酔う食べ物

たんぱく質原料にコウジカビを繁殖させて発酵させれば味噌ができる。中部地方の豆味噌のことを考えれば、米や麦などのデンプン質原料は必ずしも必要ではない。コウジカビを繁殖させた小麦と大豆を混ぜ合わせ、それを塩水に投入して発酵させる。それがドロドロしたもろみになったところで漉せば醤油になる。

味噌の語源は「未だ醤ならざるもの」とする説がある。しかし醤油にくらべて味噌の方がより単純な製法を持つことを考えれば、人は醤油よりも味噌を先に発明した可能性が高く、だから醤油を基準として味噌を「未だ醤ならざるもの」と定義したとする説には首肯しがたいものがある。

米にコウジカビを繁殖させて水の中で発酵させれば日本酒ができる。デンプン質原料を米から麦や芋に替えても酒はできる。

何が言いたいか。

発酵調味料として、アジアの人間は味噌という固体あるいは半固体のものと、醤油という液体のものの双方を発明した。それではなぜ発酵酔っぱらい料としての酒は、液体のみでしか作り出されなかったか。「食べて酔う」という食品が存在しないのは、味噌と醤油の関係を考えた場合、何やら片手落ちの感がある。

「酒粕を食べると酔いますよ」という意見があるかも知れないが、酒粕とは酒を絞った後の副産物で、わざわざ酒粕だけを作ろうとする人はいない。

人類はなぜ食べると酩酊する固体食品をその歴史の中で作らなかったか、というのがこのところの僕の疑問である。


日光産米
2009.0401