「やっぱ美味いよ!」
これが、鉄板の上でバチバチと脂を踊らせ、シュッワーっと、これまた油の霧を肉の表面から立ちのぼらせている、この店のステーキを口に入れ、咀嚼した瞬間に出る言葉です。
10代のころには、それこそ何を食べても美味いです。ところが悲しいことに齢を重ねるごとに、人の舌は肥えてくるんですね。そうすると、もう後戻りはできません。
10代のころによく食べた渋谷某横町某店の五目ヤキソバ。当時は 「美味いなぁ」 といつも感激していましたが、30歳を超えて再び食べてみると 「なんだ、もろグルタミンソーダの味じゃん」
20歳そこそこのころ、銀座のあるフランス料理屋へ行くと決まって飲んでいた、ブルゴーニュ南部の赤いワイン。このトシになると、味の薄いワインには欲が湧きません。
この店のステーキ、カリッと焼き上がった肉の表面に退路を断たれた内部の肉汁が、高温のために膨張でもしたのか、強く息を吹き込まれた四角い紙風船のように、ポッテリと膨らんでいます。
すかさずジャキジャキジャキッとナイフを入れ、これまた上出来のタレを載せて、飛び散る脂をものともせずに口へ運んだとき、ニカッと笑いながら、あるいは目を血走らせながら出る言葉は
「やっぱ美味いよ!」
何十年も変わらなく美味い味というのは、実は変わらないのではなく、日々向上し続けている、ということなのでしょう。ホントに美味いですよ、これ。