2023.9.8 (金) 濡れネズミ
お盆が過ぎるころ、右下の奥歯に痛みを感じた。よって即、かかりつけであるソーマ歯科室のウェブページを開いた。誠実かつ精密な仕事ぶりにより、予約はかなり先まで埋まっていた。僕は自分の予定と照らし合わせて9月8日の朝一番を確保した。
雨は風を伴っている。新橋駅前の喫茶店で朝食を取り終えても席は立たない。本を読みつつ濡れたズボンの乾くのを待つ。ズボンは夏用の薄いものを穿いてきた。濡れても乾きは早いだろうと踏んでのことだ。
その生乾きのズボンは、大井町の駅からソーマ歯科室へ歩くまでに、また濡れた。今度の濡れようは尋常ひととおりのものではない。シャツは腹から下、ズボンは全部、更には靴の中までびしょ濡れである。こんなことなら上は数十年も持っているPatagoniaのレインコート、足元はミンクオイルをたっぷり染ませたブーツにすべきだったものの、もう遅い。
雨風は、ソーマ歯科室を去るころには更に強くなっていた。大井町の駅へ向かうなだらかな下り坂に差しかかったところで身動きが取れなくなる。坂下からは、雨滴を含んだ突風が間断なく吹き上げてくる。坂上の交差点から進入してきたオートバイが、風圧により一気に速度を落とす。そのエンジンは今にも止まりそうだ。
マンション入口の庇に避難しているのは僕も含めて3人。そのうちのひとりが意を決したように坂を下り始める。その人を風よけにして、僕も後を追う。モンベルのもっとも軽い折りたたみ傘は、取っ手、そして放射状に骨の広がる上の方を、それぞれ右手と左手で支えている。その傘を、突風が吹き上げてくる坂下へ向ける。傘の骨は大きくしなって、まるで大きな魚を釣り上げたときの釣り竿のようだ。道のそこここには、壊れたビニール傘が打ち捨てられている、雨から身を守ることを諦めて、手ぶらで歩いている人もいる。
ようよう大井町の駅に辿り着く。ソーマ歯科で着替えたシャツは、またまた腹から下がずぶ濡れになっている。ズボンも靴の中も濡れた状態で、これ以上は行動したくない。しかし今日は、東京ビッグサイトで開かれているLIFE & DESIGN展に行かなければならない理由があるのだ。
新橋から乗ったゆりかもめは強風により、ときおり速度を緩めた。展示会の会場では、最近、取り引きを始めたばかりの会社の社長と名刺交換をする。そして会場をくまなく回り、気になった品についてはパンフレットを受け取り、その場にいる人と名刺のやりとりをする。
「ほぼ年中無休」の僕は、このような仕事を終えた後は、すこしゆっくりして、夕刻は酒場に寄りたい。しかし腹から下はずぶ濡れである。よって今日ばかりは早く帰ることとして、会社には16時前に着いた。
17時30分より閉店作業をしながら日めくりカレンダーに「白露」の文字を見る。「そうであれば」と、犬走りの梁から提げた風鈴を外す。
朝飯 「新橋珈琲店」のモーニングAセット
昼飯 東京ビッグサイトのフードコートの「香房カレー」
晩飯 マカロニサラダ、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、韮ともやしの油炒め、蒸し焼売、豆腐とカニかまと椎茸の中華風煮込み、麦焼酎「こいむぎやわらか」(お湯割り)