「ウワサワさん、クロックの高いコンピュータほど、良いコンピュータと思ってるでしょ?」
「当然です。おっしゃる通りですね」
「いいえ実はそれは、典型的なアホの意見です。あなたは人生において、どれだけの無駄な時間を過ごしていますか?」
そう言われると、困ってしまいます。確かに僕は、計画的にシャカシャカとスケデュールに沿って生活しているわけではありませんから。
自分でも一番 「どういうワケなの?」 と思うのが、爪切りという行為です。ヒマな時間があっても、ついグータラして、家の中ではなかなかできません。ではどこで爪を切るのか? 列車の中です。これを悪癖と言わずして、何と表現しましょうか。
東海道線の車中で、バッテリー式のカーラーを髪の毛に巻いている女の人を目撃して、驚いたことがあります。よく考えてみれば、僕も人のことは言えません。
列車の肘掛けから、折り畳み式の小さな机を出します。新幹線の机はおおむね使いづらいのですが、東武日光線のそれは、B5サイズのコンピュータを使うには最適の高さとサイズです。で、ここで爪も切ります。
「爪が飛び散って、汚い」 って? 実はそうではありません。
地下鉄銀座線・日本橋駅の地下通路から、直接入って行ける丸善書店の地下1階。あるいは山手線・御徒町駅ガード下のマルキン商会。ここに行けば"JA.HENCKELS"の超スグレモノ折り畳み式爪切りを手に入れることができます。
収納時には全長60mm、幅11mmの小型ながら、舌を巻くほどの高性能。クロームとゴールドの2色が用意されているますが、僕には安い方のクロームでOKです。
普通、爪を切るときの風景に添えられる擬音は、サザエさんが4コマ漫画だった時代から 「パチン パチン」 というのが定番ですよね。いかにも爪が飛び散っている感じ。しかしこの"JA.HENCKELS"の爪切りに限って、そういう音は立てません。 「ググッ ブツン」 です。
折り畳んだ状態からバネ状の爪ヤスリを解除すると、平坦で美しい小さな金属が、いきなり爪切りらしい、あるいはバッタ系の昆虫のような形に立ち上がります。
その小さいけれども、応力のかかる部分は肉厚に削り出された刃を爪にあてがい、テコの部分に力を込めると 「ググッ」 と刃が爪に食い込んでいって、やがて限界に達すると、切り離された爪ははじけ飛ぶことなく、鈍く 「ブツン」 という感じで、静かに上刃と下刃の間に留まります。
手の指の爪を切った後には、同じく別売りの、これまた"JA.HENCKELS"のヤスリで、最後の仕上げにかかります。列車の中で本も読み終わり、さしたるEメイルの送り先も無い退屈なとき、この爪を切るという時間を持てる、何という有り難さ。
最初の話に戻れば、僕はやっぱりクロックの高いコンピュータが好きだなー。誰でもそうですよね? ということは、誰もが 「典型的なアホ」 ということになりますか?