リトアニアの麻布

20リットルのデイパックひとつで1ヶ月の旅をしたことがある。荷物の軽量化は戦闘機やレースのためのクルーザーと同じく細部に至るまでおろそかにせず、歯ブラシの柄は半分に切った。また帽子は持たず、その代わり日中はタオルを頭に巻くこととした。

この装備で南アジアの雑踏に入り込み大きな河の縁を往くうち、帽子を欠いて赤道に近い地域を歩くことの愚かさに気づいた。中天高く上がった太陽の光はタオルの粗い地を通して頭皮を容赦なく熱し、堪らず現地の雑貨屋で芭蕉の葉による帽子を買った。こうして荷物を減らす計画の一端は、旅に出て数日のうちに破綻することになる。

荷物を減らす際に登山用の道具を使うことはかなり有効だ。登山用具には命への配慮がある。可能な限り軽く、可能な限り小さく、そして可能な限り心地よくそれは作られている。しかし当方はそれらさえ装備から外して肩の荷を軽くしようとしているのだ。

旅の荷物を極限まで少なくしたとき、安宿を泊まり歩くには少なくともゴム草履とビヴァーク用の寝袋が必要であることを知った。ゴム草履は汚れた便所で水浴びをするときに欠かせず、また薄い寝袋はホコリ臭い布団に常駐する" bed bug"を自らの皮膚に近づけないための隔壁として必需と感じた。

次の旅からは、これらを納めるためにデイパックではなくサブアタックザックを用いることとした。相変わらずかさばるのが帽子で、また普通のタオルを腰に巻いただけの姿で宿の回廊を歩けばさすがに官憲の目も心配だ。

帽子とバスタオルの役を同時に果たしてくれる道具を当時から持っていれば、長い旅もいま少しは楽なものになっていただろう。しかしリトアニアの麻布を知ったのはそれから30年を経てのことだから、もう間にあわない。

画像のalt
2008.0601