2019.4.7 (日) 古典派
夫は公認会計士、という若い夫婦が遊びに来たときのこと、彼らはそれぞれのスーツケースを曳いて現れた。交通手段は自家用車とばかり考えていたため訊けば、浅草から東武日光線に乗り、下今市駅からは徒歩と聞いて、大いに驚いた。住んでいるマンションのシェアカーで用は足りるから、クルマは持っていないという。ちなみに夫の趣味はホットヨガ。時代が明らかに変わったことを、僕は認識しないわけにはいかなかった。
ひとむかし前の1990年代、高級士業や、金融機関でも特に外資系に勤める人は、仕事帰りでもスーツには皺ひとつなく、シャツの襟には糊が利いていた。人と会う、あるいは盛り場に出る夕刻には朝からのシャツを新しいそれに着替えているのではないか、そんなことを僕は考えた。
その、舶来と思われるシャツは多く襟にピンホールを持つもので、そこに差し込まれたピンは金色、眼鏡も金色、カフスも金色、おまけに腕時計も金色で、爪にはマニキュア。その姿は尾崎紅葉の描く富山唯継を思わせた。実に、100年も続く身だしなみ、である。
前世紀の酒場でよく目にしたそのような人を、しかしこのところはとんと見ない。世の中からいなくなったわけではないのだから、多分、服飾の趣味が変わったのだろう。一般に紛れて見分けがつかなくなっているのだ。
厳しい競争を勝ち抜いた自分を慰撫するように、特殊な趣味の服や宝飾品を身につけ、高価なクルマに乗る、そういういわゆる「古典派」は、今や絶滅危惧種だ。そして世の中は、急速に平板になりつつあるような気がする。一億総ファストファッション化、一億総モノ離れ、70億総GAFA傘下。それが良い世の中なのかどうかは分からない。
朝飯 細切り人参の炒り煮、納豆、ジャガイモとピーマンとパプリカの「日光味噌梅太郎白味噌」和え、揚げ湯波と小松菜の炊き合わせ、切り昆布の炒り煮、蕗のとうのたまり漬、塩らっきょう、メシ、豆腐と若布と万能葱の味噌汁
昼飯 「カルフールキッチン」のサンドイッチ、コーヒー
晩飯 「コスモス」のトマトとモッツァレラチーズのサラダ、ポークカツレツ、ドライマーティニ、”TIO PEPE”