「ホトトギス季寄せ 稲畑汀子編 三省堂」 は、日本人が古来から愛でてきた、そして現在ではとかく忘れがちな季節の感覚を僕が楽しむ、小さくて豊かな印刷物です。
僕が四季の中で特に好きなのは、夏。その夏五月の季語から食べ物を選んでみると、以下のような "fascinating" な品々が、次々とペイジから立ち上がってきます。
夏わらび、 たけのこ、 ふき、 あかざ。
そら豆、 えんどう豆、 豆飯。 初がつお、 シャコ、 あなご。 きす、 サバ、 飛魚。
烏賊、 やまめ、 虹鱒。
それでは僕にとっての、夏五月の季語たるべき食べ物は何か? ホトトギス季寄せには掲載されるべくもない、ラーメンふじやの 「味噌冷やし」 です。
茹で上げた麺は、井戸水ででも洗っているのでしょうか、ヒンヤリどころではない冷たさです。これを作る人は、春先の雪解け水に手をさらすような苦労を、1日に何度も繰り返しているはずです。
これまたヒエヒエの味噌スープにその麺をそっとのせて、トッピングはトマト、モヤシ、胡瓜、ゆで卵、コーン、焼き豚。
この 「味噌冷やし」 が席に届けられるのももどかしく、先ずは麺だけを多めに頬張ります。鮮やかな、「あー、今年もまた、夏が来たんだなー」 という認識が、口の中に満ちていきます。
すぐさま再び 「夏の認識」 を得るべく、次のひとくちを可及的速やかに頬張ろうとして、最初のひとくちをノドに詰まらせ、思わずグラスの水に手が伸びたりもします。
スープを飲んで、こんどは落ち着いて、刻み胡瓜と共に麺を食べ、次に湯がいたモヤシと麺を箸にはさんで口へ運び、焼き豚の端を少しかじり、そしてまた今度は、麺のみを味わいます。
スライスされたゆで卵の黄身は崩さずに、スープと一緒に舌へ載せます。卵と味噌の相性は、いつでもどこでもバツグンです。
この 「味噌冷やし」、東京のどこかのラーメン屋で出せば、たちまち行列ができるのではないでしょうか。
僕は今年も、夏が長いことを祈ります。それだけ多く、この「味噌冷やし」 を食べることができますから。