2019.3.12 (火) タイ日記(6日目)
おとといの夜、屋台街から裏道を辿って帰るとき、イスラム寺のそばの電柱に”LAUNDRY”と看板の出ていることに気づいた。センターポイントシーロムはサービスアパートメントの体裁が整えられていて、部屋には大抵、洗濯機が備えられている。しかし今回の部屋は狭く、その洗濯機が無い。
きのうの朝、建物と建物の隙間を抜けてこの洗濯屋を訪ねると、オジサンがいて、洗濯物は朝に出してくれれば夜にはできあがると教えてくれた。日程を考えれば、洗濯物はできるだけ溜めてから出す方が得策だ。よってすべての洗濯物を袋に入れ、きのうとおなじ8時にこの洗濯屋へ行く。オジサンは洗濯物の枚数を丁寧に数えてから紙に「490」と書いた。洗濯機一丁で勝負する街場の洗濯屋としては安くないと感じたが、これ以上の着替えは持っていない。出来上がりは18時とオジサンが言うので「その時間は晩ごはんを食べているので、明日の朝、また来ます」と答えて店を出る。
宿は巨大なバンラック市場と路地、正確にはチャルンクルン通りソイ46を挟んである。市場のもっとも外側、その路地に面してクイティオ屋のあることは以前から知っていた。ものは試しと、今朝はそのクイティオ屋の椅子に着く。汁麺はとても美味かった。この店には明日も来ようと思う。
部屋に戻り、手持ちの現金を数えてみる。その額は1,998バーツ。今夜はタイ在住の同級生コモトリケー君とビーフステーキによる夕食を摂る。コモトリ君には昨年の10月に布と見本を渡して仕立てを頼んでおいたタイパンツの仕立代500バーツ、明日の朝は洗濯屋に490バーツを支払わなくてはならない。とすれば、1,998バーツは絶対に足りない金額だ。
9時にホテルを出てサパーンタクシンの駅へ行く。紙幣の使える自動販売機はこの駅には無いから、サラデーンまでの切符というかカードを窓口で買う。以前はBTSの駅では両替しかしてくれなかったと記憶をするけれど、今回はどこの駅の係員も親切だ。そうして9時20分にタニヤの両替商も兼ねる酒屋へ行くと、店はいまだ空いていなかった。よってちかくのマッサージ屋「有馬温泉」まで歩き、足のマッサージと耳掃除をしてもらう。
10時を過ぎると街の気温は急に上がる。タニヤの酒屋では3万円のみ両替をした。今朝のレートは1万円が2,840バーツ。1万円が4,000バーツを超えた2009年が懐かしい。しかしそのころの日経平均株価は1万円を切っていた。何が良いのかは、人それぞれである。
ところで明日は帰国日だ。夜の便に乗る帰国日に悩ましいのは、ホテルをチェックアウトした後の過ごし方と、夕食の場所である。
数年前の大渋滞を思い出すたび、空港へは電車で行きたい。夕食には酒がつきものだ。しかし酔った状態でスーツケースを曳き、ザックを背負って複数の乗り換えはしたくない。空港の高いメシは食べたくない。とすれば夕食の場所としては、空港まで一直線で行けるエアポートレイルリンクの駅パヤタイが頭に浮かぶ。
サラデーンからBTSのシーロム線とスクムビット線を乗り継ぎパヤタイへ行く。プラットフォームから下を覗くと、良さそうなフードコートがある。逆の、ケーハ行きのプラットフォームにも上がっておなじく下を覗いてみる。こちらには、夜になると店を開けるらしいテーブルと椅子が見える。
「駅の外へ出て、もうすこし見てみよう」とプラットフォームから階段を降りきると、iPhoneから顔を上げた女の子が泣き出しそうな、かつ安心を爆発させたような嬉しそうな表情を浮かべて小走りで近づいてきた。そしてなかなか上手な英語で「シーロムへ行くには、どちら方面行きに乗ったらいいでしょう」と訊く。僕はいま降りてきたばかりの階段を指して「こっちですね」と答えた。小柄で華奢で色白で、どうも日本人のような感じだったが、それは確かめなかった。それよりメシの場所、である。
BTSの駅の西側のフードコートに入り、奥へ進んでいく。商売熱心なオバサンが声をかけてくる。閉店時間を訊くと19時とのことで、それだとちと閉まるのが早すぎる。歩道を南へ下れば在来線の線路があって、そのかたわらにはクイティオ屋が店を出している。更に進むとまたまたフードコートがあったけれど、こちらも閉まるのは早そうだ。
反対の東側へ道を渡る。「夜になると店を開けるらしい」と書いたテーブルと椅子は、シーフードの露店だった。駅へ戻ろうとパヤタイ通りを北へ歩きながら、シーアユタヤ通りとの角に「フロリダホテル」という古びたホテルも見つける。駐車場から殺風景なロビーに入ると、右手のコーヒーショップの入口上に”TAMPA”というネオン管が取り付けてある。フロリダにタンパとは、いささかできすぎではないか。ベトナム戦争の時代に建ったホテルかも知れない。ここなら涼しい環境での食事が可能である。
部屋へ戻り、汗を流すためシャワー室に入る。そこで、シャワーヘッドと、それを固定するための上下に位置を調整できるステンレスのパイプが一新されていた。「初日から熱いお湯が出ないですよ」と、今朝、フロントに言ってあったのだ。しかしお湯とシャワーヘッドと何の関係があるのだろう。そう考えつつシャワーを浴びる。見事、熱いお湯は出るようになっていた。
ホテルの地下にあるトップスマーケットで買ったケーキと牛乳による昼食を摂ってからプールに降りる。寝椅子に仰向けになって本を読んでいると、上から複数の人の声がする。本から視線をずらすと、プールから5階上の北東に面した部屋のベランダで、男3人がしゃべっている。そのうちのふたりはタバコを吸っている。
このホテルにチェックインをするときには「全館禁煙の決まりを破ったら2,000バーツの罰金を支払います」と書かれた紙に署名をさせられ、更にはその2,000バーツをデポジットとして預けさせられる。「ああいうやからがいるからデポジットを取られるのだ。デポジットの2,000バーツがあれば、今日の両替も必要は無かったのだ」と、じっとその男たちを見上げて、しかしホテル側に通報をすることはしなかった。
バンコク在住の同級生コモトリケー君とは、18時にタニヤの酒屋の前で待ち合わせをしていた。そして連れだってちかくのステーキ屋に入る。タイの安い物価に慣れた身には、ワインはいかにも高く感じられるが、僕はビールは飲まないから仕方がない。
店を出た我々をトゥクトゥクが追い越した。それを停めてコモトリ君は、100メートル先のサラデーンまで行くよう告げた。運転手に100バーツをはずんだのは、コモトリ君なりの、タイへの貢献なのだろう。ホテルにはコモトリ君の会社のクルマで送ってもらった。時刻は21時すこし前。シャワーを浴びて即、就寝する。
朝飯 チャルンクルン通りソイ46を西に入って右側のクイティオ屋台のバミーナム
昼飯 バナナケーキ、牛乳
晩飯 “The Steakhouse Co”のサラダ其の一、サラダ其の二、パン、シャーベット、オーストラリア産ストリップロインのステーキ、ハウスワインの赤、テキーラキャラメル