僕は希代の荷物嫌いだ。「荷物嫌い」 とは、「荷物を持って移動することを嫌う」 ということだ。
数日以上の旅行をする際には、荷物の大部分を宅急便にゆだねる。
1999年の1月、僕は京都の何必館にて、カルティエ・ブレッソンのポスターを買った。これを丸めて筒にし、宅急便の箱に斜めにあてがうと、そこには入らないことが判明した。こういうときの僕の落胆は、とても大きい。
ポスターを手に持たざるを得なくなった僕は、自宅へ送る宅急便の箱に、帰るまで使わないであろう品物を片端から納めていった。キャッシュカードさえも、例外ではなかった。
むかしひとりで南の国を旅したときには、歯ブラシの柄を短く切り落とした。帽子の替わりにタオルを頭へ巻き、シャワーを浴びたあとは、それで体を拭いた。軽量化とは、そういうことだ。
大きなサイフが苦手だ。
僕はここ10年ほど、ゴールドファイルのキーケイスをサイフにしている。7Cm×11.5Cmのサイズだ。サイドポケットには 「倹約したつもり」 の僕が好んで使う、営団地下鉄の回数券が納められる。
このサイフのたったひとつの短所は、耐久性に欠けるところだ。15ヶ月ほどもジーンズの尻ポケットで揉まれているうちに、ジップの部分がほころび始める。
どこかで見つけるたびに、僕はこのサイフをまとめ買いする。しかし最近では、目にすることも少なくなった。市場から、徐々に姿を消しつつあるらしい。
縫い目がほころびたくらいで、皮がよじれたくらいで、気に入った道具を捨てるのは心苦しい。どこかに "GOLD-PFEIL" の修理屋は、ないものだろうか。
いつのまにか日本は、修理の文化を捨ててしまった。「捨てて買う」 のみの国に、なってしまった。