2020.9.14 (月) 美学なのか性分なのか
むかし、それは40年ほども前のことになるが、世話になっているお宅が本郷にあった。あるときそちらにおじゃまをしていて、天神下のシンスケに行こうということになった。「だったら予約をするわ」と席を立とうとされた奥様を「予約なんてするなよ」と、ご亭主は眉間に皺を寄せるようにしてお止めになった。「居酒屋や蕎麦屋や鮨屋にはフラリと入るもの」という美学のようなものが、その、恐らくは大正生まれと思われる先生にはあったのかも知れない。
10年ほど前に、町内の役員有志でソウルに旅した。夕食はホルモンが美味いと評判の店と決めていた。安いツアーとはいえ、空港からホテルまでは現地の添乗員が付き添ってくれた。
「予約をしてもらおう」と、ホテルのロビーで僕は口を開いた。「ヘーキじゃない、予約なんかしなくても」と、ユザワ歯科医院のユザワ先生はこともなげに答えた。「どーして。ここに添乗員がいるんだぜ」と、僕はいささかムキになった。
店の1階は、現地の若い人で満席だった。朝鮮語の飛び交う店内は、うなるように賑やかだった。2階へ案内をされると、空いているのは添乗員が予約をしてくれた1卓のみだった。「牛肉は日本が一番」と信じていた僕は、極太の大腸をひとくち噛むなり、その新鮮な歯ごたえに仰天した。そして洗面器より大きな器のマッコリを、湯波屋のタシロさんとふたりで飲み干した。
そういえば「陣地を主張しないという点において、予約をしない人は、すなわち奥ゆかしい人だ」という意見を耳にしたことがある。「予約をしない」という行いには、他にも種々の理由が関係していることと思われる。僕も、ホテルの予約を電話でするのは苦手だ。しかしこと食事において、座れる保証の無い店に出かけるときには必ず予約を入れる。予約とは、安心の確保に他ならない。
上澤梅太郎商店が運営する朝食専門店「汁飯香の店 隠居うわさわ」は毎週、土、日、月の営業。開店は8時30分、オーダーストップは12時30分、閉店は14時。電話番号は0288-25-5844(日光ごはん良し)。本店の電話番号0288-21-0002であれば、毎日ご予約を承れます。
朝飯 舞茸と獅子唐の天麩羅、細切り人参の炒り煮、ベーコンエッグ、茄子とパプリカの揚げびたし、夏太郎らっきょう、メシ、オクラの味噌汁
昼飯 「ふじや」の広東麺
晩飯 「コスモス」のトマトとモッツァレラチーズのサラダ、ドリア、ドライマーティニ、TIO PEPE