2019.12.29 (日) 阪納誠一メモリアル走行会
快晴。ドライバーズミーティングは8時30分から9時まで。外へ出たところで「ビンテージクラスの走行は9時から」とのアナウンスがツインリンクもてぎの第1パドックに響く。最初の走行時間は20分。“BUGATTI 35T”の置かれた19番ピットへ小走りで戻る。
紙の手提げ袋から取り出したレーシングシューズは、クリーニングから戻ったまま、紐を通していない状態だった。きのうのうちに気づくべきだった。あるいは今朝は、きのうの日記など書いている場合ではなかった。一刻も無駄にすまいとヘルメットと手袋を身につけ、靴は普段履きのまま操縦席に乗り込もうとする。
「引っかかりませんか」とタシロさんが懸念を示す。
「大丈夫です」と手短に答える。
僕はハンドブレーキを引き、クラッチペダルを踏む。タシロさんはスカットルの電気スイッチを入れ、前に回ってクランクを回す。エンジンは轟然と始動した。ここで問題に気づく。メレルのジャングルモックはやはり、狭い足元にはいかにも幅が広すぎた。僕はタシロさんに謝りつつ電気スイッチを切る。
浮谷東次郎は、シートベルトが取り外された状態のホンダS600で試走をしながら、コース上の人を避けようとして鈴鹿サーキットに散った。「急げば回れ」である。
レーシングシューズの、いくつあるか数えたこともないたくさんの穴に紐を通し、それを正しく履いて、ふたたび操縦席に乗り込む。そしてピットロードからコースへ出て行く。
冷え切ったタイヤとかけたばかりのエンジンを慮って、回転は2,500までに留めてゆっくり走る。どうもエンジンの調子が上がらない。8気筒のうちの1気筒が死んでいるような気もする。そのまま時間いっぱいまで西コースを周回してピットに戻る。
タシロさんがエンジンカバーを外す。そして8本の点火プラグすべてを抜いて点検する。もっとも前方のプラグが黒くすすけている。初回、僕はエンジンの点火時期を始動時のままで走っていた。不調の原因はそこにあるのではないかとタシロさんは推し量った。
1925年から1989年までのクルマ55台が集った今日の走行会で、ビンテージクラスのクルマが走れる時間は130分間。次の10時30分からの回では、ピットロードを出て第1コーナーに差しかかる前に、点火時期の調整レバーをもっとも速いところまで押し下げる。エンジンはそこから突然、軽く、力強く回り始めて車体を前に押し出した。
ホームストレッチでは3速4,000回転に達したら4速に上げる。第1コーナーの手前150メートルのところで4,000回転になりかかる。ここでブレーキを強力に効かせつつ3速に落とす。第1コーナーは3速3,000回転でも怖くない。3,250回転まで上げても第2コーナーのクリップは難なく取れる。
バックストレッチでも3速で3,000回転に達したら4速に上げ、しかしその先のシケインは難物だから、ここはその200メートル前から制動をかけつつ3速2,000回転でハンドルを右に切る。シケインを抜けるとすぐに左コーナー。息つくひまもなく最終コーナー。その上り坂を、3速2,250回転から2,500回転に速度を上げつつ右のクリップを取る。逆バンク気味の最終コーナーは、西コースではもっともタイヤの滑るところだ。
朝のドライバーズミーティングでは、追い越しは直線に限るよう釘を刺されていた。前のクルマを抜くときのみ、3速での速度を4,500回転まで上げる。絶好調を取り戻したエンジンは更に回ろうとするも、壊すわけにはいかない。
午後から計60分間の走行をこなし、16時からの30分間はいよいよ最後の時間帯だ。この同乗走行の際に、いつも来てくれるモモイシンタローさんを乗せての最高タイムは1分02秒だった。西コースの距離は1.49Km。ひとりのときには恐らく1分をすこし切るくらいのところだろう。
ふと気づくと、ゴールポストのデジタル時計が残り8分を示している。いつの間にそれほどの時間が経ったのだろう。あるいは懸命に周回を重ねるうち時を忘れてしまったのだろうか。最後は残り1秒のところでゴールラインを越える。
右足でブレーキペダルを強く踏み、左足はクラッチペダルを床まで踏み込む。同時に右足のかかとでアクセルペダルを押す。1926年製の、ギアボックスにシンクロメッシュを持たないレーシングカーの減速には「裂帛の気合い」のようなものが必要だ。
第1コーナー、第2コーナー、バックストレッチ。右のシケイン、下りのS字カーブ、上りの最終コーナー。姿勢を正しつつ最後の直線に駆け上がると、遥か彼方の右手にチェッカーフラッグが大きく振られていた。
朝飯 「ホテル若葉」の朝のお膳
昼飯 “GRAN TURISMO CAFE”のカレーライス、ミニサラダ
晩飯 「コスモス」のトマトとモッツァレラチーズのサラダ、マカロニグラタン、ドライマーティニ、TIO PEPE、家へ戻ってからのシュークリーム、Old Parr(生)