2022.1.20 (木) 観光しない人、観光地へ行く(下)
新型コロナウイルス感染症、英名COVID-19の噂が聞こえてきたのは2020年1月のことだった。それからひと月半ほど後の3月はじめにタイへ行った。
羽田空港に、人の姿はほとんど見られなかった。タイ航空の客室乗務員は、プラスティック製の手袋をして、機内のあちらこちらをアルコールで拭いていた。スワンナプーム空港では、自動体温計が入国審査場の手前に置かれていた。僕は飛行機を乗り換えて、ラオスとの国境ちかくへ向かった。
夏が好きで薄着が好きだ。だから南の国が好きだ。行くならインドシナ、あるいは南アジアだ。その中からひとつを選ぶとしたら、断然、タイだ。つきあいは別として、個人による旅行は一生、タイだけで良いと、今は考えている。
インドネシアの食べものには違和感をまったく感じない。ベトナムも同じく。インドシナの料理ではミャンマーのそれを最も美味く感じたと、西原理恵子は書いている。しかし僕はその意見には首を縦に振れない。カンボジアでは豚肉をプラホックに漬け、葉に包んで炭火で焼いたものが美味くて驚いた。しかし他については、どうだろう。タイの野菜は異様に強い香りを持つ。料理には違和感と美味さが絶妙に入り交じっている。違和感は面白さに通じる。
僕が旅に求めるのは食べものと空気だ。ミャンマーの空気は憂愁に覆われていた。カンボジアの空気には睡蓮のけだるさがあった。ベトナムの空気には勤勉さが満ちていた。タイの空気は緩い。そのユルさの中で何をするかといえば、何もしない。あるいはプールサイドに寝転んで、朝から日が西に傾くまで本を読む。
何もしないことを経験させるツアーがあると、先日、耳にした。耳にはしたけれど、人がお膳立てした「何もしない」には乗る気がしない。「オレの好きにさせろ」である。
朝飯 ひじき、梅干、たまり漬「ホロホロふりかけ」による3種のおむすび、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、豆腐と若布とピーマンの味噌汁
昼飯 「湯けむりまごころの宿・一心舘」のカレーライス膳
晩飯 スパゲティサラダ、刻みキャベツと茹でたブロッコリーを添えたコロッケ、TIO PEPE、黒豆