2018.6.26 (火) タイ日記(6日目)
このホテルに着いたとき、チェックアウトの時間は13時と教えられた。それを18時まで延ばすといくらかかるかと訊くと、1,500バーツと言われた。マッサージ5時間分より高い。
午前中は屋上のプールサイドで本を読む。部屋には余裕を見て11時30分に降りた。荷造りは朝のうちにあらかた済ませておいた。そのスーツケースの隙間にPatagoniaのバギーショーツとKEENのゴム草履をねじ込む。12時30分にチェックアウトすると同時に、荷物ふたつをクロークに預ける。
トンローのsoi9とsoi11のあいだで赤バスを降りる。昼食を済ませてから”Sumalai”そして”Tiger”と、2軒のマッサージ屋をはしごする。
来たときとは逆にトンローの通りを南下する赤バスは、トンローsoi1に右折をする。突き当たりのスクムビットsoi53を左に折れる。南に進んでスクムビット通りに出たら、それを左折して終点に至る。しかし夕刻が迫るスクムビット通りは大変な渋滞にて、バスはそのsoi53からいつまでも抜け出せない。
痺れを切らせた乗客たちが、次々とバスを降りていく。いまやバスの中には、運転手と車掌を除けば、客は僕も含めて4人しか残っていない。僕が席を立たないのは「別段、急ぐ旅でもあんめぇし」と、時間に余裕があるからだ。
バンコクは、世界でもっとも渋滞のひどい街といわれている。soi53に閉じ込められたバスの中で、そのわけを考えてみる。
タイ人は歩くことを嫌う。もうひとつ、これは僕の観察によることだが、タイ人は階級や収入に応じて自家用車や社用車を使う。自分の地位や収入に自信のある向きは「私は公共の交通機関を使うような身分ではございません」と密かに、あるいは堂々と胸を張る。タイ人だけでなく外国人も、この国に暮らすうち、そのようなタイ人の気質に染まっていく。
上記のような中間層から富裕層が漸増する一方で、この都市に特有のsoiと呼ばれる袋小路を含めて、交通の流れを良くするための開発や工事は進捗しない。よって動かない車列はますます長くなる。その、フェラーリやランボルギーニの混じる糞詰まりを、僕はゴム草履を履いて、南の国に特有の、敷石の割れた歩道を歩きつつ眺めているのだ。
「タクシーをお呼びしましょうか」と声をかけてくれたベル係に「歩いて行くよ」と答えてホテルから目の前のsoi49に出る。道路の端には雨水を逃がすための浅い窪みがあり、その外側の、本来は歩道として使われるべき空間には隙間なくクルマが駐められている。soiを南下するクルマと北上するクルマはひしめき合って、スーツケースを曳く幅も、路上には残っていない。
ホテルからトンローのパクソイまでは、歩きで10分かかった。道を渡って「55ポーチャナー」の前まで来ると、店は真っ暗だった。時刻は18時を1分だけ過ぎている。平日は18時30分からと、ガラスのドアにシールが貼ってある。
店の外の、土曜日に僕が使ったテーブルには既にして、良く言えば気楽な、悪く言えば気楽すぎる服を着たオヤジが座って、店の人にもらった、しかし客に出す品とは明らかに異なるものを食べている。「この手のオヤジは、銀座あたりにも結構、いるよな」と通り過ぎ、そのオヤジとは最も離れて、しかしそのオヤジと向き合う形で席に着く。開店までの20数分は、本を読んで過ごす。
店にいきなり灯りが点る。時刻は18時30分。オネーサンが近づいてくる。ソーダと氷と牡蠣の卵とじを注文する。「ソーダと氷と」の「と」にあたるタイ語をカタカナで表記することはできない。僕の「と」も単独で発音したら、オネーサンには通じない可能性が高いだろう。
今夜の牡蠣の卵とじは、土曜日のそれより油が少なくて食べやすかった。他の料理も試してみたいものの、ひとりではどうにもならない。
金色に染めた髪を風変わりにまとめた、いや、それをまとめたと言って良いかどうかは分からないが、ツボネのようなそのオネーサンに100バーツ札3枚を手渡しつつ勘定を頼む。注文は土曜日と同じだから、代金は分かっているのだ。
釣り銭の中から20バーツ札1枚をオネーサンに戻して「用を足してくるから荷物、見ていて」と頼んで店に入る。便所の扉の前で振り向くと、オネーサンは僕のスーツケースとザックから目を離さずガラスの向こうに立っていた。
19:28 店を出る。
19:48 モーチット行きの車両がようやくトンローを発車。
20:21 エアポートレールリンクの車両がパヤタイを発車。いつの間に雨が、それも豪雨が降り始めている。
21:01 スワンナプーム空港の駅から出発ロビーまはエスカレーターで上がる。「55ポーチャナー」でペットボトルに残したラオカーオを、途中で処分されないよう一気に飲み干す。”BANGYIKHAN”は、やはり美味い。
21:07 タイ航空のカウンターでチェックインを完了。
21:17 保安検査場を通過。
21:30 パスポートコントロールを通過。
21:40 僕の手持ちのカードでも使えるラウンジの前まで来たものの、肝心のカードが見あたらない。直ぐに取り出せるよう、貴重品を保管するためのポーチからズボンのポケットにでも移し替えて、空港内のどこかで紛失をしたのだろう。「本来の場所から移動させることによりモノを失くす」ということが、僕にはとても多い。
22:18 ボーディングが始まる。
22:37 飛行機にはバスで運ばれる。豪雨は幸いにも止んだ。
22:48 ペットボトルの水を買い忘れて、客室乗務員に紙コップの水をもらう。それを手に持ったまま離陸はできないから、デパスとハルシオンは、その場で飲んでしまう。以降の記憶は無い。
朝飯 スクムビットsoi49のパクソイから北上してすぐ左手のセブンイレブン右側のクイティオ屋のセンレックナム、“ADELPGI FORTY-NINE”の朝のブッフェのコーヒー、ヨーグルト
昼飯 トンローのsoi9とsoi11のあいだの屋台のバミーヘン(大盛り)
晩飯 「55ポーチャナー」のオースワン、ラオカーオ”BANGYIKHAN”(ソーダ割り)