2019.7.4 (木) 3本のマッチ
仕事にひと区切りをつけたおじいさんは、土手に腰を下ろし、タバコを口にくわえた。そしてふところから取り出したマッチ箱を開け、火をつけようとした。1本目のマッチはおじいさんのヒゲを燃やしてやろうと、いきなり勢いよく炎を上げた。おじいさんは驚いて、そのマッチ棒を放り出した。マッチはかたわらの水たまりに落ちて「ジュッ」という音とともに消えた。
2本目のマッチは仕事をする気がなかったから、炎ははじめから弱々しく、火は軸を黒く焦がしたのみで消えた。おじいさんは落胆をして、そのマッチを石ころの上に捨てた。
3本目のマッチは、おじいさんに心ゆくまで美味しいタバコを吸わせてあげようと考えた。おじいさんは今度こそタバコに火をつけ、待ちに待った、美味しい煙を胸いっぱいに吸い込んだ。そして親切にしてくれたそのマッチ棒を、柔らかい草の上にそっと置いた。
細部の異なっている可能性は否めないが、小さなころに読み、今なお強く印象に残る童話である。道徳訓としても、中々よくできた話とは思う。しかしここ数十年の、世界的な嫌煙禁煙の流れからして、多分、この童話は家々の書架の奥深く、あるいは図書館の片隅に埋もれて、世には二度と出てこないような気がする。
夜、ソテーした分厚いハムを肴に白ワインを飲んだら、妙にタバコの吸いたい気分になった。よって食器棚の引き出しから何年も前に買ったタバコを取り出し、仏壇からマッチ箱を借り、外へ出る。そして多分、ことし2本目と思われるタバコを、店のベンチに座ってゆっくりと吸う。
朝飯 雑炊、たまり漬「七種刻み合わせ・だんらん」、万願寺唐辛子とじゃこの炒りつけ、塩鮭
昼飯 「大貫屋」の味噌ラーメン
晩飯 胡瓜とキウィのサラダ、パン其の一、パン其の二、夏野菜とウインナーソーセージとハムのソテー、Petit Chablis Billaud Simon 2016