2022.1.11 (火) 観光しない人、観光地へ行く(上)
女優M.M.と海外に遊んだ日のことを吉行淳之介は文章にした。本の名は「湿った空 乾いた空」という。
「宿泊している大きなホテルは、五番街のはずれでブロードウェイまで歩いて十分くらいのところにあった。(中略) 私は昼過ぎまで眠り、野球のテレビを見たりしている」(新潮文庫版49ページ)
ローマに滞在中「ここまで来たのだから、ナポリへ行きましょう」とM.M.が言い出す。「地図を調べると、ローマの南三百キロほどの海沿いにあって、大きな都会らしい。ナポリ湾を船で走って、火山のある風景を眺めることになりそうで、億劫さが強くなった」(新潮文庫版110ページ)
「十日マドリードにいたあいだ、私が晩飯のため以外に外出をしたのは、二度だけであった。昼まで眠って、あとはホテルの部屋でぼんやりしている」(新潮文庫版118ページ)
観光はおろか街歩きにもまったく興味関心を持たないのだ。そういう人間が、それから20数年を経て世界の大観光地ヴェネツィアへ行った。
往路、アンカレッジ、アムステルダム、パリを経由した飛行機がアルプスを越えると、イタリア半島の海岸線が見えてくる。「長い旅が一応終わる安堵感だけがあって、目的地にたいしての心の弾みは出てこない」と吉行は書く。そして息も絶え絶えにマルコポーロ空港に着くと、待ち受けた通訳の若いイタリア女は泣いている。
その「ヴェニス 光と影」を僕は3度、読んだ。1度目は1991年10月21日。2度目は2003年10月。3度目は2020年12月14日だった。
観光に一切の興味を持たない人間の書いたヴェネツィア紀行を、たとえば旅行業、観光業の人が読んだとして、それは勉強の足しになるだろうか。優れた人なら何ごとにも敏感、貪欲だから、多分、役に立つだろう。
朝飯 牛蒡と人参のきんぴら、じゃこ、「なめこのたまり炊」のフワトロ玉子、納豆、広島菜漬け、蕪と胡瓜のぬか漬け、メシ、豆腐と三つ葉の味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 トマトとレタスとキウイのサラダ、じゃがいものチーズ焼き、カレーライス、らっきょうのたまり漬、らっきょうのたまり漬「浅太郎」、Old Parr(水割りのお燗)