2020.6.19 (金) ハラハラと
インドシナのどこの国からだったかは忘れた、とにかく結婚して日本へ来た人が夫と蕎麦屋に入った。その女性は目の前に運ばれたものをひと目見るなりハラハラと涙を落としたという。
蕎麦の薬味は長葱の薄い小口切りか三つ葉くらいのものだ。彼女はそれをいかにも粗末と感じて泣いたのだ。「とんでもないところに来てしまった」と嘆いたのだ。
「だし」の複雑玄妙さを味わうために薬味や吸い口は敢えて単品を小さく盛る。あるいは日本には引き算の美学というものがある。そんなことを説明されても、亜熱帯のむせかえるような豊穣さの中からいきなり異文化にたたき込まれた人には通じない。彼女は今も日本にいるだろうか。
夕食が冷たい素麺ということはきのうから知らされていた。今日の気温は冷たいものを食べるにはいささか低い。夕食の席には分厚いスエットパーカを羽織って着いた。
卓上には幸いと、酒に合いそうな2皿があった。素麺が茹で上がるまでは、それらを肴に日本酒を飲んだ。
ウチの冷や素麺は、日本の標準に照らせば添えられる野菜の量は多いかも知れない。それでも風味はあくまで淡泊だ。その、深めの皿に山盛りの素麺が残り3分の1ほどになったところで、いしると酢で風味づけしたモヤシとパクチーと唐辛子とニンニクをバサリと投入する。
香りの一変したそれを一気に頬張れば、蕎麦屋で泣いた女の人の気持ちも分かろうというものだ。梅雨が明けたらいきなり暑くなって欲しい。
朝飯 茄子と獅子唐のソテー、納豆、大根おろしを添えた油揚げの網焼き、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、「しいたけのたまり炊」と長葱の玉子焼き、メシ、大根と若布の味噌汁
昼飯 ラーメン
晩飯 茄子とピーマンの味噌炒り、蛸の鬼おろし和え、冷や素麺、別添えの薬味、「渡邉佐平商店」の「日光誉ゆめささら55%磨き純米吟醸」(冷や)