2021.12.17 (金) 年賀状
小学生のころは、年賀状を送ったり送られたりすることが、心から楽しかった。冬休みに入ると年賀状づくりに精を出し、元旦は年賀状が届くのを心待ちにした。その楽しさは以降、漸減したものの、余韻は高校生のころまで続いたような気がする。
自分はいつ年賀状に対して興味を失ったか。それはどうも、年賀状を家庭で印刷作成できるワードプロセッサが世に現れた時期と重なっているような気がする。
現在、年賀状は一顧だにしない。と言いたいところだけれど、一瞥くらいはする。そして僕個人に届いたものには旅先から返事を書く。これがまぁ、大変な苦労である。
年賀状は大抵、コンピューターとプリンターで作ったか印刷屋に頼んだもので、そこにせいぜい「今年もよろしく」と、ほんの数文字の手書きが添えてある例がほとんどだ。一方、僕は返信のための絵ハガキに数百文字を連ねる。個人に届く年賀状は、それほど多くない。とはいえ、20通くらいはある。とすれば数百文字の20倍を、ひたすらペンで書き続けることになる。まるで「B29 vs. 竹槍」である。
旅とは、からだを休め、気を鎮めるために行くものだ。そこに毎年「数千文字を手書きする」という義務が生じている。そろそろ反撃に移るべきではないか。吟行で秀句を得る方法のひとつに「出かける前に詠んでおく」というものがある。この手は使えそうだ。
……
先般はご丁寧に季節のお便りをお送りくださいまして有り難うございました。
熱帯の朝は、日中の暑熱が信じられないほど爽やかです。緯度が低いため、日本の夏のように早く明けることはしません。いまだ暗いうちに目を覚ますと、先ずは既にできあがっている一昨日の日記を公開し、それからきのうの日記にとりかかります。そうするうち、外が明るくなり始めます。当たり前のことですが、啼く鳥の声は、この土地でしか聴けないものです。
朝食はたっぷり摂ります。そして部屋でひと休みをしてからプールサイドに降り、ここで午後の日が傾くまで本を読みます。驟雨の通り過ぎる日もあります。しばらくすると、濡れた椰子の葉やプルメリアを夕日が眩しく照らします。シャワーから上がったら、ゴム草履を突っかけ、手提げ袋に土地の焼酎の瓶とコップ、そして本を入れて部屋を出ます。
街の食堂では簡単な料理とソーダ、そして氷を注文します。そしてそのおかずを肴にして焼酎のソーダ割りを飲み、本を読みます。
酔うと歩くのが億劫になりますので、流しのオート三輪を拾い、それに乗ってホテルに帰ります。湿った夜風の心地の良さは、文字にできるものではありません。当たり前のことですが、鳴く虫の声は、この土地でしか聴けないものです。
部屋に戻ったらシャワーを浴びます。いまだ20時を過ぎてはいませんが、明かりを落として横になります。
気づくと早くも翌朝です。朝食までは3時間ほどもありますから、ポットにお湯を沸かし、持参したスープを飲みます。そしてコンピュータを起動し、既にできあがっている一昨日の日記を… とまぁ、こんな日々を、いましばらくは続けるつもりです。
またお目にかかれる日を、楽しみにしています。どうぞお元気にお過ごしください。
★にて
……
と、こういう文面のハガキを作り、旅の荷物に加えておく。出かけた先では★の部分に、そのとき滞在している土地の名を書き入れれば完成である。なかなかの妙案ではないか。
朝飯 納豆、牛肉のすき焼き風、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、千枚漬け、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、なすのたまり漬のからし和え、メシ、蕪と蕪の葉の味噌汁
昼飯 「ふじや」の野菜麺
晩飯 トマトとベビーリーフのサラダ、ブロッコリーの鉄板焼きとじゃがいもと人参のバターソテーを添えたハンバーグステーキ、トースト、Chateau Leoville Las Cases 1984