2019.9.20 (金) タイ日記(2日目)
目を覚ましてからしばらくして布団の中を手探りし、iPhoneを引き寄せる。時刻は3時5分。即、起床する。
旅の初日の日記は長くなりがちだ。これを書くうち夜が明ける。301号室には広いベランダがある。消えていた蚊取り線香に火を点け直してから、このベランダへの戸を開ける。どこにいても、朝の鳥の声は爽やかだ。
団体客が去った頃合いを見計らって階段を降り、庭を横切って食堂棟へ行く。大皿に野菜を取り、目玉焼きを添えて外のテーブルに置く。そして中に戻って食パンをトースターに入れ、コーヒーメーカーに器を置いて”ESPRESSO”のボタンを押す。トーストとコーヒーを両手にして席に戻りかけたところで、野良猫が僕の皿の目玉焼きを盗む姿が見えた。取りあえずはそのテーブルにトーストとコーヒーを置く。そして皿を手にふたたび中に戻って保温容器からふたつ目の目玉焼きをトングで挟み、それを皿に載せる。
本日すべきことはふたつ。日本を発つ前日にお墓の掃除はした。しかし彼岸の入りにあって墓参りをしないとは、どうにも気分が落ち着かない。せめてお寺で線香の1本も上げたい。もうひとつは、安い宿泊費の割りに広いプールを備えるラルーナホテルの視察である。
10分ほどを歩いて、この田舎町の中心部に出る。そして昨秋に知った、ワンカムホテルちかくのホステルで自転車を借りる。1時間あたり20バーツで何時間か借りるか、それとも1日分の80バーツを払ってしまうか、しばし迷った末に80バーツを支払う。
ワットジェットヨットなら歩いても行ける。しかしそれも安易な気がしてワットプラケオを目指す。歩けばすこし億劫な距離でも自転車なら数分で着く。タンブンの箱に100バーツ札1枚を差し入れ、脇の棚からロウソク2本と線香6本を取る。そして先ずは本堂に上がる。そこで手を合わせてから階段を下り、地元の人に倣いつつ、何やら分からない仏像の置かれた2ヶ所に、それぞれロウソク1本と線香3本をお供えする。
借りた自転車はもっとも安い値段のもので、右のペダルがよじれている。その、踏みづらいペダルを漕いでバーンパプラガンロードを突っ切り、サナビーンロード、つまりむかしの空港へ向かう道を数キロ南に下る。目指すラルーナホテルは右手に見やすい看板を出していた。
「プールを見せて欲しい」と頼む僕に、山本譲二に似たフロント係はニコリともせず、訝しげな表情のまま無線機に向かって「ノンカップ」と呼びかけた。白服のボーイがすぐに現れて、コテージ型の客室を繋ぐ小径へと僕を先導する。「これで1,000バーツもしない宿泊料は魅力だ」と考えつつ辿り着いた、熱帯樹に囲まれたプールはなるほど広かった。しかしチェンライに来れば毎日のように行きたいナイトバザールへは遠すぎる。宿泊料の安さは、そのあたりも関係しているのかも知れない。帰り際に礼を述べると、フロント係は初めて笑顔を見せた。
サナビーンロードには何年も前から食べたいと思っていたクイティアオ・ルアの店がある。食べたいと思いながら食べられなかったのは、この道を食事どきに逍遥することがなかったからだ。しかし今日はまさに昼になりかかろうとするときで、条件は整っている。
通りに面して置かれた、舟を模した調理台ごしに「センレックナム」と女主人に告げてから店に入る。非常に古い造りながら女の人をふたり雇っているところからして、店は繁盛しているのだろう。料金はケープムー付きで40バーツ。食べ終えて手を洗いたい旨を伝えると、オカミは僕を奥の水場に案内した上、手に液体洗剤まで垂らしてくれた。
午後はホテルのプールに数時間ほどもいて、本を読むことと泳ぐことを繰り返す。自転車を、時間単位でなく1日まるごと借り切ったのは正解だった。夕刻、街で得た情報により、老夫婦の経営していた酒屋が時計台から北へ上がる道のチェンライホテルの中に移ったことを知る。そこまで自転車を漕いで、これまでより100倍も立派になった店に目を見張る。中に入ると僕の最も好きなラオカーオ”BANGYIKHAN”が何本も並んでいる。「最高」以外の言葉は無い。キャッシュレジスターはボタンを押す機械式からiPadに変わっていた。若い女店員に500バーツを手渡し、385バーツの釣りを受け取って外へ出る。
18時5分、ワンカムホテル近くのホステル”POSHTEL”に自転車を戻す。そしてナイトバザールの奥のフードコートへ行く。野菜ばかりが増量されたチムジュムは、いまや僕にはちと多すぎる。よって今夜はステージに向かって左側に並ぶうちの1軒に空心菜炒めとライスを頼む。もちろん酒を売るブースでソーダと氷も買う。鮨、マカロニグラタン、バターとチーズをたっぷり塗りつけたフランスパン、そして今夜のおかず… 僕は炭水化物を肴にすることが嫌いではない、というかむしろ好きだ。
フードコートでの飲酒活動は数十分で切り上げ、部屋には19時30分に戻った。そしてシャワーを浴びて蚊取り線香に火を点け、冷房を消して即、就寝する。
朝飯 “Diamond Park Inn Chiang Rai Resort & Hotel”の朝のブッフェ
昼飯 バーンパプラガンロードからサナビーンロードを数百メートル南下した右側にあるクイティアオ・ルア屋のセンレックナム、ケープムー
晩飯 ナイトバザール奥のフードコートのパックブンファイデーン、カオスアイ、ラオカーオ”CABALLO”(ソーダ割り)