「誰でも知ってる街のひとつ先とかさ、ひとつ手前とか、そういう場所が、いいんだよな」
「押上とか?」
「押上までは行かねぇよ、田原町」
「田原町?」
「うん、田原町ったって、かなり歩くよ。国際通りの左っかわをさ」
「フクチャンとか仁丹塔も越えて?」
「越える越える、国際劇場の先まで歩くよ」
「国際劇場?」
「いや、今はなんだ、そう、浅草ビューホテル。その先まで歩く。これが夏だとさ、けっこう辛いんだ」
「で、その先は?」
「六区を過ぎたあたりで、国際通りを横断する」
「浅草の裏手だね、で、どんなとこ?」
「普通さ、レヴァ刺しってのはさ、ペチョッとするだろ? 食うとさ」
「うん、ペチョッつうか、ペロッつうか」
「ところがさ、その店のレヴァ刺しは、サクッとするんだよ」
「サクッ? それ、美味いの?」
「うめぇよ、最高だよ。あんな感じのレヴァ刺し、あの店でしか食ったことねぇな」
「今の説明だけで、行けるかな?」
「行けねぇよ、路地の奥なんだから。ヘーキだよ、オレが連れてってやるから」
「うーん、楽しみだなぁ」
「この店、どんな本にも、どんなペイジにも載ってねぇからな」
「秘密の花園? 焼肉屋の」
「そうだな、確かにあそこは秘密の花園だよ、焼肉屋のな」