2022.8.2 (火) 星降る夜に
きうのの写真スタジオは「浅草の寺院群の中に、よくもまぁ、こんなクールな場所があったものだ」と僕を驚かせた。小さなビルにもかかわらず、入口はオートロックだった。2階で停まったエレベータの扉が開くと、そこはもう、コンクリートを打ち放したスタジオだった。
その矩形の空間には、仕事の邪魔にならないほどの音量で音楽が流れていた。内容は日本の歌モノだった。「有線ですか」とのデザイナーの問いに「私が集めたものです」とカメラマンは答えた。僕の、音楽に対する知識は極端に乏しい。日本のバンドでいえば、ビーズもザードもグレイもグローブも何が何やら分からない。
ミックスナッツとドライフルーツのたまり漬に、カメラマンは7、8客の器から、僕が持参した宋胡録のカケラと朝鮮の小皿を選んだ。商品の撮影は、順調に進みつつあった。
部屋のどこにあるのか分からないスピーカーから、いきなり、がなり立てるような声が放たれはじめた。ヤケのヤンパチのような、ぶっきらぼうな歌いよう。リズムはスカ。
「これ、誰ですか」
「コーモトヒロトです」
「バックはスカパラですか」
「そうです」
小さなガラスのピアスを耳たぶに通し、ツバの真っ平らなキャップをかぶったデザイナーは、このあたりの歌には詳しくているらしかった。
滅茶苦茶なのにカッコイイとは、ずるいではないか。シド・ヴィシャスのマイ・ウェイとおなじ種類の、それはかっこよさだった。
一夜が明けて今朝、否、いまだ夜は明けていない、とにかく「甲本ヒロト スカパラ」と検索エンジンに入れてみた。youtubeに現れたのは「星降る夜は」という曲だった。「滅茶苦茶なのにカッコイイとは、ずるいではないか」と、また思った。
「それにしても」と一旦、立ち止まる。「星の降る夜なんて、経験したこと、ねぇな。雨の降る夜のことは、いくつも覚えているけど」と、ふたたび頭を動かし始める。PCから流れ出る音は、朝にふさわしくなく、とても、大きい。
朝飯 スクランブルドエッグ、菠薐草と海苔のナムル風、茄子の揚げびたし、納豆、胡瓜のぬか漬け、ごぼうのたまり漬、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、たまり漬「七種きざみあわせ・だんらん」、メシ、若布とパプリカの味噌汁
昼飯 茄子と乳茸のつゆによる素麺
晩飯 「京都蒸留所」の「季の美」(ソーダ割り)、トマトとレタスのサラダ、2種のパン、ポテトとマッシュルームとソーセージのソテー、2種のチーズ、ババロアのブルーベリーソース、Chablis Billaud Simon 2015