2024.4.12 (金) シダレの見ごろ
オフクロは、僕からすれば空間恐怖症というような性癖の持ち主だった。少しでも空間があれば、それをモノで埋め尽くすのだ。
オフクロの寝室は三方の壁がタンスだった。それに加えて部屋の真ん中にも複数のタンスを置いた。人はタンスとタンスの間のを蛇行して歩いた。「何も無いのは寂しい」と、エレベータの中には飾り机を置いた。食堂の洋テーブルも応接間の和机もモノで満たされていたから、オフクロは床の、半畳より狭い隙間に正座をして食事を摂っていた。
そういう人は庭もまた木で埋め尽くそうとする。隠居の座敷の目の前、5メートルと離れていない範囲内に、植木屋を使って梅、桃、枝垂れ桜を次々と植えた。桃は首尾よく枯れてくれた。梅は現在、その実を使った「東風吹きソーダ」が「汁飯香の店 隠居うわさわ」の名物になっている。大きく育った枝垂れ桜は、今ではこの時期のお客様を楽しませてくれている。
朝の天気予報の中継場所として「汁飯香の店 隠居うわさわ」を使いたいという提案が昨年、テレビ局よりあった。しかし局の日程と枝垂れ桜の見ごろが合わずに話は流れた。今年の桜は列島の各所で遅れに遅れた。原因は2月の寒さにあるとのことだった。
「汁飯香の店 隠居うわさわ」の門を入るとほぼ正面に見える枝垂れ桜は、今年は数日前にようよう一輪だけ開き、今は三分咲きくらいのところだろうか。小林秀雄は山桜の見ごろを三分咲きと言った。シダレの見ごろは満開にあり、と僕は思うが、どうだろう。
朝飯 ウインナーソーセージのソテーとオムレツ、トマトとレタスのサラダ、蕪のぬか漬け、なめこのたまり炊、たまり漬「七種きざみあわせ・だんらん」、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、メシ、若布と三つ葉の味噌汁
昼飯 にゅうめん
晩飯 オリーブあれこれ、パン、生ハムのムース、チーズ、マッシュルームのソテーと茹でたブロッコリーを添えたポークステーキ、Chablis Billaud Simon 2018、TIO PEPE