2022.3.11 (金) 益子
小さなころ、おじいちゃんと益子へ行った。クルマはおそらく会社のもので、とすれば運転手はツカゴシヤスオさんだった可能性が高い。ツカゴシさんは製造にも営業にも属さず、クルマの運転だけを仕事にしていたような気がする。
登り窯の焚き口のあたりに、僕は無言で立ち尽くしていた。その脇を通りながら「ここにいる人間がみな真っ黒だから驚いているのか」とういう意味のことを発しつつ、オバサンが笑って通り過ぎたことは覚えている。
その日の買い物は、素焼きの土管のようなもので、藁に包まれていた。「割れないから平気だ」とおじいちゃんには言われたが、僕は心配で、それに足をのせることを躊躇った。「土管のようなもの」と書いたが、まさか益子まで出かけて土管を買うわけはない。
午後、長男の運転により、60数年ぶりに益子を訪れる。中心部の通りは整備され、その両脇には窯元の店やお土産屋が整然と並んでいた。長男は共販センターの駐車場で方向を転ずると、街から出て山の方へハンドルを向けた。
グンジツネヒサさんケーコさんの工房は、山の斜面にあった。グンジさんは作業場兼応接場にいた大きな犬を外へ出した。そして我々は1時間ほども話をした。
益子からはまっすぐに帰らず宇都宮を経由した。そして画材の白木屋に寄り、大きく重い額に納められている書画の、現代的で軽快な額への入れ替えを頼む。相手をしてくれたのは社長のサイトーさんだった。
「2代前の方でしょうか、おじいさんにはたびたび来ていただきました」と、サイトーさんは教えてくれた。おじいちゃんには文人画を描く趣味があった。「穏やかな方で」と続けるサイトーさんに「それは、ここだけのことだったと思います」と僕は応じた。
額装は、1ヶ月弱で完成するという。書画には右から読むのだろうか「佳更」の文字に土筆と桔梗が金彩で描かれている。土筆と桔梗の季節は異なるものの、額装が完了したら即、隠居の床の間に掛けようと思う。
朝飯 オムレツ、しもつかり、納豆、生のトマト、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、メシ、若布と大根の味噌汁
昼飯 「やぶ定」の大もり蕎麦
晩飯 めかぶと松前漬けの混ぜ合わせ、蓮根のきんぴら、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、菜花のおひたし、切り昆布の炒り煮、鯛の煮付け、「栗林酒造店」の「春霞純米吟醸」(冷や)