それほど不便でもない立地と明媚な風光を持つ岬に立って 「ここに大きなホテルを造ろう」 と考える人もいれば、ホテルへ泊まるたび「きのうからいくらも小さくなっていないこの石けんを、メイドさんはどう処理するのか」 と、そういう方へしか頭の向かない僕のような者もいる。
一膳飯屋で食事をしながら 「今日、あまったメシは店の人の夕食になるのだろうか、しかし食べきれないほどあまったときにはどうするのか、そういうリスクを考えると、自分にはとてもこういう商売はできない」 と思う。
小さな子供がテレビの取材者を真似てマイクに似たものを突き出し、「大きくなったら何になりたいですか」 と訊くので 「旅人です」と答えながら、むかしの風景がよみがえる。小学1年生のとき 「大きくなったら何になりますか」 と先生に訊かれて 「おとな」と返事をした同級生の顔を、7歳の僕はまじまじと見ていた。
すべての人は自分よりも優れていると僕は思っている。もっともそのすべての人は、自分より劣ったところもまた持ち合わせている。たとえばスティーヴン・ウィリアム・ホーキングは、短距離走において明らかに僕に負けるとか。
鉄橋の下を流れる大きな川の中ほどに、猫の額ほどの島がある。島は蔓性の灌木や茅のようなもので覆われ、球形の黄色い花がいくつも水面ちかくまで垂れて雨に濡れている。
黒い傘を差し、その黄色い花を眺めながら僕は、自分は一体なに者にならなれるのかと考えている。