方は「あ、あ、あれ、日本語…」と驚いている。

駐在員の家族は、プロンポンあたりのいわゆる「日本人村」に固まって、ピンクラオのような場末には、まず近づかない。よって彼女たちは、その駐在員の妻ではあり得ない。訊けばヤワラーの宿からバスでトンブリーのどこかを目指すうち、このあたりでバスを降ろされ、途方に暮れていたのだという。

「ヤワラーに戻るバス、分かりますか」と訊かれても、僕はバスの地図はホテルに置いてきてしまっている。「ピンクラオから舟でサトーンまで行って、そこからタクシーを使ったらどうですか」と助言をするも、彼女たちは、それはしたくないらしい。「安易な方法は採りたくない」という、彼女たちの気持ちは僕も重々、理解できる。ラオカーオ2本を買った3人組とは、そこで別れた。

ピンクラオの橋のたもとまで、また1キロ以上を歩く気はしない。よってデパート前の停留所に停まったバスに、先ずは乗ってみる。と、このバスはアルンアマリンの交差点を左折したから「あー、当てが外れた」と、いささか慌てる。しかもなかなか停まらない。思い余って天井のブザーを押す。次の停留場はどうやらラマ8世橋の下らしく、僕を降ろしたバスはUターンをして、元来た方向に去った。

すぐ来た次のバスに乗る。バスはアルンアマリンの交差点をめでたく左折し、ピンクラオの橋のちかく、中国大陸からの団体旅行者が群れていたちかくに停まった。ことによると先ほどのバスも、そのまま乗っていれば同じところまで運んでくれたのかも知れない。バカバカしい無駄足を踏んでいるようだけれど、こういうことこそが、僕の旅行なのだ。

往路とおなじ、オレンジ色の旗を立てた急行船でサトーンの桟橋に戻る。15時すぎから2時間ほどはずっと、ホテルのプールで寝椅子で横になっている。本を持参しながら読む気がしないのは、体調の不良が影響しているのかも知れない

日の暮れるころ、サトーンの桟橋から舟に乗り、同級生コモトリケー君の家へ行く。舟の磨き抜かれたデッキが、夕空を映してオレンジ色や水色に変わる。そして川沿いの料理屋”Yok Yor Marina & Restaurant”の、黄色い明かりを目指して歩いて行く

往きには夕空を映したデッキが、帰りにはホテルの灯りを受けて鈍く光る。舟は人が軽く走る程の速度でチャオプラヤ川を滑り、ふたたびサトーンの桟橋に戻った。バンコクの夜はいまだ始まったばかりではあるけれど、真っ直ぐ部屋に帰り、温かい湯に浸かって即、就寝する。


朝飯 「王子戲院豬肉粥」の皮蛋粥、油絛
昼飯 「パタデパート」地下のフードコートのカオカームー
晩飯 “Yok Yor Marina & Restaurant”のヤムウンセンプラームックトードマンクンサイクロンイサーン、ウォッカ(ソーダ割り)

  

上澤卓哉

上澤梅太郎商店・上澤卓哉

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