2018.3.29 (木) タイ日記(7日目)
目を覚ましてベッドから降り、洗面所の灯りを点すと同時に、寝室と洗面所とのあいだのドアを素早く閉める。灯りのスイッチが洗面所の中にあれば、寝ている者に気を遣うこともない。洗面所の灯りのスイッチが洗面所のドアの外にある、というところが問題である。
きのうの修理のお陰で冷房は快調に動き続けている。しかし今朝はそれが効き過ぎて寒い。よってスイッチを切ろうとすると、きのうは入れても入らなかったスイッチが、今朝は切ろうとしても切れない。殿様でもあるまいし、夜が明ける前にバトラーを呼ぶなどは、申し訳なくてできない。そのまま部屋の片隅の灯りを点け、きのうの日記を書き始める。
プールにはこれまで、下はPatagoniaのバギーショーツ、上はポロシャツという、外で着る服と変わらない恰好で行っていた。しかし今日は帰宅日のため、シャツはできるだけ汗で汚したくない。よってタイに来て初めて、ショーツの上にガウンを羽織った恰好で廊下に出る。
僕の泊まっているガーデンウィングの部屋からプールまでは、ロビーを避ければどうしても、アフタヌーンティーで有名なオーサーズラウンジを横切らなければならない。おとといこのラウンジのオネーサンに訊ねたところ「ガウンでもかまいません」とのことだった。そこで「しかし真ん中を突っ切るのは、さすがにまずいでしょう」と更に訊くと、オネーサンはしばし考えてから「ご案内します」と、アーケードちかくの手洗いからプールサイドに最短距離で出られる順路を教えてくれた。今朝は9時すぎに、その抜け道を辿ってプールへ行く。
きのうにくらべて今日は、朝食の客が急に減っていた。プールサイドの寝椅子も、ほとんどが空いている。選び放題のその中の、傘の影に隠れれば太陽には絶対に直射されない場所を選んで横になる。
いつもかどうかは不明ながら、今回は、その寝椅子に着くとすぐに、係が大きなグラスに満たした氷水を持って来てくれた。今日は更に、スナックとジュースのセット、次はアイスクリームとジュースのセットまでサービスをされた。
このホテルの、客に接触する可能性のある社員のほとんどは、無線の端末を身につけている。その端末に部屋番号を入力すれば、そこにはたちどころに客の情報があらわれる。今日のふたつのセットが、その情報を受けてのものかどうかは分からない。
名所に案内されて「へー」くらいの感想で、次の名所に連れて行かれて「へー」の繰り返し。そういう日本式の観光には、僕は一切の興味を持たない。プールサイドには、13時30分までいた。チェックアウトの時間を15時にしてもらって本当に良かった。月曜日から読み始めた500ページの本は、おかげで256ページまで捗った。
なお「チェックアウトは無料で午後3時まで延ばせると、日本人のウェブログで読んだぞ」とこのホテルの人に言っても、その希望が叶えられるか否かは知らない。すべてはその客の宿泊者としての履歴、そのときのホテルの規則、そしてそのときの係の判断次第だろう。
部屋にはバトラーを呼ぶボタンがあるものの、それを押すことはどうにも機械的、あるいは偉そうに僕には感じられる。部屋から短い階段を伝って廊下に降り、突き当たりにある係の控え室に近づくと、僕の姿を認めてバトラーが出てくる。これから帰るのでポーターを呼んで欲しいとの僕の頼みに、彼はみずからスーツケース2個を部屋から運び出した。「だったらあなたに」と、チップ100バーツを手渡す。
チェックアウトを済ませ、ロビーのソファでしばし休む。コモトリ君は約束の15時よりすこし前に、迎えに来てくれた。コモトリ君の会社のクルマにはポーターでなく、ヘルメットをかぶったガードマンが荷物を積んでくれた。よって彼にも100バーツを手渡す。
「クロントイ・シーカーアジア財団」は、スラムや辺境の子供たちが苦境から脱するための教養を身につけるべく、タイや周辺国に読書を広げる活動をしている。コモトリ君も影ながら応援するこの財団の場所はクロントイにあって、普通のタクシーでは、行き先を告げた途端に断られることもある。
図書室や遊戯室を備えるここでは、またスラムのお母さんたちによる手芸品も売っている。それを購って幾分かの寄付に充てたいとの考えが、家内にはあった。家内が品物を選ぶあいだに僕は瀬戸正人の写真による絵はがきを見つけ、これを30枚だけ買う。
コモトリ君が夕食の予約を入れてくれた料理屋には、約束の18時より1時間もはやく着いてしまった。「早い分には」と、開いたばかりのそこで席に着く。窓の鎧戸からは差し込む光は、いまだ昼さがりのそれである。
今夜の便は22:45発だから、空港にはその2時間前まで行けば良い。コモトリ君の今夜の集まりがあるプロンポンまで移動し、時間調整として足マッサージを30分だけ受ける。
クルマはプロンポンを19時08分に出て、空港には20時に着いた。「何番ゲートに着けましょうか」とコモトリ君の運転手が訊く。タイ航空のカウンターがどのあたりにあったか、僕は覚えていない。「任せます」と答えると「多分、2番」と、運転手はタイ語で呟いた。
荷物を降ろしてくれた運転手には100バーツを進呈する。空港に入っていくと、タイ航空のカウンターは目の前にあった。なかなか優秀な運転手である。
20時10分にチェックインを完了する。手荷物検査場へ向かう途中の掲示板には、僕の乗るTG682に”DELAY”の表示が出ていた。何気なくボーディングパスに目を落とすと、23:10の搭乗時間が印刷されている。既にしてカウンターを離れていたため、遅れの理由を訊くことはしなかった。
20:40 保安検査場を抜ける。
20:50 パスポートコントロールを抜ける。
21:20 ひとり旅では決して入らない喫茶店で西瓜ジュースを家内におごってもらう。
22:50 搭乗口D6へ降りる扉がようやく開く。
朝飯 “Mandarin Oriental Hotel”の朝のブッフェのコーヒー、オムレツと生野菜、トースト、焼き野菜とベーコン、2種のチーズ、マンゴー、西瓜
晩飯 “Kua Kling+Pak Sod”(PRASARNMIT店)のクアクリンムーサップ、パッサトーガピクン、パッウンセンムー、バイリアンパッカイ、パッタイクン、“MAISON DU SUD CHARDONNAY PAYS D’OC 2016”