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清閑 PERSONAL DIARY

2017.9.29 (金) タイ日記(5日目)

目を覚まして枕頭のiPhoneを取り上げ、ホームボタンを押して時刻を見ると、0時36分だった。極端な早寝早起きによる昼夜逆転である。今日は移動日で時間に追われるため、きのうの日記を完成させる。また、荷造りも済ませてしまう。チェンコンに来た日に買った6本パックのソーダの残り2本、またきのう2本のペットボトルに移し替えたラーカーオが荷物を重くしている。

チェンコンからチェンライへ帰る道中で何かあった場合に備え、朝食はメニュからオレンジジュースのみ断り、他はすべて食べた。部屋に戻って忘れ物がないか調べ、8時15分にフロントに降りる。そして8時20分にホテルを出る。今にも雨の降り出しそうな雲である。橋を渡り坂を上がって、市場の入口には8時29分に着く。あまりの空の暗さに、二輪車はヘッドランプを点けて走っている。強く風が吹き始める

「ベンチで待つうちチェンライ行きのバスは来るだろう、そうしたら乗り込んで、9時の出発を待つばかりだ」と考えつつ奥へ進んでいくと、いま正に8時30分発の、チェンライ行きではあるけれど、かつての山道を辿り、メーフォン経由でチェンライに至るバスが走り出したところだった。

「ウォイ、ウォイ、ウォイ」と、市場で働くひとりがバスに向かって大声を上げる。「待て、乗客がもうひとりいるぞ」という意味だろう。メーフォン経由は時間がかかると聞いていたため、当方にその意思はなかったものの、親切なタイ人には義理立てをしなくてはならない。背中にザック、右手にスーツケースを持ち上げ、後ろのタラップから車内に駆け上がる。バスが街道に出るまでの数十秒のあいだに、遂に雨が降り始める。それもいきなり強く。

最後部の席の男の人に「これは直行便ではないですよね」と、念のため確かめる。相手は山道を表すように、右手の人差し指で空中に曲線を描いた。そして「どちらから」と訊いた。僕は”JAPAN”と答える。ここまでは英語の会話である。すると相手は「えっ、日本の方ですか、私も日本人です」と、驚いたように声を上げた。数えるほどしか客の乗っていない田舎のバスで、珍しいこともあるものだ。

男の人は僕よりひとつ上で、タイにはじめて来たのは僕とおなじ20代のはじめ。今は引退をして、チェンライとチェンコンのアパートを交互に行き来しつつ、タイの北部を歩いて楽しんでいるという。以降はずっと、その男の人と会話を続けた

メーフォン経由の道は時間がかかると聞いていたものの、バスは10時59分にチェンライのバスターミナル1に着いた。所要時間は2時間29分。強雨の中を走り続けたにもかかわらず、直行便による往路に4分しか遅れていない。チェンコン発08:30発に飛び乗ったのは正解だった

古いバスターミナルが改装中とは月曜日の日記にも書いた。現在の待合所は、ぬかるみに椅子を置き、テントを立てただけの粗末なものだ。道中、雷を伴うこともあった雨は、いまだ続いている。テントの横にはトゥクトゥクが”tail to nose”の状態で並び、客を待っている。ここでトゥクトゥクに乗れば濡れずに済む。乗ればホテルに行くしかない。ホテルと街のあいだには1.5キロの距離がある。当然、昼食はホテルに頼ることになる。しかし朝食はとにかくとして、昼食や夕食をホテルで摂る気はしない。

痩せ我慢をしてテントの外に出る。幸いなことに、雨は弱まり始めた。清潔そうな汁麺屋の前を通り過ぎ、すこし考えて、その店に引き返す。そしてバミーナムと告げる。女の人が「豚か牛か」とタイ語で訊く。「豚」と答えておもむろに、外の雨の様子を眺める。

いつもの崖下の道をトゥクトゥクは軽快に走り、ホテルには11時45分に着いた。予約時に書き送った希望のとおりではなかったけれど、ベルボーイには、そのふたつ奥の部屋に案内をされる。眺望はこちらの方が良さそうだ。雨は止み、日が差しはじめている

風呂桶の湯に、5日ぶりに浸かる。チェンコンにいたときには、外から部屋に戻るたび、シャワーで汗を流していた。今日は朝からの雨が地表を冷やしたのだろうか、部屋にいても、靴下と靴を身につけたいほどの涼しさである。午後はずっとコンピュータに向かう。

部屋の周囲では、僕の知らない言葉を話すヨーロッパ系の白人が、しごく騒がしい。一族郎党で旅に出れば、それも仕方の無いことなのかも知れない。

18:00発のシャトルバスで街に出る。チェンライにいるときの夕食は大抵、ナイトバザール奥の、ほとんど地元の人しかいないフードコートで摂る。ここへ来たら、何と言ってもラオス風の土鍋チムジュムである。しかし、それをひとりで食べきれるほど腹は空いていない。よって今日のところはその手前にある観光客のためのオープンレストランにて、肉を避けつつ肴を選ぶ。


朝飯 “FORTUNE RIVER VIEW HOTEL”のトーストハムとソーセージを添えた目玉焼きコーヒー、タイの標準語ではファラン、北部の方言ではマッキャオと呼ばれる果物と西瓜
昼飯 バスターミナルちかくの汁麺屋のバミーナム
晩飯 ナイトバザールの観光客用オープンレストランのソムタムプラームックヌンマナオ、ラオカーオ”BANGYIKHAN”(ソーダ割り)

  

上澤卓哉

上澤梅太郎商店・上澤卓哉

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