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清閑 PERSONAL DIARY

2023.10.7 (土) 静かな時間

いまだ空の暗いうちから朝食までの時間は何ものにも代えがたい。その静かな時間には日記を書き、本を読む。

今月3日の朝から山下清の「ヨーロッパぶらりぶらり」を読み始めた。3ページ目に進んだところで、これは以前にも読んだことがあったことに気づいた。それでも内容はほとんど忘れているから、どうということはない。

ページを繰るうち「オレもおなじだな」と感じるところがいくつも出てくる。ちくま文庫の最新版では34ページの終わりのあたりから。
……
ぼくは飛行機ちんを先生にはらってもらったので、いくらだかしらないがきっと高いのだろう。(中略)シベリヤ鉄道でいったら、それも三等でいったら、きっと飛行機よりもやすくて、景色もゆっくりながめられたと思う。しかし一しょに旅行しているおいしゃさんはみんないそがしい人で、日本では病気の人が待っているので大いそぎで見物して、また日本に帰って病人をみなければならないので、ぼくは待っている人はいないのに、やっぱり大急ぎにつきあうのです。(中略)大いそぎの人につきあって、大いそぎで見物するのは、これはちょっと運が悪いというものだろうか。
……
次は65ページ。
……
ぼくは動物園がすきなので、もっとここにいたかったのに、まだいくところがたくさんあるからはやくいこうといわれて、自分のみていたいものは人がおもしろくなく、人のおもしろいところはぼくにはちっともおしろくないので、人はすきずきで、自分のすきなものだけみてあるくには、ひとりで放浪するのがいちばんいい。
……
続いて102ページ。
……
ぼくはダイヤモンドもひとのかいた絵も外国語の本もほしくないので、旅行したいときに、いきたいところまでの汽車ちんがあって、中華そばがたべたいときに中華そばをたべる金があればたくさんです。
……

こうして並べていくと、今月1日に書いた日記「合理と不合理の関係」は、まるで山下清の文章をなぞったようだ。

「ぼくは観光には興味がないので、旅行したいときに、いきたいところまでの飛行機ちんがあって、ホテルの泊まりちんがあって、昼のあいだはプールサイドに寝ころがって本が読めて、夜に屋台で酒の飲める金があればたくさんです」とすれば、これはまるで僕のタイ日記ではないか。

中学生のころまで、僕の部屋の引き出しには、山下清の生真面目な署名の入った絵はがきがあった。家族の誰かが彼の展覧会で、もらってきたものだろう。「ヨーロッパぶらりぶらり」の、残りのページの少なくなっていくことが惜しい。


朝飯 鮭の焼きほぐし、生玉子、納豆、「なめこのたまり炊」のなめこおろし、たまり漬「七種きざみあわせ・だんらん」、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、メシ、若布と大根の葉の茎の味噌汁
昼飯 にゅうめん
晩飯 柿とグレープフルーツとレタスのサラダキッシュ鶏のスパゲティChablis Billaud Simon 2018


美味しいおうちごはんのウェブログ集はこちら。

  

上澤卓哉

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