2016.10.3 (月) チェンライ日記(5日目)
南の国の夜は一気に明ける。6時を迎えようとするころから急に明るくなる。地軸の傾きや緯度が関係しているのだろうか。プールで泳ぐ人がいる。南の国とはいえ気温は20℃をすこし超えるくらいのところだろう。この時間から、その気温にも拘わらず水に浸かるなどは、ファランにしかできないことである。
クリストファー・ロビンではないけれど、チェンライには「なにもしないでいること」をするために来ている。もっともその僕も、日にいくつかのことはする。毎日することはメシ食い、歩行、日記書き、本読み、酒飲みである。そこに毎日ではないけれど、あれこれのよしなしごとが加わる。
今日も未明は日記書きである。そうして朝を迎え、しばらくしてから朝食会場へと降りていく。外の席には、大きなテーブルにしかナプキンと食器が置いてなかったため、小さなテーブルにもそれを用意するよう、ウェイターに言う。朝食の内容は、ここに来て以来、変わらないものだ。朝日はいまだ、低いところにある。
きのうと打って変わった好天にて、強い日差しの下を2キロほど歩いて街に出る。髪も髭も伸びている。目抜き通りの、昨年かかった床屋の扉を引く。「髪と髭と耳掃除」と伝えると、店主らしい男に奥から2番目の席を示される。言われるままそこに座る。僕の後ろには若い人が立った。バリカンは1番か2番かと訊かれても意味が分からない。「5ミリ」と伝えると「だったら2番」と、店主らしい男は若い職人に伝えた。
料金は昨年とおなじ180バーツだった。髪が70バーツ、髭が60バーツ、耳掃除が50バーツといったところだろう。入国をする前からタイの物価は身についている。だからシャンプーは頼まない。若い人は僕の頭と頬とあごにドライヤーの風を当て、それに相当する日本語はないからどう書いて良いか分からない、とにかく髪や髭のカスを吹き払った。
チェンライで僕がいちばん好きなメシ屋「シートラン」が、いつになく繁盛している。店先の硝子ケースを指さし、おかず2種と冬瓜のスープ、そしてライスを注文して店に入る。先ほどまでは食器の準備に使っていたらしい、本来は客用のテーブルを店主は店員に命じて片づけさせ、そこに僕を案内した。
今年のギンジェーつまり菜食旬間は10月1日から9日までと聞いた。この町には9月29日に着いたのだから、ここにはギンジェーの始まる前に来ておけば良かった。僕はこの店の、キャベツと豚三枚肉の煮込みが好きなのだ。店に「齋」、これは斎戒沐浴のひと文字と思われるけれど、この黄色い旗の派手にひるがえる下で、肉の代わりに豆腐や湯波を使ったおかずを昼食とする。
朝に続いて昼も満腹である。その腹を鎮めるため「日本にこんな美味いコーヒー、あるかね」と飲むたび感動する「ドイチャンコーヒー」にてエスプレッソ1杯を飲み、おとといともきのうとも違う道を歩いてホテルに戻る。
床屋の帰りに買ったラオカーオを部屋のテーブルに置く。窓の外には陽光が満ちている。着替えてプールに降り、そこで2時間ほども本を読む。
夜はきのうに引き続きホテルのシャトルバスで街に出る。そしてきのうに引き続きナイトバザールの、きのうのオバチャンにチムジュムを注文する。
昨年のオバチャンの画像をオバチャンにiPhoneで見せる。するとオバチャンはみずから親指と人差し指で画像を拡大して、しかし老眼のため判別が付かず、それを隣の店の若い人に見せに行った。若い人はディスプレイを凝視して「オバチャン本人だよ」と教えたらしい。このオバチャンが、なぜ極端に若返ったかは不明である。オバチャンはソムタムを小皿でサービスしてくれた。
となりの席では家族が日本と同じハッピーバースデーの歌を歌いながら、子供の誕生日を祝っている。洒落た祝いの席ではないか。子供たちは多分、今夜はケーキしか口にしないだろう。
昨年はなかった猫カフェの角をまわって通りに出る。ホテルのシャトルバスが帰りの客を迎えに来るまでにはいまだ45分もある。おとといのトゥクトゥク代100バーツは「外人プラス雨」の特別価格だった。いまトゥクトゥクを頼めば今度は「外人プラス夜」でやはり100バーツだ。前述のとおり、タイの物価はタイに来る前から身に染みついている。
トゥクトゥクのたまり場を過ぎて歩いて行くと、シーローの運転手が徐行をしながら僕の顔を覗き込んだ。「ドゥシットまでいくら」とすかさず訊く。「40バーツ」と運転手は答えた。即、その荷台に乗り込みホテルを目指す。
今日の就寝はきのうよりも早い19時台だった。極端な早寝早起きによる、これも昼夜逆転である。
朝飯 “Dusit Island Resort”の朝のブッフェのサラダとオムレツ、トースト、中華粥、コーヒー
昼飯 「シートラン」の厚揚げ豆腐ともやしの炒め煮、グリーンカレー、ライス、冬瓜のスープ
晩飯 ナイトバザールのフードコートのチムジュム、ラオカーオ”BANGYIKHAN”(オンザロックス)