検索エンジンのロマンティシズム

高校1年生の長男がまだ小学校4年生のころ、買ってあげた野球帽がある。

その夏、僕と彼は渋谷の公園通りにある、アメリカの野球用具を売る店にいた。好きな帽子を買うよう薦めると、彼は 「いらない」 と言う。長男はお祭へ行っても、何も買わずに帰ってくるような子供だった。僕はもう一度、好きな帽子を選ぶよう、うながした。

彼が 「じゃぁ、あれ」 と見上げて指した帽子は、"Brooklyn TipTops" のものだった。僕は 「よりにもよって、どうしてこんなに地味なものを選ぶのだろう?」 といぶかしく思った。

しかし、これは結果として良い買い物だった。長男はその後、この帽子を好んでよくかぶった。

学校の寮から帰省した長男は久しぶりに、家においてある "Brooklyn TipTops" の帽子をかぶった。そして 「ブルックリンティップトップスって、検索エンジンで探したら見つかるのかな?」 と言った。

僕は4つの検索エンジンに "BROOKLYN TIPTOPS BASEBALL" の文字を打ち込んだ。答えはすべて "No" だった。最後に "Google" で試してみると、あるアメリカのサイトがヒットした。

戦績は、1914年が Bill-Bradley 監督の下で77勝77敗の勝率5割。1915年が John-Ganze 監督と Lee-Magree 監督の下で70勝82敗の勝率4割6分1厘。成績不振により、監督がシーズン途中で交代をしたのだろうか。

選手名鑑には当然のことながら、19世紀生まれの選手がずらりと並ぶ。Three Finger Brownなど、名前を読んでいくだけでも楽しい。

選手たちは投手、捕手、内野手、外野手の別に整備され、個々の名前をクリックすると、彼らが生涯に渡り歩いたティームと、毎年の成績が詳細に残されている。

紺色の短いつばを持つ、グレイ地に青く "B" というマークの帽子。小さくポッテリとした旧式のグローブ。ルーズな木綿のユニフォーム。

彼らが見上げていた1910年代のニューヨーク、ブルックリンの空は、いったいどんな色をしていたのだろう?


Brooklyn TipTops
2002.0101