2018.5.12 (土) 好きなおかず
好きなおかずの随一は、揚げ茄子におろし生姜を添え、酢と醤油をかけたものだ。そしてそれとおなじくらい好きなのが、ピーマンの肉詰めである。
僕が自由学園の男子最高学部にいたときには、確か、4年のあいだに最低1回は、三重県海山町にある演習林で働くことが義務づけられていた。当時、学園から支給される交通費は鈍行のそれのみで、しかし東京から尾鷲まで鈍行では気が遠くなる。最初の夏休みに自腹で名古屋まで新幹線に乗り、僅々2分でローカル線に乗り換えられたときには達成感に包まれた。
山小屋に着いて数日後に夕食の当番が回ってきた。僕はピーマンの肉詰めを作ることとして、上級生の運転するトラックで林道を下り、地元のスーパーマーケットで材料を調達した。
さて、下味を付けた挽き肉をピーマンに詰め終えたところで僕は、鍋に満杯の、あらかじめ熱しておいた油にそれを次々と投入していった。僕は、調理に先立ちレシピを調べることはしない。すべて自己流である。山小屋の住人たちの前には、異常なほど油を含んだピーマンの肉詰めもどきが並んだ。
その「もどき」を口に入れた瞬間、僕は「これはちょっと違うな」と自らの失敗に気づいたけれど、そのまま黙って食べ続けた。そしてまた、その場にいた十数名からも、批判めいた言葉は一切、出なかった。炎天下の労働は厳しく、我々は腹を空かせていた。「もどき」でも充分に美味かった。
今夜のおかずがピーマンの肉詰めと知らされて、僕は嬉しかった。そしてその「もどき」ではないおかずを肴にして古い赤ワインを飲む。
朝飯 ほうれん草と人参のおひたし、牛蒡と人参とこんにゃくのきんぴら、納豆、五目おから、山椒の佃煮を添えた若竹煮、らっきょうのたまり漬「浅太郎」、生のトマト、メシ、浅蜊と小松菜の味噌汁
昼飯 梅干し、山椒の佃煮、ごぼうのたまり漬、松前漬けによるお茶漬け
晩飯 ポテトサラダ、“TIO PEPE”、ピーマンの肉詰め、“GEVREY CHAMBERTINE 1er CRU AUX COMBOTTES DOMAINE DUJAC 1985”、カステラ、”Old Parr”(生)