2021.7.22 (木) 風鈴
毎年、梅雨が明けるなり、店の犬走りに風鈴を提げる。ところが隠居のことは、うっかり忘れていた。9時を回ったところで風鈴と3段の脚立を手に隠居へ向かう。
3段の脚立に乗って届くのは、玄関の軒先までだ。その垂木を下から観察し、もっとも良さそうな場所を探す。そしてそこに先ずは紐で輪を作ろうと考えて「待てよ」と手を止める。脚立から降りて、ポケットからiPhoneを取り出す。そしてgoogleに「玄関 風鈴 位置」と入れてみる。
「汁飯香の店 隠居うわさわ」は、昨年の3月28日に開業をした。ごはんを炊いたり味噌汁を作ったりおかずを整えたりについては、数十年の蓄積が家内にはある。しかし室礼となると、我々はいまだ素人の域を出ない。その教養の不足に対し、お客様からご指摘を承ることもある。「この場所に風鈴とはいかがなものか」などと、お客様の不興を買ってもいけない。
最初に目に留まったページには「光や音は気を乱します。風鈴のように常に音を発するものは、玄関には置かないようにしましょう」とあった。玄関がダメとなれば、風鈴の行き先は屋根の軒先しかない。しかしそこは隨分と高い。
隠居から百数十メートルを戻り、事務室の裏手に立てかけた、6段1.92メートルの脚立を隠居に運ぶ。そして屋根の軒先のうち、南東に面した角の垂木に紐を結ぶ。その輪から提げた風鈴は折からの風を受けて、涼しげな音を立て始めた。
3段の脚立を元に戻し、6段の脚立も元に戻し、つまり隠居と店のあいだを何度も往復する。そうして事務机に着いて、念のためもう一度、今度はコンピュータで「玄関、風鈴、位置」と検索してみる。
「玄関に出入りをするたび美しい音色に接すると、気分は自然と爽やかになり、悪い運気を中和させます」の太文字が、ページの最上部に現れる。
「冗談じゃねぇよ」と思う。「もう、誰の言うことも信じねぇぞ」と心に決める。滝のような汗は、いつまでも引かない。
朝飯 鯖鮨、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」、ごぼうのたまり漬、トマトと若布と揚げ湯波の味噌汁
昼飯 カレーライス、らっきょうのたまり漬「小つぶちゃん」
晩飯 冷やしトマト、めかぶの酢の物、蒲鉾、ごぼうのたまり漬、焼き餃子、冷やし中華、芋焼酎「志比田工場原酒」(生)、桃