2020.10.29 (木) 誠実さはしばしば相手を満足させない。
先日、地元の小学生の蔵見学で、案内役を務めた。蔵見学では最後のところで質問を受けつける。子供のそれは大人の意表を突くところが面白い。その日、僕が答えに窮したのは「商品は手作りですか」という問いに対してだった。
畑のらっきょうは、手で土の中から引き抜いて収穫することもあれば、機械で掘り出すこともある。らっきょうはニラより長い葉を持ち、白い髭根も長い。この葉と根を畑で切るのは人が手に握った鋏だ。そうして袋に詰められたらっきょうは、トラックで工場に運ばれる。土の付いたらっきょうを洗うのはドラム式洗浄機だ。水洗いされたらっきょうは、大きなミキサーで塩をまぶされ、ベルトコンベアに運ばれてコンクリート製のタンクで塩漬けにされる。
やがて乳酸発酵したらっきょうは、人の手により包丁でその頭と尻の余分なところを切り落とされる。外側の皮2枚を剥くのも人の手による。それから甘酢や「日光味噌のたまり」により幾度も付け替えをされる。漬け込みに使う甘酢や「たまり」はポンプにより漬け込みタンクまで圧送をされる。
完成した「らっきょうのたまり漬」は人の手で計量され、機械で袋の口を留められ、最後は人の手により店に運ばれて、人の手により冷蔵ショーケースに並べられる。
これらの人、微生物、機械による行程が頭の中を走馬燈のようによぎったから僕は「商品は手作りですか」と訊かれて一瞬、絶句をしたのだ。そして「まぁ、商品は、手と機械と、両方を使って作りますね」と、ようやく答えを絞り出した。
僕の観察によれば、商売の上手な人は、たとえば「商品は手作りですか」と訊かれれば「はい、手作りです」と。単純、明快に即答する傾向にある。それは、どのように答えたら相手が満足するかを心得ているからだ。逆から言うと、誠実さはしばしば相手を満足させない。難しい問題である。
朝飯 納豆、小松菜のおひたし、「なめこのたまり炊」のフワトロ玉子、牛肉のすき焼き風、みょうがのたまり漬、メシ、3種の茸とトマトの味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 蕪のサラダ、刻みキャベツを添えたコロッケ、Petit Chablis Billaud Simon 2016、「すや」の栗きんとん、Old Parr(生)